18話 風の大精霊シルフィリア4
刹那、風が爆ぜた。
空間が揺れ、風が咆哮する。
どこかで誰かが泣いた気がする。
それはたぶん、ノアだった。
「ま……まじで言った……この人……!……終わった……」
彼女は顔を両手で覆ったまま、崩れ落ちた。
風が優しく吹く。
森が揺れ、空が広がる。
「──馬鹿だと思ったよ。正直。アホ過ぎて呆れて殺そうかとも思ったよ。マジで。でも、見届けてみたら……それは、真実だった。風がそう言ってる」
「え……つまり」
「よく言ったね、契約者。ならそれが君の誓いだろう。世界で最も愚かで、最も誠実な力だ」
──死は、訪れなかった。
風が止む。
命は、助かった。
「──あっぶねーーーーー!!!!」
レヴィはその場に崩れ落ち、地面に手をついて叫んだ。
心の底からの安堵だった。
それはもはや悲鳴のようでもあり、勝利の雄叫びでもあった。
「マジで死ぬと思った……今、かなりやばったよね?シルフィリア様マジだったよね?!」
ノアは腰を抜かし、口をパクパクさせている。
「言ったの!? 本当に言ったの!?あの雰囲気で……っあの重圧で、真顔で……“それ”を……!!!」
「だって!自分を偽れなかったんだもん!!」
もはや開き直っていた。
「……よくできました。剣士君。絶対無理だとおもってたよ。命拾いしたね。」
「……どうも」
(他の単語言ったら?)
思わず身震いする。
やだこの精霊。すでに怖い。
目が一切笑っていない。
「さて、あとは君たちに残されたもう一つの問題だね。どうやって森から出るか。」
状況は相当改善していた。
まだ動けないとは言え、レヴィとノアの体力や魔力は改善しつつある。
「少し休んだら、出ようかと」
「はい。回復魔術も使えますし」
「それは重畳。──でも多分、君らは、森を抜ける事はできない。」
「それは、やってみなければ──」
「わかっているでしょ。無理」
「それでもここまでこれた」
「悪いけど、君たちがここに来たのはたまたまだ。次はない。」
シルフィリアの強い断定に2人は口を閉ざす。
「この森の幻覚と魔物は容易に君らを食い殺す。身をもって体験したと思ったけど?」
「……」
レヴィは思う
(だが、もどる道はすでにない。村への帰り方も朧だ。)
「根本的な解決はシヴェルを倒すこと。」
「シヴェル?」
「森の主。平たく言えば、森のボス。」
大分平たく言い過ぎだった。
「もし望むなら、君をかの主の元まで案内しよう。だが、望まないなら……」
「望まないなら?」
「何事もなく森の外まで案内するよ。」
森の風が静かに揺れ、空気が弛緩するのを感じた。
「つまり、もし森から出ようと思えば、俺達は森から出ることができる。」
「そうだね。」
「だけど、シルフィリア様としては、俺たちに手伝って欲しい事がある?」
「平たく言えばそういうこと。」
シルフィリアは説明を続けた。
「いくらでも手伝──」
「待って。慎重に決めてほしい。何故なら──これは君には関係のないことだから。私の個人的なお願いだから」
シルフィリアはシヴェルの説明を始めた。
「それを聞いて、考えてから決めて。怪我を治してからでいい。死ぬ可能性があるから。」




