ひらひら本と ものしりのぺーじ
ある日、ひらひら本は子どもの机のすみで、静かに横になっていました。
表紙のしわが、旅の記憶を刻み、ページの間には――小さなモノたちがこっそり顔をのぞかせていました。
木の葉
きっぷ
古い硬貨
安全ピン
らくがきメモ
虫めがね
「これらは…なぁに?」
本はふしぎに思いながら、そっと身じたくをはじめました。
すると、その夜のことです。
ページとページのすきまから、声が聞こえました。
それは、挟まれていたモノたちの、記憶のささやき。
「ぼくは、秋の木の下で拾われた葉っぱ」
「わたしは、海沿いの駅で使われたきっぷ」
「わたしは、お父さんが昔使っていた小さな硬貨」
それらの声は、ゆっくりとページにしみこみはじめ、やがて文字となっていきました。
ふわふわと浮かび上がったその言葉たちは、知識ではなく、“経験から生まれた”のでした。
葉っぱのページには、季節と木々のことが
硬貨のページには、お金の旅路と歴史が
らくがきのページには、こどもの想像の力が
朝になって、子どもがページをめくると、そこには知識が並んでいました。
けれど、それはただの教科書ではなく、実体験を通して得られた信頼できる専門書――
誰かの記憶が、誰かの手ざわりで、ちゃんと生きている言葉たち。
「この本、なんだか ものしりになってる」
子どもは笑って、ページのあいだに、今日行った恐竜博物館のチケットを挟みました。
きっと、それもいつか文字になる。
「また、ひとつ物語がふえたみたい」
ひらひら本はそっとページを閉じ、
背表紙に、小さな“目次のしるし”を刻みました。
それは、本棚の中で光りながら――次の専門をそっと待つのでした。
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