ひらひら本と ページのけんか
ある雨の日の午後、本棚の中で、ひらひら本は静かに眠っていました。
でも、ページの奥では、いつもとは少し違ったざわめきがしていました。
「なんで、ぼくの話は途中で終わったのさ!」
「あなたが出すぎだからよ。私の場面、すごく小さくなってた!」
ページの中では、登場人物たちがけんかをはじめていたのです。
空の旅に出た鳥の少年。海の記憶を持つ少女。砂漠を歩いたネコの探検家。森で迷ったフクロウ博士。
みんな、少しずつ怒った顔で、ふくれっつら。
「ページって、ぼくたちの場所でしょう?なのに、誰かばかり目立ってるなんて!」
「わたしの台詞、ぜんぶ小さくなってた!」
「後ろのページ、ぜんぶ雲の話で埋まってるじゃないか!」
ひらひら本は、そっとページをふるわせました。
雨の音がひびいて、しずかに言いました。
「ねえ、みんな。ぼくの中で、物語って“ひとつの風景”なんだ。
誰かひとりだけじゃなく、みんなの言葉が重なって、ようやく風になるんだよ。」
でも、登場人物たちはまだすこしムスっとしていました。
それぞれ、自分の物語を大切に思っていたからです。
その夜、本は自分のページを少しだけ空けてみました。
すると、そこにぽつりと誰かの思いが浮かびました。
「仲間がいないと、ぼくは空を飛べない。風をくれるのは、いつも誰かの言葉だった。」
その言葉に、森のフクロウ博士がうなずきました。
ネコの探検家が、そっと砂をふるって場面をあけました。
海の少女が、波の隙間に“風の道”を描きました。
「ごめんね。ちょっと張り切りすぎてた。」
「こちらこそ、ちゃんと声を聴かなかった。」
ページの中は、静かにやさしくなっていきました。
物語は、また少しだけ広がったみたい。
「また、ひとつ物語がまとまったみたい。」
ひらひら本は背表紙をそっとのばして、
ページをふんわり閉じました。
そして雨がやんだころ、物語の中の風もすこしおだやかになったのでした。
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