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第21順


 ゲイル様との食事会を無事に終えて帰ってくると、自室の『箱』からお手紙が届いていました。


 モカ様からのお茶会のお誘いですね。

 ティノとモカ様を引き合わせる会とも言います。


 こちらからの了解の返事を『箱』に入れるのと同時に、可能であれば協力して欲しいことがあると、ゲイル様に書いていただいた企画書も投入します。


 その企画書を見たモカ様から、ゲイル様に問われたのと同じような質問をされました。


 なので、こちらも同じように答えます。


『派閥の領袖(りょうしゅう)としては、切り捨てる決断を下さなければならないところまで来ております。

 ですが、それでも幼馴染みですし、ずっと一緒にいた友人です。

 切り捨てずに済むならそれに越したコトはありませんし、切り捨てるにしても、目を覚まして欲しいとは思っております』


 これは本当に本心です。

 切り捨てるだけなら簡単ですが、だからといって昔から一緒にいた人が破滅していく様子など見たくはありません。


 これを優しいと言う人はいることでしょう。

 でも、個人的にはどこも優しくないと思っています。

 だって、私が一番に求めているのは、私の心の安寧のようなものですから。


 私自身が破滅するのはともかく、自分の家族の破滅を防ぐ余波で、他人が破滅してしまうようなのも寝覚めが悪い。ただそれだけなのです。


 さておき、そんな私からの返信に、モカ様はすぐに返答をくれました。


『話を聞く限り、可能ならば矯正した方が良い方のようですね。

 過激派の口車に乗せられて、取り返しの付かないコトを手伝わされ、それが原因で国が傾いたりするのはゴメンですので』


 なるほど。

 モカ様からの視点で考えればそうなりますか。


 でも、その懸念は分かります。

 実際問題、前回の歴史において、私がモカ様に魔法を掛けることが成功してしまった場合を考えると――さすがに、かなり、大問題になったでしょうし。


 ……むしろ、成功してたらどうなったんでしょうね?

 いえ、考えるのはやめておきましょう。どうあれ破滅したのは間違いないでしょうし。


 なにより国内武闘派二大巨頭のサテンキーツ家とウェイビック家が敵に回る可能性が高い以上、成功したところで……というのはありますから。


 ともあれ、このままではダーリィが、前回の私の二の舞を踏みかねないのは間違いありませんからね。


 ……でもこの状況、矯正が無理と思われたら、ダーリィは処分されてしまったりしません? その……物理的に……。


 思わず、ダーリィの首がゴロリと落ちるところを想像してしまい、青ざめます。


 でも、矯正されないのであれば、遅かれ早かれ――という面があるのも事実。

 腹を括るしかありませんわね。


 こうして、お茶会の日取りと、ダーリィ矯正計画の方向が定まると、根回しの時間になります。


 モカ様とのお茶会は王都のドリップス公爵邸で行われます。

 とはいえ、サイフォン殿下と婚約している以上ドリップス家は第二王子派閥扱い。

 第一王子派閥で特に交流もないターキッシュ伯爵家に招待状を送るのは、少々面倒になりかねないとのことで、ティノを誘うのは私の役目です。


 ティノのお母様であるウラナ様に招待状を見られたら、余計な邪推をされた上で利用されかねないという懸念もあるようですし。


 ダーリィに関してはダーリィ本人に怪しまれない程度に、ご両親へと手紙を書き、情報と計画を共有しました。


 その上で、私からダーリィに手紙を出します。


 要約すると――

『政治的に極めて重要なお茶会に参加します。

 ダーリィ(あなた)を切り捨てるか否かの最終的な判断を行う場とするので、共に来なさい』

 ――そんな感じです。


 ちなみに、ダーリィが取るべき一番の正解はこれまでの自分の行いを反省した上で、参加を辞退することだったりするのですよね。


 そうでなくとも、本当に自分で良いのかどうかの確認は必要でしょう。

 ビアンザとマディアであれば、了解する前に絶対に確認をしてくるはずです。


 ただのお茶会ではなく、『政治的に極めて重要なお茶会』です。

 以前のお茶会で私とティノがダンディオッサ侯爵とやりとりしている姿を見ていた派閥の者であれば、二の足を踏むようなお茶会と言えるでしょう。


 そうでなくとも、添えてあるこの一文のせいで、このお茶会は気軽にお茶を飲める場ではなく、挨拶やお茶を飲む仕草一つとっても精査され、会話に利用される場であると――一般的な淑女であれば想像がつくはずですもの。


 ですが――ダーリィからは是非ともご一緒したいという返事がきました。


 どうやら、ご両親の思いはダーリィに通じなかったようですね。

 ですが問題はありません。これは想定内。絶対に来ると分かっているからこその計画です。


 ……とはいえ、本当に浅慮を通り越して考えナシな子になってしまっているのですから、困ったものです。


 ともあれ、準備の大部分は終了しました。

 あとは当日を迎えるだけですね。





 ――そうして、当日。


 ダーリィには一度当家に寄るように言ってありますので、彼女が来るのを待ちます。


 彼女が当家に来たら、私と共に当家の馬車に乗ってもらい、一緒にドリップス公爵邸に向かいます。


「ダーリィ、あそこが目的の邸宅となります。どなたの家だかおわかり?」

「いえ」

「ドリップス公爵家です。現宰相の王都邸ですわ」

「はぁ」


 イマイチ分かっていなさそうな生返事に、私は大きく嘆息を漏らします。


「貴女、貴族なのに貴族について何も知らないの?

