第40順
「ふざけないでッ!」
「ふざけないでくださいッ!」
本気で怒っている様子の二人に、私は目を瞬きます。
「これ……本気で、怒られてる理由が分かってないヤツですよ、ティノ」
「ええ。そのようね」
二人して頭を抱えだしてしまって……いえ、そのお二人を困らせるつもりは微塵もなかったのですけど……。
「そもそもルツーラ。貴女、自分が幸せになっちゃダメとか考えてない?」
ティノの言葉に、私はうなずきます。
「だって、私は罪人です。それも幽閉邸に入れられて、処刑を待つだけしか許されないような、そういう罪を犯した人間です」
そう口にすると、ティノもゲイル様も、それを否定するような表情を浮かべました。
「そもそも、その思考は間違っていると――とボクは思います」
「そうね。私も同感」
「そう言われましても……」
反省したと言ったところで、許されざる罪です。
それを犯したという事実は間違いなく存在しているのに――
「いいですか、ルツーラ嬢。確かに一周目は許されざる罪を犯したのでしょう。ですが、二周目では、何一つ瑕のない才女ではありませんか」
「そうよ。少なくとも一周目の罪を自覚し、反省した上で挑んだ二周目に罪はあったかしら?」
「いえ、でも、それは……反省したからできたコトで、その反省だってそのまま幽閉邸にいたのであれば処刑されるような罪を犯した者によるワケで……」
そう。
私はどれだけ反省しようとも許されない罪を犯した。
だから、例え二周目だろうとそれは背負うべきもの。
ましてや――本物の二周目のルツーラではなく、その身体を間借りしているだけの、一周目からやってきた魔法人格な自分です。
「私は一周目の罪より生まれた存在です。
……で、ある以上は、業は背負ってしかるべき。そんな自分が、伴侶を得て幸せになるなど、どう考えても許されないではありませんか」
「誰が許さないっていうのよ?」」
「え……? それは、王族とか法律とか……」
ティノの問いに答えると、ゲイル様がフフっと怪しげな笑みを浮かべました。
「一周目の罪を裁き、罰を与えるコトのできる王族や法律は、二周目には存在しませんよ」
……それを言われると、確かにそうかもしれませんが……。
「いえ、ですが……」
「裁ける人がいたとしても、別に罪を犯した人が幸せになっちゃダメって法律はどこにもないしね」
「……ティノ……」
「あのさ、ルツーラ――罪を犯しても反省もせず好き勝手やってるヤツが幸せになるようならその主張も悪くないかもしれない……けど、貴女は違うでしょう?」
待ってください。
どうして二人はそんなにも、こんな私に……そんな風に……。
「え、あ……でも、それは……」
ああ――言葉が出てこなくなってしまいました。
私は、こんな私が……。
例え裁く人のいない世界であろうと、私が犯した罪は……。
「何よりも、よッ! 貴女は罪を反省して、家族の為、友達の為、本当は怖かったりシンドかったりするのを押し殺して、必死にやって、歴史を変えて見せたじゃない! 貴女が助けたかった人たちが助かってるじゃないッ! そんな風にがんばってる女の子がッ、幸せになっちゃダメな世界があるっていうなら、そんなの世界が間違ってるに決まってるわッ!
その理屈で言うなら、私だって幸せになれないしッ、報われたらダメってコトになるじゃないッ! 私は家族をハメて、罪人に仕立て上げようとしている女よッ!!」
「……ッ、それは……そんな言い方――特に後半は、反則ではないですか……ッ!」
捲し立ててくるティノへ、私もささやかながら抵抗を。
いえ、本当に後半の言葉は反則すぎませんか!?
「ふふ、すごいなティノは。感情的になりながらも、ぶつける言葉はわりと理論的……しかし二人のぶつかり合い、いい刺激になる。何か蚊帳の外に置かれ出したし、もう見守るしかなくなっちゃったな……」
ゲイル様もゲイル様で、なんで急に傍観者モードに入ってるんですか!?
