17話 風の大精霊シルフィリア3
「あの、試練とは?」
「その剣。呪いの剣ってよばれてるけど、すごく危険なものなの。それには、もう一つの名がある。選定の剣」
シルフィリアは静かに歩み寄る。
「その剣には呪いがあり、人格を崩壊させるような強い幻覚作用がある。君は正気かな?」
「一応……」
「そう、それだ。君は呪いに晒されても、己の意志を持っている。だからこそ、私は君に選択の余地を与えたい。ふさわしくなければ、いずれ災厄を撒き散らす。よってここで私がその剣を殺す」
「選択……」
「そう。選択。この世界の問いに、あなたの心が答える。己の真実と向き合い、世界の選定にふさわしいか、私に示せ」
「つまり……俺は“何を望んでいるのか”を試される」
シルフィリアは微笑んだ。
「然り。それが風の試練。君は何を私に示す?」
──ここで。
ひどくあたり前のことはレヴィは胸中で確認する。
(「エロ」と口にすれば終わるな。)
──風は聞いている。
心も。思考も。すべてを“言葉”に変えて暴く。
ノアは既に口元をぎゅっと押さえている。
笑ってるのか怒ってるのか、判断できない顔だ。
シルフィリアは静かに微笑んだ。
「言っておくけど、ごまかしは通じない。私は風であなたの本心を見通す。
それが真実でなければ、そしてそれが選定にふさわしくなければ──契約破棄。試練失敗。悪いけどその処理の中で命の保証はしない」
少年は深く頷いた。
「──わかりました。誓います。俺は俺の真実をあんたに見せる。」
風が静かにうなずいた。
そして──試練が始まる。
──だが、答えは一つしかない。
レヴィはわかっていた。
自分の内奥に眠る、どうしようもなく愚かで、救いようのない、
だが完全に偽らざる“本心”。
──乳以外ない。
(言ったら死ぬ。確実にこの試練の領域では“即死”確定。でも、それ以外は全部嘘だ──)
何を望むのか。
何のために剣を握っているのか。
何を超えて、何を選ぶのか。
守りたいもの。
掴みたいもの。
そして、求めてやまないもの。
それは──
乳。
(クソ……ここまで来て……!
魂の核心が“乳”って、マジで世界に選ばれていいのか俺は……)
風がうねる。
“答えよ”と告げてくる。
心が叫べと、さらけ出せと、突きつけてくる。
だが、言ったら死ぬ。
レヴィは、震える唇を噛みしめた。
ノアがこっちを見ている。
シルフィリアの目が、冗談抜きで刺してくる。
(どうする? 魂を偽るか? 殺される覚悟で、真を語るか?)
──どうする。
「乳」か、それ以外か。
今、シルフィリアが問うているのは真実だ、
お前の欲望か、理性か、覚悟か、それとも──すべてか。
「俺は、自分を偽ることはできない。」
レヴィの声が、静かに、しかし確かに響いた。
森の葉が震えをやめ、空気すら緊張で軋んだ。
「たとえ、それがくだらないと笑われてもいい。
誰にも理解されなくても、後ろ指さされても、バカにされても……」
拳が震える。
「それが俺の魂の叫びなら、俺は、それを誇りに思う」
そして、レヴィは言った。
「俺は……乳を選ぶ。」




