16話 風の大精霊シルフィリア2
少しして、動けるようになったのでレヴィ達は移動する。
ノアに支えられるようにレヴィは進む
──開けた場所が見えた。
薄暗い森の奥に、忽然と広がる静かな空間。
そこで、ひとりの女性が立っていた。
彼女はノアとレヴィはをじっと見据えている。
「ようこそ。選定の剣の契約者くん。自己紹介をしようか。私はシルフィリア。風の精霊だよ」
その声は澄み渡り、空気を震わせた。
レヴィは咄嗟に声を上げた。
「いや……だれ?……選定の剣って何?」
「状況的に考えてレヴィの剣の事でしょ。第一、私、剣もってないもの」
「ノア、ナイフ持ってんじゃん」
「剣ではないと思うけど?」
シルフィリアはにっこりと微笑んだ。
「まずは回復おめでとう。剣士くん。さすがの回復力だ。」
「どうも。」
「なるほど、正気を保っているようだね。適性も高そうだ」
「は、はあ」
どうにも会話がかみ合わない。
「なあノア。シルフィリアって誰だっけ?」
「風の大精霊よ。ばあちゃんのお伽話によく出てきた。その魔力は地形すら変えると言われてる」
「すまん。薄着のエロいねーちゃんにしか見えねえ」
「レヴィ、バカ!!!!」
「お、怒んなよ。」
ノアがチできれている様子を見て、ちょっとマジメにいかなきゃやばいのかと思うレヴィだった。
レヴィは舌打ち混じりに内心を呪った。
(ノアの胸に欲情すれば幻覚を見破れるという、呪いの剣の狂った仕様のせいで、思考にノイズが走っているのか。)
──いや、違うな。これは言い訳だ。
目の前の女、シルフィリア。
──薄着すぎる。
露出というレベルではない。
布の面積より空気の方が多いような格好だ。
風が吹くたび、彼女の髪と布と──その下の“なにか”が揺れる。
レヴィは思った。
(エロ過ぎる。風の精霊というのが妙にそそる)
そのとき、横から鋭い声。
「……今どこ見てた?」
ノアだった。
睨んでいる。殺す気で。
「違う、これは違うんだ、これは幻覚を払うために必要な──」
「何回言わせるの!!!!」
幻覚より早く、拳が飛んできた。
「まじでやばいんだからね!!
まじで怒らせると終わるんだからね!!」
本気だった。
全身から、怒りと焦りと──なにより心配が滲み出ている。
「風の大精霊だよ!?地形どころか、国ひとつ飛ばした前例があるんだよ!?“うっかり”で!! “ちょっとムカついた”で!!」
「え、まじで?」
「まーじーで!!!!」
レヴィは青ざめた。
というか、今さら事の重大さを全身で感じた。
視線を感じて、ゆっくりと横を見る。
そこには、すでに微笑みを封印し、無表情で佇むシルフィリアの姿。
風が止まっている。
(あ……これ、やったかも)
レヴィは頭を下げた。
生存本能が叫んでいた。
「……もう見ない。決めた。エロいから。」
森に沈黙が落ちた。
焚き火の音も、風のざわめきも、すべてが一瞬で遠ざかる。
ノアは顔を覆ってうずくまり、肩を震わせている。
何かが爆発しそうだが、それが怒りなのか何なのかは判別不能だ。
風の大精霊シルフィリアは、しばらく沈黙──
──風が吹いた。
一瞬で全身の汗が冷たくなるほどの風だった。
「面白い契約者だね。ぶち殺したくなるほどに。君には“風の試練”を、受けてもらう。さっきまであった拒否権はすでにない」
あ、やっぱりやらかしていたと、レヴィは思った