「そもそも私は本来の私でない以上、やっぱり勝手に幸せになるワケには……」
「知らないってば! 私が言っているのは二周目の貴女ではなく、一・五周目のッ、私とお話をしている貴女よッ!」
ティノらしからぬ強い語調。
何より――
「ティノ……貴女、なんで泣いて……」
「まともな友達の居なかった私にとって……ちゃんと友達だって言える数少ない子が、幸せになるのを諦めてて、しかもその諦観を当然のように受け入れてる姿を見せられて、冷静でいられるわけ、ないじゃない……ッ!」
「ティノ……」
「ルツーラのばーか、あーほ、かんがえなしー、まぬけー」
「……急に語彙力なくなりましたね」
いえ、呆れている場合ではないのでしょうけれど……。
「ルツーラ嬢。貴女の考え方は、友人が泣いて止めたくなるモノであると理解して頂けましたか?」
「……ゲイル様」
穏やかな笑みで、けれど真剣にゲイル様が私を見ています。
「大罪を犯した時、処刑されねばならない――というのは単に、犯した罪が大きすぎてどんな態度を見せたところで、法律や見せしめ、その他諸々の理由があって、司法がそうせねばならないだけなのですよ。
ようするに反省した胸中や、思いを見せる機会が、ルール上制定し辛いからに他ならないのです」
「……ですから、私は……」
反論しようとする私を制して、ゲイル様は続けます。
「ですが、貴女は今、奇跡としか言いようのない出来事によって、その反省の胸中や、思い、態度を見せる機会を得ました。
貴女を裁く者がいないこの世界において、反省によって生じた罪悪感と使命感を持って、その覚悟と態度を示したと言っても過言ではない」
「…………」
「一方で裁く者がいないからこそ、貴女がどれだけ反省の態度を見せても、判決を言い渡す存在がいない。だから貴女は、延々と自分で自分を裁き、自分に罰を与え続けているとも言えます。それは処刑よりももっと重い刑罰であると、ボクは考えます」
私が、自分で自分に罰を与え続けている……?
「罰には赦しが必要であるとボクは考えます。
もちろん罪人の罪状や態度によっては、赦しを与えてはならぬコトもあるでしょうけれど……でも、貴女には――ルツーラ嬢には、赦しが必要だ。ボクはそう思います」
「私は……別に誰かに赦して欲しいワケでは……」
ゲイル様の言葉に反論しようとすると、横から目を吊り上げてティノが割って入ってきました。
「うっさいッ! 貴女がそうやって自分を赦そうとしないから、周囲が赦しを与えようって話をしてんのッ! 貴女の事情を知っている人が赦さないなら、一生貴女は赦されないじゃない!」
「……実際、私は赦されざる罪を犯したワケですし……」
「貴女は確かに罪を犯した。だけどッ、貴女はッ、ルツーラはッ! 雑な言い訳と温い言い逃れに、他責と無自覚のクソボケ発言を重ねまくる本物のクソどもと違うッ!!
貴女は正しく罪を認め、正しく罰を受け入れ、正しく反省して、正しく贖い、今ここにいるじゃないッ!
