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巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~[引きこもり箱入令嬢の外箱]  作者: 北乃ゆうひ


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第45順


 贖罪の私が居なくなったという喪失感がないワケではありません。

 全てが一気になくなったワケではありませんが、日々何かが抜け落ち、一周目の記憶や、一周目への感情がどんどんと薄れていく自覚はあります。


 だけど、それでもこの世界(2周目)で構築していったものは、何一つ無くなってはいません。

  

 だからこそ、贖罪の私に恥じない私で有り続けようとそう思います。

 彼女がいたから得たものはたくさんある。それを失うのは、贖罪の私にとても失礼なことですから。


 それはそれとして、贖罪の私は――私の中から消えたあと、どうなったのでしょうか。


 一周目の私の元へと戻ったのか、本来は有り得ない存在として、時の彼方に消えたのか……その行方だけは少し心残りかも知れません。



  ・

  ・

  ・



 私の中に何かが戻ってきた感覚がある。

 同時に、知らない記憶や知らない感情が頭を、身体を巡り出す。


 それらはぼんやりとしていながら、けれどもとても大切なもののよう。


 漠然とながら、それは『順』の魔法によって(もたら)されたものだと理解できます。


 魔法封じはされていますが、なんらかのキッカケによって『順』が勝手に動き、その結果を持ってきたのでしょう。


 勝手に動いた『順』の魔法がもたらした、私でない私の記憶と感情。

 それをハッキリと認識はできませんが、それらはきっと私が間違えなければ得たかもしれないもの。


 良いとか悪いとかではなく、もしもの自分が見つけただろうもの。


 処刑の日取りは決まりました。近々私たち一家は人知れず処分されることでしょう。

 その前に、そんな悪くない日々を送る可能性があったと知れただけでも、そう悪くない気分ですわね。


 穏やかな気持ちで、自分の中を巡る感覚に身を委ねていると、扉の外から声が聞こえてきました。


「食事を持ってきました」


 いつもの、小さな声のどこか薄暗い感覚の男性の声。


「…………」


 なのに、その声に、身体を巡る何かが強烈に反応します。

 その意味を、不思議と正しく理解できました。


 なるほど。

『順』の魔法が見てきただろう、もしもの世界の私の思い人――なのでしょう。

 あるいは、私が愚かな行いをしなかった場合の婚約者であった人といったところだろうと予想はできます。


 だとしたら、多少のきまぐれを見せるのもありかもしれませんね。

 なんとなくですけれど、この人をこのままにしておくと良くない破滅を向かえてしまいそうな気がします。

 それを防げと、『順』の魔法に言われている気がするのです。


 だから――これから愚かな行いをした破滅を向かえる者(センパイ)からの、些細なお節介でもしましょうか。


「ここ最近は、以前と比べて少々声色が変わりましたわね。私と言葉を交わしても刺激が得れなくなってしまったのかしら?」

「え?」


 少し驚きながらも、扉の向こうにいる『彼』がこちらに意識を向ける気配を感じます。


「これまで少々言葉を交わしてきた時の様子から思うに、貴方の言う刺激は、他人に起こる変化を通じて自分の感情が動くコトを指し示しているのではないかと思います」

「……ボクですらそれを分析しきれていなかったのに、よく分かりますね?」


 抑揚のない淡々と喋り方ながら、どこか不機嫌そうなあるいは楽しそうな色が混ざった声。


「分析しきれていない? 違いますわ。他者との交流を(わずら)わしがって避けていた結果、分析の機会を(しっ)しただけです。

 貴方のいう刺激とは他者あってのもの。他者もなく分析したところで何が分かるというのですか。ただの怠慢の言い訳をカッコ良く表現するのはおやめなさいな」


 ……順の魔法が色々と教えてくれている気がするので、その感覚のままに喋っておりますけれど、この煽りであってます? 大丈夫です?


「知ったような口を!」

「あら? どうしてお怒りなさっているのです? とても刺激的な体験をされている最中ではありませんの?

 それとも、絶望や諦観といった負の感情に揺れ動く人から感じる刺激が楽しすぎて、それ以外の刺激を不愉快だとでも錯覚しております?

 自分自身が求める刺激の正体すらロクに分析できていなかった天才気取りが、いっぱしの不快感を口にするのは、それこそ不快ですわね」


 いや、楽しいですわよ? とても楽しいのですけれど。

 本当にこんなめちゃくちゃに煽って大丈夫なのですか?


 ねぇ? 何となくふわっとした感情と言うべき言葉は伝わってきますけど、理由とか動機とかがまったく伝わってないのですけれど、『順』?


 あなたは何を私の中に持ってきたのですか!?

 ……まぁ、とりあえず煽って煽って、刺激に対する幼い衝動を成長させればいいというのは分かりましたけど。


「別に貴方の言う刺激は、他者が崩れ落ちていく変化以外にも感じられるのですよ。

 ただラクに刺激を感じるコトを求めた結果、他者を追い詰めるのが一番良いと錯覚しているだけです」

「この退屈な世界で刺激を得たいと思ったら、それが一番ではないですか。それをどうして貴女にそこまで言われなければならない!」

「その発想が幼稚なのです。面倒くさがりと退屈を拗らせた結果、他者を絶望させて心を折るコトに楽しみを見出すなど、まったく健全ではありませんわ。

 もっと健全に、正しく自身の刺激を得られる手段を探すべきです」

「良く言う。貴女など、もう先がない人間の言うコトか」

「ええそうです。私は愚かにもこの幽閉邸で絶望したからこそ得られた答えがある。けれど、その答えが正しいかの答え合わせの機会はありません。待っているのは処刑ですので」


