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第26順

 想定より長くなり、分割できる分量になっちゃいましたが、とはいえ分割するような内容でもないので一話でまとめてお送りします。


 真面目な話題は徐々に落ち着いていき、少しずつ雑談が始まりました。


 途中でラウロリッティ様とカチーナが戻ってきました。

 ダーリィのことは城の従者の方にお願いしているそうで、目を覚ましたなら教えてくれるそうです。


 戻ってきたラウロリッティ様を交えて雑談に興じていると、ふとした会話の間に訊ねてきました。


「あ、そうだ。ルツーラさん。ダーリィちゃんがどんな夢見てるか気にならない?」

「気にならないといえば嘘になりますけど……」


 あまり知りたいとも思えない――というのが正直なところです。


「そう? まぁある程度の予想は出来ているとは思うけどね~」

「ええ。あのまま、取引の話が続いていれば、ダーリィではなくルゴダーナ子爵の負担となる。そこにルゴダーナ子爵の利は一切ありません。

 ただ意味も無く魔心結晶とお金が家から出て行くだけの状況ともなれば、さすがに叱られるだけではすまないでしょう」


 そこまで口にして、ふと気づきました。


「そもそも契約は不成立ではありましたが、お互いの条件が合わないコトによる円満な不成立です。お互いに納得していたワケで――そこに意味もなく介入してきたともなれば、ダーリィを連れてきた私の落ち度。

 その円満な不成立を潰すというのは、両家のメンツの問題にもなりかねませんね……」

「そうなのよ。あの夢はダーリィさん自身が意識と無意識の両方で集めた情報から、それっぽい未来を視ているだけ。

 なので夢の中では、メンツァール家とドリップス家の中で結ばれていた他の取引も全部ご破算になっちゃったみたい」

「そうですか」


 極端と言えば極端な結果ではありますが、決してありえない話でもないですね。


「そこにダーリィさんにとっての都合の良い展開なんかも調味料として色々と加わった結果、ダーリィさんが『ルツーラ様のためだから』と口にするたびに、ルツーラさんが素直にそれを受け入れていく夢が完成したのです」


 えへんと胸を張りながら芝居がかった口調で言ってますけど、あまり良い内容ではありませんね。

 分かりやすすぎるといえば、そうなのですけれど。


「それで? 夢の中のルツーラ嬢はどこまで堕ちていくんだい?」


 私とラウロリッティ様のやりとりが気になったのでしょう。サイフォン殿下が訊ねてきました。


 他のみなさんも注目しはじめています。


「どこまでも、ですね。そこは私の魔法がちょっと介入してまして。

 現実的にあり得る範囲で、どんどんダメな方向へと歴史が動いていくようになってるので」

「どこまでも?」


 フラスコ殿下はよく分からないという様子で眉を(ひそ)めました。

 その問いに対してラウロリッティ様は、少し考える素振りを見せてから答えます。


「ドリップス家との取引ご破算は当然、ルツーラさんは両親に叱られるワケです。

 でも、そこへダーリィさんが介入しちゃって、叱られるのおかしいとかわめいちゃって――なら、ご破算させたバツとしてお前の家が、契約終了までの残り期間の支払いやれ……と、メンツァール伯爵に言われて、ハイハイうなずいちゃいます」


 聞いていた全員がさすがに渋面です。

 

「それでまぁそのあとも色々あって、ルツーラさんというかメンツァール家はコンティーナさんとダンディオッサ侯爵に見限られちゃって、とある事件のスケープゴートに。

 処刑は免れましたけど、貴族籍は剥奪されて、平民落ちします。それでもまだルツーラ様の為とつきまとうダーリィさんの根性だけは認めてあげてもいいかもね~」

「……ルツーラ様を貴族に戻す為なんです! とか言ってたのかしら?」

「せいか~い」

「…………」


 あの子は全くもう……。


「一方でルツーラさんはもう精神的に参っちゃってるので、ダーリィさんの貴方の為を全部受け入れてハイハイ行動しちゃうようになっちゃってるワケで。

 元々の関係や、個人的な心情はともかく、ルゴダーナ子爵家としては、罪に対する罰で平民落ちしたメンツァール家に、表立った支援とかはできないワケなんだけど、ダーリィさんはガンガン手を出そうとしちゃう」

