11話 魔瘴の森2
幻覚は続いた。
最後に死んだ老人。村の大人たち。子供。ノア。自分。
レヴィは全て一刀のもと切り捨てた。
──子供たちは、泣いていた。
そりゃそうだ。
目の前で、優しく呼びかけてくる村の人々の幻が現れて、
ほんの一瞬だけ幻の中に「本物の笑顔」のようなものが浮かび、それは異形となり、すぐさま惨殺死体へとなり下がった。
そこには血も涙もない。
ただ、圧倒的な殺戮と殺意があった。
「造形が甘いんだよなー、腕の長さも違う。あーおしい。だけど笑顔がきもい。ハイだめ。ノアはそこまで胸はでかくない。ハイ偽物」
幻覚に対して、ダメ出しをしながら、嬉々としてレヴィは進んだ。
次々と現れる幻覚。
黒い剣で親しい者をぶち殺し続ける男。
子供達の泣き声。
(地獄絵図じゃん。)
ガチ泣きしている子供達をなだめながらノアは思った。
「あんなみえみえの幻覚に誰がひっかかるってんだ。なあ、ノア」
「そ、そうね」
ノアは曖昧に笑った。
幻覚がひと段落つき、少し森の開けた場所で、一行は休憩もかねて腰掛けていた。
レヴィは警戒を解かず周囲に意識を向けている。
「ねえ。一個聞かせて」
ノアは声は静かだったが、どこか痛みを含んでいた。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「なんで……そんなにずっと戦い続けられるの?あんなのと、幻覚と……私、だめだな。実は最初の幻覚が出てきた時に、本当のおばあちゃんかと思っちゃった。実は生きてたのかなって。」
本物と見紛うばあちゃんのその幻を、少年が一瞬で斬り捨てたのだ。
ノアはそれを見た。子供達も。
幻覚が現実として焼きつけられるまで、幾度も。
「……ごめんな」
少年は剣を下ろしながら、そっと言った。
「でもあれは本物じゃない。あれは“食う”ために、
おばあちゃんやみんなの顔をしてただけだ」
けれど、少年の姿はどこか、冷たく見えた。
優しさと冷酷さが、背中合わせにそこにある。
「わかってるよ……でも、でも……」
ノアは言いよどむ。
子供達はすすり泣いていた。
「……だから嫌なんだよな、この剣」
少年は呟いた。
「斬るしかできない。
抱きしめる手が……もう残ってねえ」
幼馴染は、そっと彼の隣に並んだ。
そして、自分の手を差し出す。
「じゃあ、あたしが代わりに抱きしめるよ。
その分、あんたは剣を振って」
子供たちをひとりひとり、腕に抱いて、頭を撫でてやる。
泣きながら、でも前を向けるように。
子供達も、泣いて、泣いて、それでも前に進もうと、歯を食いしばっていた。
少年は、一瞬だけ目を伏せてから、再び前を向いた。
「……わかった」
「ちゃんと頼りなさい。ばか」
「はいはい」
ノアの存在が、子供達の勇気が、ありがたかった。
「ところで、私の胸がでかくないとかなんとか言ってなかった?」
レヴィは明言を避けた。
この重い雰囲気を維持することで、なんとかごまかせないかなと真剣に考えていた。
目の前の景色はすでに何度となく訪れた、先ほどの開けた場所。
けれど、それは魔障が作り出した幻影の迷路。
何度も同じ場所をぐるぐる回るうちに、体の疲労が限界に近づいているのを感じていた。特に子供達は限界だ。ノアにも疲労が見えている。
──そろそろ、体力的にまずい。
「くそ。前に進めねえ……」




