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第23順


 さて、ダーリィの質問のおかげで最終的に空気が落ち着いてきたところで、改めてお茶会開始です。


 考えてみたら挨拶の時点で空気が悪くなったので、始まってもいなかったのですよね。


 そして、始まってしまえば参加者の皆さんは百戦錬磨。

 当たり障りのない雑談からスタートして、問題なく会話が繰り広げられていきます。


 ダーリィはダーリィで、いつものお茶会と変わらないのでは……という顔をしていますね。ちょっと気を抜きすぎではないかしら。


 そんな中でモカ様が、私の名前を呼びました。


「ルツーラ様。このような時にする話ではないのですが……先日の契約の話なのですが――」


 来ましたね。

 契約の話なんてものは特になく、これはただの合図です。


 つまりは、ダーリィを試すためのもの。


「急ぎというコトなのでお答えを。

 先日の提案と契約に関しまして、検討はさせて頂きましたが、さすがにあの代価では難しいです」

「そうですか、こちらもだいぶ無理はしているのですが……」


 それっぽい会話をしていますが、内容に中身はありません。

 モカ様と共にそれっぽい会話をしているだけにすぎないので。


「ではルツーラ様、水属性の魔心結晶(ましんけっしょう)に余裕はおありで? ドリップス領としてはそれでも構いません」

「水属性ですか? 土属性のモノであれば、なんとかなりそうですけど」

「さすがに水と土では用途が異なります。足りない分の補填は水の魔心結晶でお願いしたいのですが」

「そうですか……」


 ちらりと、ダーリィの様子を伺うと何やらウズウズした様子を見せています。

 絶対何かやらかしそうな様子ですわね……。


 何らかの取引をしている芝居をしてくれということで、私はモカ様相手にそれっぽいやりとりをしているワケですけれど……。


 ゲイル様の用意したダーリィ矯正作戦がどういうモノか、実はよく分かってないのです。けれど、このまま進むと実行されてしまうのは間違いありませんよね。


「風属性の魔心結晶が足りないのであれば、不足分は水の魔心結晶で良いというのは、だいぶ譲歩して頂いているのは分かるのですが……しかし、やはり水属性のモノは難しそうですね……」

「では、今回の契約はここまでというコトでよろしいですか?」

「仕方在りませんわ……譲歩して頂いたのに申し訳ありません」


 私が渋々とそう口にした時――


「待って下さいルツーラ様」

「ダーリィ?」


 私とモカ様のやりとりを見ていたフラスコ殿下とコナ様が、ダーリィに驚いたような目を向けます。

 お二人は、ダーリィに関する事情を聞いていないのでしょうか?