「それ、平民としてのルツーラの立場を脅かしかねない行為よね?」

「コンティーナさんの言う通り。だから堕ちていくのよね~……。

 貴族の生活を忘れられないルツーラさんのご両親はダーリィさんに頼りきり。

 とはいえ、当たり前なんですけど当主でもなんでもない彼女に出来るコトは限られてるワケですし、子爵がダーリィさんへお小遣いを出さなくなればどうにもなりません」

「ダーリィ嬢からの支援が打ち切られてしまえば、平民に馴染めないメンツァール夫妻はにっちもさっちも行かなくなり、すでにダーリィ嬢の言いなりになっているルツーラ嬢は、現状を変えようと動きもしない……なるほど、破滅しかありませんね」


 ゲイル様は、こめかみを押さえながら嘆息をします。


 なんというか――助ける方向が間違っているのですよね。

 まぁ自分が悪いという感覚がないからこそ、ひたすら突き進むのでしょうけれど。


「ただそんな状況に対して、ドリップス公爵家というかモカ様が大変ご立腹」

「私ですか?」

「はい。少なからず交流があったからこそ、メンツァール家の反省の機会を奪うどころか、相手の都合を考えない支援で、むしろ追い込んでいる自覚のないルゴダーナ子爵家に対して、以前の契約の肩代わりの話を蒸し返し、本来メンツァール家から得るはずだったモノを今すぐ寄越せとせまります」

「……やるにしてもそんな分かりやすい手段はとりませんけどね、うちは……」

「まぁそこはアレです。ダーリィさんの記憶と知識がベースになってますので」


 モカ様は不満げに口を尖らせていますが、そうなってくると、とことんまで追い詰められていってしまうでしょう。


「ともあれ、ドリップス公爵家から迫られたルゴダーナ子爵家は、同じ派閥の知り合いたちに助けを求めますが突っぱねられちゃうのでした」

「もしかして、ダンディオッサ侯爵が根回ししてます? ルゴダーナ子爵に手を貸すな――って」

「はい。コナ様正解です。

 ダーリィちゃんも無意識では、ルツーラさんがダンディオッサ侯爵に気に入られているという認識をしてたみたいですよ~。

 だからまぁ、お気に入りで気に掛けていた人を平民堕ちさせたのだから何か嫌がらせはされるだろうな――という無意識の推測はあったようです」


 そこまでいっても、なお無意識の産物なのですね。

 本当にもう、ダーリィときたら……。


「そうして、派閥や知り合いどころか、大店の商人や平民向けの金貸しすら、ルゴダーナ子爵家にお金を出さない状況になってしまうのでした。なので家の金銀財宝のみならず屋敷そのものを売って金にするコトもできず、にっちもさっちもいきません」

「……そこから立て直す手段はあるのか?」


 思わず――と言った様子のフラスコ殿下でしたが、それに対してサイフォン殿下は冷めた様子で肩を竦めました。


「出来ると思います、兄上?」

「やはり無理か。金が足りぬのに工面する手段が封じられているのだものな」

「本来のドリップス家なら――その状況、うちの息の掛かった商人に売買を持ちかけさせますね。生かさず殺さずに搾り取る形での契約を結ばせるはずです」


 何やら口を尖らせながらモカ様が言います。


「ギリギリ貴族として生活できる範囲で搾り取るのが嫌がらせや仕返しとしてはベストかと。貴族として生活できるギリギリなので、貴族として見栄を張る余裕はない。けれど貴族としてパーティなどがあれば見栄としてドレスなどを新調する必要がありますので、そういうのを加味するとギリギリ赤字。

 長い目でみれば破滅が確定しているのに、短期的に見るとどうにかなるレベルに見えるギリギリのラインを狙って追い込むんです。

 そして追い詰められて視野狭窄を起こしつつも、まだ自分は冷静であると勘違いできる範囲のタイミングで次の契約です。

 一見すればなんとか危機を脱せそうな内容です。実際に契約直後は危機を脱せるでしょう。けれども契約してしまうと契約書の解釈によって、あとあとで揺り返しが発生し、今以上の危機に見舞われる。そういう内容になると思います」

 

 ……ドリップス家恐すぎませんか!?

