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第30順


 モカ様とお茶会をした日の夜。

 自室のベッドで寝転がりながら、ぼんやりと考えます。


 お茶会では大変有意義な時間は過ごせたものの、同時に考えねばならぬことが大きくなったのもまた事実。


 順序を入れ替える魔法。

 それが羽化とよばれる特殊な進化を果たした結果、時間までもが対象に取れるようになったワケですが……。


 お茶会の時は荒唐無稽のように思えたそれも、落ち着いて考えてみると、不思議と腑に落ちます。


 直感的に『事実なのだろうな』という感覚があるくらいです。

 受け入れた上で、今後について考えるべきでしょう。


 では現状、時間に干渉できるかというと無理そうです。

 恐らくは――いくら羽化をしようとも、時間への干渉は大技も大技。


 魔封じの枷を付けられて、発散できずに内側で渦巻いていた魔力があったからこそ発動できたのでしょう。


 ……私の『順』魔法は強制的に順序や序列を守らせる精神干渉魔法。

 それを使いこなせるように色々と試し、鍛錬し、その結果が、順番の入れ替えや順序を狂わせる効果を得た。


 この新しい効果は大変便利で、対象に触れる必要があるとはいえ、簡単に抗えない拘束魔法として優秀です。


 ですが……。


「順番、順序、流れ……私が乱し、狂わせ、入れ替えるコトができる物質、事象、現象の類いは、どれも『基本となる順序』が存在しているモノに限るのですよね」


 ハッキリと口に出して独りごちる。自分に言い聞かせるように。


 そう。当たり前ではあるのだけれど――

 基本があるから、乱せることができるのです。

 基本と比べることができるから、順番が入れ替わったのだと認識できる。


「なにより、私の魔法は総量を変えられないはず……」


 物質、事象、現象――それらの順番を狂わせようとも、それらを構成していたパーツそのものに欠損は生じない。


 例えば――

 1+2+3+4という計算式があったとします。


 この計算式に魔法を掛けて、1+4+2+3にしたところで、10になるのは変わらないのです。

 例え順序が入れ替わろうと総量が変わらないとはそういうこと。


 私が干渉できるのは順番だけ。

 数字や数式の記号には干渉できないのです。


 それを踏まえると――

 羽化した順魔法が時間に干渉し順序の入れ替えをしたものの、それはあくまで入れ替えでしかないということです。


 総量が変わらない以上、どこかへとズレた時間が、何らかの形で影響を与えてくるのは間違いない。


 初めはそれが運命の収斂(しゅうれん)かと思っていましたが、モカ様の話を聞いた今だと、それは少々違うように思えます。


 二度目の私の行動の結果、ズレた時間そのもの出来事が発生しなくなり消滅してしまったりしたとしても、恐らくは総量が変わらぬように、何らかの代入が起こりうることでしょう。


 代入される数字とは恐らくは、時間干渉への代償。

 いずれ私が支払うことになるだろう――なにか。


「返済日は間違いなく、私が過去へと飛んだ日……」


 その時間と魔性式の時間を入れ替えたからこそ、今のような現象が起きているのでしょう。


 全てが推測。全てが机上。

 けれど、不思議と、間違いなく代償の取り立てが生じるだろうことに確信があります。


 理論や理屈はさておいても、本来人間が干渉不可能だろう時間に干渉した代償――あるいは反動というべきか――は、絶対に生じるだろうな……と。


 そしてそれは決して優しいモノではないでしょう。

 何せ、自らの死ぬ運命を覆すように、時間へと干渉したのですから。


 思いつくところでは、私の命や記憶の喪失。そうでなければ、今の私では想像できない――けれど、記憶や命の喪失に匹敵する何か。


 収斂による破滅の未来の可能性は薄くなったかもしれませんが、逆にもっと強い何かが私の身に起こる可能性は高まりました。


 ならば破滅の未来への覚悟は、今のまま維持しておくべきでしょう。


 暫定タイムリミットは、やはり想定通り。

 時間遡行が発生しただろう夜。


 遠くない場所にある、あの日までに両親が道を踏み外さぬよう、道を舗装していかなければいけませんね……。


 そう決意を改めていると、コンコンと部屋のドアがノックされました。


「ルツーラ。今、いいかしら?」


 どうやらお母様のようです。

 私は身体を起こし、立ち上がってから返事をします。


「はい。なんでしょう?」

「失礼するわね」


 そうして入ってきた母が、部屋を軽く見回して首を傾げました。


「もしかして、寝てたのかしら?」

「いえ――ベッドに横にはなってましたが、考え事を」

「そう」


 そんなやりとりをしてから、お母様が本題を切り出してきます。


「実は、今さっきになって旦那様から言われたのだけれど」


 もうその前置きがなんだか、嫌な予感ですわね……。


「ダンディオッサ侯爵が夜会を開くそうなの」

「……いつ?」

「四日後」


 わざわざお母様が私の元へとやってきたということは、お父様だけでなく、お母様と私も誘われているのでしょう。


「ドレスを新調する余裕はなさそうですね」

「本当にねぇ」


 やれやれと二人で嘆息してから、私は訊ねます。


「それにしても、どうしてお父様はこんなギリギリになって?」

「分からないわ。でも最近、随分とお疲れのようですから。何やら忙しいのか、それとも抱えているのか――どちらにしろ、こういうのは早めに言って欲しいと思ってしまうのは、政治にあまり首を突っ込めない女の私だからかしら?」


 なんとフォローしたものか。


「どうでしょう。いくら忙しくとも、自分の立ち位置を脅かす隙を減らすという意味では、その手のスケジュール共有はもっと確実にするべきだとは思いますわ。

 そういう意味では、お父様の落ち度といえば落ち度かもしれませんが……」


 これ、思わず口にしましたけど、フォローでも何でもありませんね。


「ともあれ、予定はわかりました。

 明日、ドレスの手直しを手配するのですね?」

「ええ。今、私と貴女のとで、一着ずつ選んでしまいましょう」

「はい」


 そうして、従者を連れお母様とドレス選びです。

 ドレスを選びながら考えるのは、お父様のこと。


 最近、お父様が忙しい理由。そして疲れている理由。

 なにより、ダンディオッサ侯爵がこのタイミングで夜会を開く理由……。


 当家を誘ったということは、まだ見限ってはいないだろう証拠だとは思うのですが――


 生け贄扱い……というのも、ダンディオッサ侯爵が私のことをそれなりに有効活用できると思って貰えてることを考えると、違う気がしますし……。


 改めての、冷静派と超過激派の分断が目的、だったりするのでしょうか?


 これ、お父様への最後通牒だったりします?

 あるいは、私がお父様を助ける機会をくれたというべきか……。


 どちらにしろ、行ってみなければ、確かめなけれません。


 あとで、モカ様にも情報を共有しておきましょうか。

 可能ならば、夜会前にティノとも会っておきたいところですが――


「ルツーラ。あなたはどのドレスを手直しするつもりなのかしら?」

「そうですね……この辺り、でしょうか」


 なんであれ、まずは目の前のドレス選びに集中しないといけませんね。



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