 これは順魔法が(もたら)した知識や記憶とは無関係の私の本音です。

 反省と、答えは得ました。けれど、それを活かす機会はもうありません。


「ですが、貴方はここで私と言葉を交わしたことで、負の感情以外からも刺激が得られるのだと知れました。

 貴方の未来は、私と同じく幽閉邸でしたが、まだそれが確定される前に知れたのです。なら、貴方は捕まらない未来を選べるのではないですか?」

「……貴女はなんなんだ? どうして急にそんな話をする?」

「そうですね。私の持つ魔法の影響――でしょうか? 可能性の一端。それを一つ垣間見たのです。その可能性の中で、貴方と婚約する私という存在がいただけの話。それを見たからこその、ただの気まぐれです」

「……その話が本当だったとして。どうしてボクがその婚約者であると分かった? 会話は全て扉越し。顔を見せたコトもなければ名乗ったコトだってないのに」

「当然の疑問ですわね。でも――」


 これは私の感情ではない。

 私の中に押しとどめられ、大きくなって弾けただろう『順』の魔法が見てきただけの話。その断片。


 けれど、それでも分かる。

 魔法とは、自分自身と切り離せないもの。自分の心や感情が属性という形をとったもの。


 だからきっと、これは、現実(ココ)とは順序の違う世界に存在する、私自身の感情。


「――その可能性の世界では、私は貴方に強くお慕いしていたようですので。

 そんな殿方の声を……私が間違えるなど、あってはならないコトでしょう?」

「……!?」

「だったら、だとしたら……なおさら解せない。それは、この世界では果たされない思いであると確定しているだろう。なんで絶望や諦観もなく、そんな淡々と語れるんだ……なぜボクはキミから暗い刺激を感じないんだ?」


 うん。この反応が出たなら大丈夫ですわね。

 その疑問を宿題とし、永遠に考えこんでくれるのであれば、彼は他者の絶望がもたらす甘美な刺激に飲まれたりはしないでしょう。


 でも――うん。これは『順』の願いからズレてしまうのですけれど。

 私自身はどうしてもやりたいことがあるのですよね。


 ふふ。

 この些細なやりとりで一人の男を狂わせるなんて、なんとも悪女らしいではありませんか。


 反省したし、自分なりの答えというのも得ました。

 けど、それはそれとして、私という女は本質的に悪女の資質があるようです。


 だから――


「私が絶望しない? 当たり前ではありませんか。魔法の影響とはいえ、罪を犯さず淑女として伴侶を得た世界があると知れたのです。

 その伴侶たる殿方とこうして言葉を交わせたコトが嬉しいのですから。

 何より――」


 もっとこの男を狂わせるようなこと――


「今この瞬間、そんな殿方の心の傷として一生残れるだろうコトが、私はとても嬉しいのです」


 ――思い切り言ってしまっても良いですわよね?


「え?」

「ふふ。気づいていませんか? 貴方の心に、私という傷が深々と根付いたのですよ?

 その傷は私が居なくなったあともずっと貴方の心を刺激し続けることでしょう。貴方が求めた刺激がずっと続くのです。その刺激を私だと思って、存分に愛でていただければと思います」

「…………」

「それを思えば、絶望や諦観など、どうというコトもありませんから」


 扉越しでこちらの顔が見えずとも、ニッコリと人生最高の悪女笑顔(レディスマイル)を浮かべてみせました。


「感謝でも後悔でも構いませんわ。ずっとその傷と刺激を味わってください。

 反省しようとも私は悪女。そんな悪女の心を折って絶望させた時に生じる刺激を味わおうなどと思った自分の行い、反省しながら、ね?」

「ボ、ボクは……」

「その上で――私は心からお慕い申し上げますわ。ゲイル・シャイナ・パシャマール様」

「え? なぜ、ボクの名前を……?」

「婚約者、あるいは相思相愛の果てに結婚する可能性があったかもしれない素敵な殿方。どうかこの世界でも、破滅だけは避けていただければ幸いです」


 なんだか心の奥底で『順』がやりすぎだー! と騒いでいる気がしますが、どうでも良いですわよね。


「顔も分からぬゲイル様。未来永劫――貴方様の心の片隅に、私の思い出を置いておいてくださいませ」


 出会いも何もロクにないこの幽閉邸で、食事などを持ってきてくれる彼とのやりとりが、些細な娯楽で、心の癒やしでした。

 だから、幽閉された故の壊れた心の動きだとしても、多少の懸想をしていたというのは嘘ではありませんからね。


 人生の最後に――そんな方の心の傷になれたのですから、それなりに上等ではないかと思うのですよ。


 私という傷を抱えた貴方とも、是非ともゆっくりお話したいところですわ。


 ……そう思っていたのに。


 どうして、翌日以降――来なくなってしまったのですか!?

 食事係辞めたとか正気ですか!?


 ねぇ、『順』――私、何を間違えたのでしょうか?


 え? 後半全部? そんな馬鹿な……。


 まぁでも、ゲイル様の傷として一生残れたら嬉しいというのは、嘘ではありませんしね。


 誰にも知られぬことなく消えゆく愚かな娘ではなく――

 反省しそれでもなお他者の心に傷を残す悪女として、誰かの記憶と心にちゃんと残れるのであれば、それはそれで悪くない終わり方でしょう?


 ああ、でも。

 願わくば――


 処刑のあとでも構いません。


 願わくば――

 女神様。私とゲイル様が幸せにしている世界を、少しだけ覗き見させて頂けないでしょうか?


   ・

   ・

   ・


次回、最終回٩( 'ω' )و

来週ではなく、明日にでも公開できればな……と思っております

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