 っていうかモカ様、目がすわってますけど大丈夫ですか?


「いくらダーリィ嬢の記憶と感覚がベースとはいえ、少々うちの対応ヌルすぎまんせんかね……」


 なんだか、変なところが矜持に引っかかったのでしょうか……。


「おいサイフォン。お前の婚約者が恐いコトを言い出して止まらないぞ。はやく止めろ……って、おい! お前もお前で、なんで目を輝かせてるんだサイフォン!」

「止めても無駄よフラスコ。二人とも変なスイッチが入ってるみたいだし」


 サイフォン殿下は今の話のどこに目を輝かす内容があったのでしょう……。


「まぁモカ様の話はともかく――ダーリィちゃんの夢の中でも、モカ様が言った状況と似たような状況にはなりました。

 そして、怪しいやつがダーリィちゃんに持ち込みます。家とルツーラさんと両方の為になる話があるよ、と」

「詐欺の手口ですわね」

「いくら追い詰められてるとはいえさすがにそれに引っかかるのは無理があるのでは?」


 私とティノが即座に口にしますが、ラウロリッティ様は何とも言えない顔で首を横に振りました。


「ダーリィちゃん自身もだいぶ追い詰められているせいで、『ルツーラ様の為』という言葉が、自分自身の行いへの言い訳――あるいは、自分を偽る免罪符になっちゃってるみたいなのよねぇ」

「つまり、本当はルツーラ嬢の為にならない行いと分かっているのに、『ルツーラ様の為』という言葉を口にしながら、よくない行いをしていると?」

「そ。ゲイル正解」

「これほど正解という言葉が嬉しくないコトがあるんだ」


 ゲイル様は変な顔をしてますけれど……でも、冷静になってみると……。


「今よりマシにはなっているというコトですわね」

「確かに。夢見る前は、無自覚に同じコトしてたワケだしね」


 私とティノからすると、むしろマシになっているように思えますね。


「お前たちの友人の話なのに、そんな反応なのか?」

「フラスコ殿下。思い出して頂きたいのですが、追い詰められるキッカケとなる先ほどの取引の状況はどうでしたか?」

「……いやそうか。そう言われると、自覚しただけマシに思えてくるな……」


 そして、怪しい詐欺契約に乗ってしまったダーリィによって、夢の中の私は違法娼婦に堕とされたようです。


 ボロ雑巾のようになった私が、それでもなお「私の為なのですよね。次は何をすればいいのダーリィ」とうわごとのように口にし続ける姿を見たあたりで、ダーリィの中で何かが変わったそうです。


「正気に戻るにしろ壊れるにしろ、そこまで行かないと発生しないの?」


 コナ様の言うことは、ごもっとも。

 本当に、そこまでいってようやく――というのは思ってしまいますね。


「都合の悪いコトからは目を背け、意識せず、自分は悪くないという意識が強いみたいで、言い逃れが出来ない現実を直視してようやく正気に戻るなり壊れるなりの、新しい方向(ステージ)が生まれるみたいなのよ~……。

 変わり者を自覚してるあたしちゃんが言うのもなんだけど……ダーリィちゃん、よく現実を真っ当に生きて行けてたわね?」


 ラウロリッティ様のダーリィ評になんとも言えません。いや、本当に……よく今まで、大きな問題なくいられましたね??


