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第7順

すみません

予約設定ミスってました…


 毒を口にしたと思われる人を箱の中へと入れ、すぐに放り出す。

 そんな流れ作業の中、どういうワケか私が一番最後になりました。


 私よりも後に来た方もいらっしゃったのですが……。


 何故だろうかと思っていましたが――箱の中に入って理解します。


 箱の中にある一室。そこで、変わったデザインの椅子に殿下が腰を掛けております。

 そして、モカ様も中へと入ってきました。


 ……これは……大ピンチ……というやつでしょうか?


「モカ。この椅子すごいな。俺も欲しい」

「箱の中限定です。諦めてください」

「それは残念だ」


 どうやらあの変わったデザインの椅子は座面がくるくると回る様子。

 背もたれに体重を預けたまま殿下が回っています。


 その様子を見ながら、モカ様は殿下を訝しげに見ながら訊ねます。


「椅子の性能が欲しいのですか? その回る部分が欲しいのですか?」

「どっちもだな」

「二百年後くらいに期待すれば良いかと」

「なるほど。気長に待つか」


 気長に待てる時間じゃないですよね!?

 思わずツッコミを入れたくなりますが、そんなことをしたら明らかに不敬。グッと堪えます。


 ややしてくるくる回っていた殿下がその動きを止めると、こちらを見ました。

 真面目な顔でこちらを真っ直ぐ見て――やがて口を開きます。


「さてルツーラ・キシカ・メンツァール嬢」

「はい」

「あー………………すまん。ちょっとストップだ。目が回って気持ち悪い」


 あの、そういうリアクションに困るのやめて頂いてもいいですか?


「はぁ」


 ものすごく残念なモノを見たような顔で、モカ様が指を鳴らします。

 すると、俯きながら眉間のあたりを揉みしだいていたサイフォン殿下が動きを止めました。


「ピタっと消えたぞ。すごいな箱の中」

「限界や上限はありますけど、私の望む通りの結果を得られる異空間のようなモノなので」

「つくづく面白い魔法だなー」


 面白い? 恐ろしいの間違いでは?

 この箱の中においては、誰もがモカ様に逆らえない空間ではないですかッ!?


 そこに閉じ込められて、孤軍状態の私は怖いだけなのですけどッ!


「さて、改めてだ。ルツーラ嬢」

「……はい」


 私は一体何をされてしまうのでしょうか?


 実はサイフォン殿下とモカ様も前回の記憶があるので、ここでさらなる仕返しとかそういうパターンだったりします?


「そう怯えないでくれ。別にとって食おうというワケじゃあない」

「今まさに箱に取って食われてる状態なのですが」

「わははは。なるほど間違ってないな」

「間違ってます。私の箱は人食い箱(ミミック)ではないので」

「そうほっぺたを膨らますなモカ。ますます可愛くなってしまうぞ」


 さらっとすごいことを言いますね。この方。

 でも、モカ様にはあまり響いていない様子。


 雰囲気からして、普段から口にされているのではないでしょうか?


