昔から見た夢、水の記憶によせて。
はじめに言っておくが私は夢占いを信じない。
ただの記憶の羅列になってしまうとは思う。
昔から私が見る夢の水辺の光景は異様だった。
フロイトとかユングの解釈ならそれなりの理由がつくだろう。
川はまず、澄み切った水が流れている。
それを見に近づくと何かが水の中にいるのだ。
最初はいつも水草の塊と思う。
良く観ると、それは細い蛇のような。
または胴が長い魚のような。
ひとつふたつなら美しいが、それが塊になって流れていく。極彩色の生き物たち。
それが川の中央部に層になっている。
おどろおどろしくて恐ろしくて目が離せない。
水を汲まなくてはならないのに。水はとても綺麗だけれど、この化け物も一緒に掬ってしまうのではないか、と。
そして海。いつも海の側にいるのだが。
だいたいが防波堤の上。または海沿いの建物の屋上のへり。その尖った先の部分にいる。
一歩足を踏み出したら落ちる場所なのだ。
目の前に広がるのはどこまでも平らな海。
銀色に煌めく海面が美しい。
それからの展開はいつも一緒だ。
晴れた空が段々と暗くなっていく。もう何十回と見た光景だ。波がこちらに押し寄せる。
盛り上がって。黒々とした色で。
ギュスターヴ・クールベの波の絵をご存知だろうか?
あれとまったくおなじ光景が目の前に迫ってくる。
それを子供の頃から何回と何十回と見るものだから、私は前世津波で死んだのではないかと思ったのだ。
そう、何度も何度も。海の夢を見る。いつも最初は美しい。
今回はこのまま無事に過ぎるのではないか、と思う。
そしてそれは裏切られるのだ。
しばらく水の夢を見なくなったことがある。
それはあの震災の後だ。
本当の津波は、クールベの絵のようなものばかりではなかった、と脳が認識したのかもしれない。
それで悪夢から解放されたのかもと。
――そして最近。
何故か、またあの恐ろしい夢を見る。