「ただ、この時点だと、まだ心にヒビが入った程度。決定的に何かが変わったワケじゃないのよねぇ~……」


 そして、私を犯罪組織に売り飛ばしたことでお金を得たと世間にバレてしまったので、ルゴダーナ家の扱いはさらに悪くなったそうです。


「お取り潰しにならない辺りは都合の良い夢だな」

「平民を誘拐して売って金にしたのがバレた時点で終わりですものね。ましてやそれが、かつて親交のあった元貴族のご令嬢となれば、心証がより悪くなるというもの。刺激的な話ではありますけど、こういう刺激は遠慮したいですね」


 サイフォン殿下とゲイル様の評価は厳しいですが、私もだいたい同意です。


「っていうか裏社会的にもおかしいのよね。ダーリィ様が手をだした詐欺って、ダーリィ様自身も最後には違法娼婦堕ちするような内容が盛り込まれてるはずだもの。それどころかルゴダーナ家が犯罪組織に乗っ取られてしまってもおかしくない。

 急に代替わりして、どこからともなく現れたダーリィ様のお兄さん辺りが当主になっててもおかしくないわよ」

「確かにコンティーナ嬢の言う通りですね。その辺りもおかしいです」

「モカとコンティーナ嬢はどうして裏社会に詳しいのか、少し話を聞かせて貰えないかな?」


 あ。サイフォン殿下の笑顔が恐い。

 でも、確かに二人ともお詳しいですね……。

 ティノは何となくわかるのですけど、モカ様まで詳しいというのは……。


 ……前回のモカ様も詳しかったのでしょうか?

 そうだとしたら、表社会にも裏社会にも精通した情報通の公爵令嬢にケンカを売ってしまった私の愚か度がマシマシになってしまう気がします。


 そもそも、ケンカ売って王城内で精神魔法使った時点で愚かでしたので、気にするだけ無駄ですね。はい。


「まぁ、皆さんの言うとおりではありますが――その辺りはダーリィちゃんの想像力の限界というか、平民落ちとか、違法娼婦堕ちとかへの理解度というか想像力というのが足りないから、借金まみれの苦行貴族以下にならない感じかなぁ~と」

「そもそも現実そのものへの理解度が足りていないのだな」

「フラスコ辛辣……まぁでもそうだと思うわ」


 つくづく、ダーリィったら……という感じです。


「それでまぁ、心にヒビが入ったあたりから現実的にはありえない文字通り悪夢(ユメ)のような紆余曲折を経て、半壊した王都の中心でルツーラさんを抱きしめたまま震えているダーリィちゃんなんですけど」

「何があったんですの!?」

「何があったらそうなるんだ!?」

「紆余曲折が気になりすぎるわッ!」

「ここへ来て急に面白そうな刺激を出すのやめてくださいよ姉上!」

「すごいな。『ルツーラ様の為』という言葉一つで国が終わりかけてる」

「夢の出来事とはいえそこまで言ってなおもその言葉を使い続けてるのすごいわね」

「すごいのはダーリィ嬢の想像力なのかラウロリッティさんの夢魔法なのか気になります」


 お茶会の参加者だけでなく、護衛や従者の方たちすら、さすがに表情が取り繕えなくなっているのですけど。


「どんよりとした曇り空。倒壊した瓦礫に、貴族・平民・貧民とわず息絶えて転がる人々の数々。

 腕の中にいる全裸で血塗れで息も絶え絶えのルツーラさんが、言うんです。

 『次は何をすればいいの? 私の為なのでしょう? 貴女の言う通りにしてきたら、国も世界もこんなになって、私の命はもう尽きそう。それでも私の為になるコトを教えてくれるのでしょう?

 でも結局、貴女のいう私の為とは一体何だったのかしら? 私をどこへ連れて言ってくれる為のものだったのかしら? こんな姿に成り下がった私を作り出すコトが私の為だったの?』って。

 次の瞬間、心のヒビが大きく広がり、夢の世界そのものが崩壊。自分の行いを自覚したダーリィちゃんは、自問自答の迷宮に迷い込んで、延々とそこを彷徨(さまよ)いだすのでした」


 その結末に、みんなが沈黙したあとで、憐れむような気に掛けるような顔で私を見ます。

 ええ、ええ。そうですね。期待に応えられるか分かりませんが、言わせて頂きますとも。


「現実でも似たようなコトは何度も言っていたではありませんか! どうしてそんな状況になって言われるまで、自覚しなかったのですか!!」




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つまり、超過激派の連中は、いい大人のくせにダーリィ嬢と思考が同じなわけだ。 そんな、教育の足りていない令嬢と同レベルの貴族がのさばってるってことは、 ダーリィ嬢が特異な例では無く、実は同じような令息令…
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