誰に言われたワケでもなく、誰よりも自分の罪を赦せないから、ずっと自分を罰し続けながらッ! そんな貴女が赦されざる罪人なワケないでしょうッ!!」
涙を拭いもせずに私を真っ直ぐに見据えて、ティノがそう告げます。
ゲイル様も、涙こそ流してはいませんがティノと同じような表情で、真っ直ぐに私を見ています。
「だから、ルツーラ。これ以上、私の大切な友達を、罰し続けるのを、止めて欲しいのよ……止めて欲しいから、もう赦しが必要だと、思って……」
なんと答えればいいのでしょう。
途中から、ティノが両手で顔を覆ってしまいました。
「残り時間が短いならそれはそれで刺激的だという話です」
「ゲイル様……」
「貴女は自らに貸した刑務――家族と友を救うというという課題を見事を達成した。
刑期と刑務を果たした罪人は赦され、釈放される。だから、貴女は赦されていいのですよ。
残り僅かなその時間は、魔法人格としての貴女が自由に使っていい。幸せになっていい。
本来の人格が目を覚ましたなら、後のことはそちらにませればいいではありませんか」
「……私の為に、使っていい時間……」
「その通りです。どのように使っても良い残り時間。貴女はどのように使いたいですか?」
穏やかに語りかけてくるゲイル様。
その言葉に、私は僅かに逡巡します。
赦されていい。だからこそ使っていい、僅かな自由時間。
そんなものがあるのだとすれば、私は――私は――……。
「……ゲイル様」
「はい」
「貴方は、残った僅かな時間で――私を幸せに出来ますか?」
「嬉しいお言葉ですが、ボク一人のチカラでは無理ですね」
「ハッキリと仰るのですね」
「ええ。なので、協力者が必要です」
「ティノのコトですか?」
私がティノの名前を出すと、ティノが顔を上げてこちらを見ます。
「そこで私の名前出すのよろしくないわよ、ルツーラ。
まぁゲイルの言いたいコトは、私が居たところで意味がないんだけど」
「え? そうなのですか?」
「そうですね。例えティノがいたとしても――いえ、ティノ以外にどれだけの人が協力してくれたとしても、大事な大事な協力者がいなければ、貴女の幸せはあり得ません」
大事な協力者。
この言い方だと、モカ様とかでもないですわよね。
うーん……?
「ダメね。ゲイル。ハッキリ言いなさい。今ならイケるわ。あと一押し。がんばって」
「言葉では応援してくれているハズなのに態度が全然応援している感じがしない……でも、がんばる」
疲れたような、投げやりのような――そんな感じに手を振るティノと、戸惑いながら気合いを入れるゲイル様。
なんだか、いいコンビに見えますね。お笑いコンビ的なニュアンスですけど。
「ボクが求めている協力者というのはですね。ルツーラ嬢。貴女自身のコトです。
貴女自身が幸せになっても良いのだと、心の中に幸せを受け入れる土壌を作ってくれなければ、ボクがどれだけ奮闘しようとも、貴女は幸せになれませんから」
なので、改めて言わせてください――と、ゲイル様が告げました。
「ボクの手を取っては頂けないでしょうか?
貴女自身が自らの中に幸せになる為の土壌を作ってくれるのであれば、ボクはそこに貴女を幸せにする為の種を蒔き、花を咲かせると誓いましょう。
魔法人格が消えた後も、二周目のあなたが望むのであれば、私は続けて貴女を幸せにするコトでしょう」
「……ゲイル様は、私で良いのですか?」
「もちろん。貴女と出会ったコトで得た刺激を大事にしたいし、育てていきたいのです。生涯貴女を幸せにするので、是非とも貴女もボクに良き刺激を敢えていて欲しいと、そう願います」
大事なのは、自分を赦すこと――ですか。
確かに、自罰的である自覚はありましたが……友を泣かせ、私に思いを寄せる殿方にここまで言わせてしまったのはよろしくありませんね。
「自分を赦し、自分に正直になるのは、悪いコトでは……ないのですよね? それを望んで……良いのですよね?」
「もちろんです。ルツーラ嬢」
「もちろんよ、ルツーラ。私たちはそれを保証する」
ああ、ならば。ならば。です。
何故でしょう。涙が零れてきます。けれど、決して嫌な涙ではありません。
「ゲイル様。その手を、取らせて頂いてもよろしいですか?
貴方の誓いを――信じさせて頂いて、よろしいですか?」
私が伸ばしたその手を――
「貴女がそれを受け入れてくださるのでしたら」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
――ゲイル様は優しく受け止めてくれました。
作者の想定以上にルツーラが頑固というか頑迷で、ティノが泣くという想定外の自体まで発生してしまいましたが、なんとか無事にここにたどり着けてひと安心。
===
コミカライズの最終話が各配信サイトで順次、公開が始まっております。
またコミックスの最終9巻も12/26発売予定です。
皆さま、よしなにお願いします٩( 'ω' )و