「諦めるのが早くはありませんか?」


 あ、事情を知ってるだろうサイフォン殿下とティノに、ゲイル様まで変な顔になりましたね。

 ラウロリッティ様も「え? あの子なにしてるの?」みたいな顔されています。


「モカ様。土属性でどうにかなりませんか?」

「先ほども言いましたが、用途が異なります。今ドリップス領で欲しいのは風です。ですがメンツァール伯爵家から出せる風の魔心結晶では契約するにも量が不足しています。

 なので風の代わりに水でも良いという話になったのです。そうである以上、風か水以外での支払いでは成立しません」


 ダーリィの行動に不安を覚えたらしいフラスコ殿下と、コナ様がハラハラしだしています。なんだか申し訳ないです。


 ちなみに、モカ様はここでハッキリとドリップス領、メンツァール家という言葉を使いました。

 つまり私たちは当主の名代(みょうだい)として、ここで取引と契約の話をしていることになります。


 だからこそ、他の参加者は私とモカ様のやりとりに口を挟まない――むしろ挟めないが正しいでしょうか。


 お茶会という場でするべきものではないでしょうが――だからこそ、モカ様は最初に「急ぎらしいのでこの場で失礼」という断りを入れた上で、私に話しかけてきたのです。

 それに私が応じた以上は、他の家に知られても問題ないけど、それなりに重要な取引の話であると、周囲は考えるワケですね。


 なので、ダーリィが割って入ってくるのは、かなり問題行為です。本人は自覚してなさそうなんですが。


 だからこそ、事情を知らないだろうフラスコ殿下、コナ様、ラウロリッティ様の三人は驚いてしまっているのです。


「それとも、ダーリィ様。そちらが、足りない分を出しますか? ルツーラ様の為に」


 うわぁ……モカ様、なんと意地の悪い言い回し。

 そちら――とは、間違いなくダーリィの実家ルゴターナ子爵家を差しています。

 その上で、ダーリィを刺激する「ルツーラ様の為」なんてフレーズを使いましたね。


「それがルツーラ様の為になるなら!」


 さすがに事情を知ってて静観してたサイフォン殿下とティノすら顔をしかめましたね。

 知らなかったフラスコ殿下とコナ様は、他人事ながら青ざめています。


 本当にこの子は……そう思っていると、急にダーリィはフラフラとしはじめます。

 目が眠そうにとろけていき、ゆっくりと(まぶた)が落ちて言っています。


「るつーら、さまの、ために、なる、なら……」


 そのままふにゃふにゃした言葉を漏らしながら、力なく倒れ――


「おっと。危険が危ないわ~、ダーリィちゃん」


 ――いつの間にやらダーリィの背後にいるラウロリッティ様が受け止めました。


「何をなさったのですか?」

「お姉さんの魔法で夢見て貰ってるの。現実と地続きの夢だよ。

 今のやりとりがそのまま、現実に反映されたかのような夢を見てるの」

「そうですか」


 あのやりとりが現実に反映される、か。

 ゲイル様の方をチラリと見れば、彼は小さく笑ってうなずきました。


 つまり、ラウロリッティ様は勢いでついてきたのではなく、ダーリィの為に助力してくれる人だったのですね。


「だって、るつーらさまのために……なんで、こんな……るつーらさまの、ため、だったのに……」


 苦しげな寝言をむにゃむにゃと漏らしながら、(まなじり)から涙が一筋。

 どんな夢を見ているのか想像できますが、だからこそ少しばかり心苦しいです。


「そんな顔しないのルツーラさん。それが現実にならないように夢を見せてるんだから」

「ええ。そうですね。分かってはいるのですが……」

「夢の中で数年分の時間を体験するだろうけど、それで反省しないようなら……」

「分かっております。そうなればもう、助けてあげるコトはできませんから」


 私と同じように破滅を経験し、それでも治らないようなら、もうどうしようもありません。


「……モカ。今のは茶番か?」

「えーっと、はい。そうなりますね。ダーリィ様は――ほら、従者にしたばかりのブラーガをもっと酷くしたような人みたいでして」

「確かに最初の頃のブラーガはあまり良いとは言えなかったが、あれ以上か」

「ブラーガは自覚して自分の立ち回りを修正していき、今では立派になりましたけど、彼女はいつまで経っても自覚してないそうでして」

「……そうか」


 痛々しそうな顔をして、フラスコ様はダーリィを見ます。

 恐らくは、ブラーガ様という従者のことを思い出しているのでしょう。


「なんで、なんで……どうして、るつーらさまがこんなめに、みんながわるい、のに……ぜんぶ、るつーらさまのためだったの、に……どうして、おとうさまと、おかあさままで……」

「両親に見限られたか、もっと酷い目にでもあっているのか……お芝居だったとはいえあの取引の話に口を挟んでしまってたしね……」


 コナ様もダーリィの苦しそうな寝顔と、口から漏れ出る言葉に思うところがありそうです。

 本当に、初対面に近いのに気に掛けて頂けるとは。


「皆さま、私の連れが大変申し訳ありませんでした。謝罪すると共に、友人のために協力して頂けたコト、感謝致しますわ」

「まだ結果は出てませんけどね。それでも、貴女の気持ちは分かっていましたから。協力させて頂きました。姉上もありがとう」


 ゲイル様には本当に感謝です。


「ラウロリッティ様も、突然のコトながら協力して頂きありがとうございます」

「お姉さんは面白そうだったから手を貸しただけよ。気にしないで、ルツーラさん。とはいえ、さすがにちょっとハラハラしたかな~」

「ですよねぇ……」


 ああいう話に口を挟むという行為の意味を思えば、さすがに驚くと思います。

 ヘタをすれば、何の旨味もなく、ルゴダーナ子爵家は魔心結晶かあるいはお金を、ドリップス家に提出する必要が出ましたからね。


 思わず嘆息すると、サイフォン殿下がモカ様に訊ねます。


「モカ。さすがに彼女をそのままにしておくのは忍びない。開いている客室はあるか?」

「そうですね。カチーナお願いしても?」


 モカ様は控えていたカチーナに声を掛けると、彼女は小さくうなずきました。


「運ぶのはあたしがやるので、案内だけお願いできます?」

「かしこまりました」


 ラウロリッティ様がダーリィを抱えて立ち上がります。

 特殊部隊所属とは言え騎士ですものね。一見すると細身で華奢にも見えるラウロリッティ様は危なげなくダーリィを横抱きしていますね。


「じゃあ、ちょっと行ってきまーす」

「失礼します」


 二人がダーリィと共にサロンを後にするのを確認し、モカ様は小さく手を叩きました。


「さて、このお茶会第一の目的は達成されましたので、続けて第二の目的を達成するとしましょうか」


 それからそう告げると、ティノの方へと視線を向けます。


「コンティーナ様。少し、貴女のお話を聞かせて頂けますか?」

「もちろんです。こういう機会をずっと待っていましたので」


 ダーリィのことは気になりますが、気持ちを切り替えなければなりませんね。

 この場に、王族とその婚約者の皆様がいるのです。


 ティノが両親の連座で女神の御座に還ることがないように、話がつけばいいのですが――



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