 その不勉強さで、私の為に何が出来るというのかしら?」

「……え?」


 嫌みったらしいお芝居をして見せたところ、何故か驚愕されました。

 ……いやあの、そんな驚いた顔されても困るのですけど?


「手紙にも書きましたが此度のお茶会は、政治的なモノ。

 普段の気軽なお茶会とは用向きが異なっているコトは把握しておりますね」

「……そうなのですか?」


 私のどこがそんなの良いのか分かりませんが、この子――私と一緒にいたいという感情が行き過ぎて、何も見えてませんね。本当に……。


「ダーリィ、あなた切り捨てられたくないのでしょう?

 このお茶会に連れてきたのは、最終判断をする為であると手紙に書いたはずですけど?」

「はい。だからこのようにご一緒させてもらってます」

「…………本気で、分かっていないようね」


 思わず素でそう漏らします。

 太い釘を刺したところで、意味があるかどうかは分かりませんが、脅しを兼ねて、少し誇張して言っておきましょうか。


「この場においては、私は父や母の名代(みょうだい)を兼ねている面があります。

 必要とあらば、他の家のご当主様や、大店の商会長などと取引や商談を行うコトになるでしょう。

 私と連名にしてこの場に連れてきている以上、貴女の粗相は私の粗相。それどころかメンツァール伯爵家の粗相となります。その意味をよく考えるように」


 実際は名代なんかではないですし、大きな取引や商談もないのですけどね。

 ただ、こういう言い方をしてダーリィを脅しておくようにとも、ゲイル様から言われております。


 まぁ普通の人であれば、ここまで言われれば、ことの重大さを理解できるはず。

 それができないようであれば、本当に正攻法で矯正できる見込みがないことになります。


「つまりルツーラ様の為、迷惑にならないようにすれば良いのですよね? いつも通りに」

「いつも通りではダメだと言っているのです」


 ……はぁ、分かってはいましたけど、正攻法ではダメそうですわね。

 ほんと、この子はどうしてこなってしまったのかしら……。





 ドリップス公爵邸に着くと、サロンへと案内されました。

 案内されたサロンへとやってくると、まだ誰も来ておらず、どうにも早く来すぎてしまったのでは……と不安になってきます。


 早く来すぎてしまうのも失礼に当たりますしね。


 チラリとダーリィを見ると「ホストも居ないとか失礼ですね」と大声で言いかねない雰囲気で、少しばかりハラハラします。


 サロンを見回すと、見覚えのある箱が置いてあります。

 どうやらホストはちゃんといるようでした。


「ご挨拶しにいきましょうか、ダーリィ?」

「え?」


 どこへ? と目を(しばたた)くダーリィ。


「もっとちゃんと部屋を見回してくださいませ。

 騎士団の公開訓練に成人会にと、ちゃんと見ていたのであれば分かるでしょう?」


 そう告げて、私は箱の元へと向かいます。


「お招き頂きありがとうございます、モカ様」

「ルツーラ様!? 箱に入ったまま気づかずに申し訳ありません」

「箱に入ったまま!? え? 箱に人??」


 今更に成って驚くことでしょうか?

 ダーリィだって過去に最低二回は見ているはずなのですけど。


「お気になさらないでください。ですが、どうして箱の中で待機を?」

「本当はふつうに待っていたかったのですけれど、お茶会のホストというのも久々で……皆さんを待っている間に落ち着かなくなってしまったので、箱に入って気持ちを静めておりました」

「箱に入ると落ち着くのですか!?」

「そうだったのですね。私は箱に関しては存じ上げておりますので、箱のままでも構いませんわ」

「箱のままでも構わないって何!?」

「ではお言葉に甘えさせて頂きますね」

「あれ? 私がおかしいんですか、これ?」

「いちいちうるさいですわよ、ダーリィ。モカ様申し訳ありません」

「いえいえ。いつものコトですので馴れておりますから」

「どうしてルツーラ様はふつうに対応されてるんですか……」


 前回も今回も、この箱に振り回されているのですから、もう馴れたものです。


「それよりダーリィ。こちらはモカ・フィルタ・ドリップス公爵令嬢――いえ、令嬢の入った箱と言うべきでしょうか?

 ともあれ、ご本人で間違いありませんので、挨拶をなさいな」

「あ、はい」


 そうして戸惑いながらも箱に挨拶をするダーリィの姿は至ってふつうで――これといって指摘することもない、悪くない挨拶でした。


 こうやって見ると、ちゃんとやれる子のようなのですけど……。

 いえ、考えて見ると、いつも挨拶やちょっとした雑談などは、いつもふつうに出来ていましたわね。例え表面上だろうと、取り繕うことはできる子なのですよね。


 本当に、何がどうしてこんな困った子になっているのかしら……?


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