「とりあえず殿下。話を進めてください。メンツァール伯爵令嬢もだいぶ困っていらっしゃるので」

「そうだな」


 モカ様の言葉にうなずき、サイフォン殿下からおふざけの空気が薄れていきます。


「ルツーラ嬢、まずは感謝を。おかげで大規模な毒の蔓延が防げた。ターゲットは俺のようだけどね」

「いえ。私はたまたま違和感を覚えただけでしかないので……」

「その気づきに助けられたのだ。素直に受け取ってくれ」

「……はい」


 殿下からの感謝を無碍にするわけにはいきませんからね。うなずきましょう。


「それと、私の護衛騎士リッツとモカの侍女カチーナから聞いたが、怪しい給仕を足止めしてくれていたそうだな。そのコトも感謝させてくれ」

「はい」


 余計なことをしてしまったせいかもしれませんね。

 でも、あの状況であの給仕を逃す気もあまりなかったのは確かです。


 ……って。あ。


 なるほど。そうか。

 通りで給仕に見覚えがあったはずです。


 前回、リッツとカチーナから逃げようとして失敗する給仕の姿を見ていましたね。 


「多大な貢献をして頂いた状況で、これを口にするのは非常に心苦しいんだがな?」

「…………」


 あ。無自覚に思い切り顔を引きつらせてしまいました。

 でも許して欲しいところです。この切り出しでロクな状況にならないのは決まってますから。


「キミの魔法を少し借りたい」

「――と、申しますと?」


 私が訊ねると、サイフォン殿下はモカ様に目配せをします。

 それを受け取ったモカ様は一つうなずき、サイフォン殿下の横へと移動しました。


「順序を入れ替える魔法。それによって混乱させて給仕の動きを止めていたと伺いました。

 この魔法は、使いようによっては、黒幕の正体を吐かせるのに使えるのではないかと思いまして」

「それは……」


 出来なくも無い。

 というか、あの給仕の爵位やその他色々の条件を満たせるのであれば、余裕でできると思います。


 ただ、あまりこの魔法は表に出したくないというかなんというか……。


「本質的には精神操作の属性であるコトを、気にしてますか?」

「……はい」


 モカ様に見抜かれてしまったので、誤魔化すことなくうなずきます。

 なんだかお茶会の時と立場が完全に逆になってしまっているようで、身体が震えてきました。


 ……引きこもりの人見知りであったモカ様は、こんな状況で立ち上がって反撃してきたのかと思うと、本当に――私の器の底が知れますね。


 上半身だけとはいえ箱から身体を出して微笑む姿は、こうやって思い返してみるととても神々しく思えてきますね。

 ビアンザやマディア辺りは、私から鞍替えして信仰してたりしそうです。


 それと対比してみると、つくづくあの時の自分の小物っぷりがいやになりますわ。


「事件調査を行う騎士たちの一部では。精神操作の条件などを共有するコトを承諾して貰いますが、不必要に外部にその情報を漏らすコトはありません。

 むしろ、協力して頂けるのであれば、その属性の本質の隠蔽に協力もします」

「…………」


 これは――なんとも難しい話ですね。

 状況が状況ですし、断り辛いところは多々ありますが……。


「あ。それと――」


 私が胸中であれやこれやと考えていると、モカ様は何か思い出したように手を叩きました。


「サイフォン殿下はなし崩しに協力させる気のようですが、私はそういうフェアじゃないのは好きではありません。

 ですので、ここで断ったからといって箱の中に閉じ込めたり、何かやったりというデメリットは生じませんので安心してください」


 それはどこまで信じていいのですかね?


 サイフォン殿下に、ドリップス公爵令嬢のコンビですよ?

 前回で色々あったとか抜きにして、次世代の爵位最上位コンビが、そんな簡単にことを済ますワケありませんよね?


「モカ……まるで、俺が腹黒みたいな言い方だな」

「違いませんよね?」

「違わないな」


 そんなやりとりを見せられたらますます怖くなるのですけれどッ!?


 まぁ、それはそれとしまして……。


 今の私がおかれている状況を真面目に考察した場合なのですが……。

 これ――断った方がデメリットが大きいのでは? というのが結論となりました。


「わかりました。協力します」

「……いいのですか?」


 驚いた様子のモカ様を見て、私は胸中で思い切り顔を顰めました。

 これ――本当に、こちらを(おもんぱか)って断ってOKと口にしたやつですか?


 私……すごい判断ミスしてしまったのではありませんか?


 まぁうなずいてしまったので諦めましょう。

 それに、協力することのメリットはわりと大きく、断るデメリットはかなりキツそうなのは事実なのですから。


「はい。お二人からしてみると断って問題がないとしても、こうやって箱の中で長々とやりとりした以上、妙な目を向けられる可能性があります。

 加えて、毒による事件を防いだコトで、これを起こした黒幕からも目を付けられてしまった可能性だってありますでしょう?

 それならば、ここで断るよりも、協力するコトでむしろ保身にはかろうかと」


 私がそう口にすれば、二人は理解したようにうなずきました。


「協力感謝する。そのように判断したのであれば、こちらとしても君の身の安全を可能な限り考えねばならないな」


 サイフォン殿下がそう口にすると、モカ様は少し思案した様子をしてから、私に背を向けます。


 殿下を少し面倒くさそうに押しのけて、テーブルに置いてあった箱を触ると、ややしてどこからともなく小さな箱を取り出します。


「メンツァール嬢。こちらを」

「これは?」

「ちょっとしたお守りのようなものだと思っていただければ」

「お守り、ですか?」

「あとあとで使い方のようなモノが現れますので、そちらを参考にしてください」

「はぁ……」


 なんだか分かりませんが、箱魔法由来のお守りというのは確かに頼りになるかもしれませんね。


「さて、君に魔法を使って貰いたい状況になったら連絡する。その時はすぐに登城して欲しい。その際は着飾る必要は無い。仕事服のようなモノがあればそれで構わない」


 サイフォン殿下の言葉に、私はうなずきます。

 帰ったら両親にも説明しなければなりませんね。


 ……いや、説明して良いのでしょうか?


 前回ほど踏み込んでは居ませんが、やはり今回も両親はフラスコ殿下派閥。

 変に説明すると、面倒なことになる気もしますね。


 少し考えて、私はこの場で口にしてしまおうと判断しました。


「あの……協力するといったそばから、このようなコトを口にするのは恐縮なのですが……」

「構わない。懸念があるなら言ってくれ」

「両親がフラスコ殿下派閥なのです。まだ過激派にはなっていないと思いますが」

「それは……ふむ。つまり君は、この毒殺未遂を過激派の仕業であると?」

「確証はありませんが、サイフォン殿下が出席する場で、このような広範囲に影響があるようなコトを起こす以上は、そうでないかと」


 それもそうだな――と、小さくうなずき、サイフォン殿下は何かを考え始めます。

 ややして、同じように少し思案していたモカ様が何かを思いついたように顔をあげました。


「メンツァール嬢は、文官か騎士に興味はありませんか?」

「どちらもあまり興味はありませんが――どちらかを強いてあげるとすれば、文官……でしょうか?」

「では小規模な仕事体験や見学会のようなモノが催される……という形にしましょう。構いませんよね? サイフォン様?」

「ああ。口実を作るのだろう? それにまだ見ぬ有能な者が見つかる可能性もあるから、口実だけでなく実際に開催するのも悪くないな」


 ……こうして、前回では存在しなかった催しが急遽開催される予定が生まれてしまいました。


 私は、どうすればいいのでしょうか……?


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