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第11順


「ダーリィ……」


 私は頭痛を堪えるようにこめかみに触れながら、声を掛けてきたダーリィを見ます。


 ダーリィを追いかけるようにビアンザとマディアもやってくるところを見るに、二人の静止を振り切っての行動なのでしょう。


 二人も申し訳なさそうな顔をしていますしね。


「どうなんですか、ルツーラ様!」

「あまり大きい声を出さないでダーリィ。はしたないわ」


 どうしてこの子は日に日に、態度が酷くなっていくのかしらね。

 私はこれみよがしに嘆息を漏らしてから、ダーリィを見つめます。


「その上で答えるとするならば――今のやりとりの本質はそこにはありません。

 あのやりとりの意味を汲み取れないのであれば、変に騒がれても迷惑です」

「どういう意味ですか?」

「そのまま意味です。意図を汲み取れないで騒ぐのは、迷惑なだけなのよダーリィ」


 これだけ説明をし、出来るだけ道を踏み外さないよう誘導しているはずなのに、どうにもダーリィは自分で破滅の道を歩んでる感じが恐くて仕方ないのですよね。


「でも……昔は色んな話をしてたのに、最近のルツーラ様は隠し事ばかりで……」

「くだらない」


 本当に悲しそうに何か言おうとするダーリィを、ティノがバッサリ切り捨てました。

 そのことが不愉快だったのでしょう。ダーリィはギリリとティノを睨み付けます。


「何なんですか?」


 ……身分を笠に着た行動をさせようと私を誘導するわりに、ダーリィは他の人の権力に無頓着がすぎるのは何なのでしょう?


 ティノはうちと同じ伯爵家。家格でいうなら、ダーリィの家より上です。

 最初の自己紹介の時点で、ティノはそう名乗っていたはずなのですけど……。


「くだらないと言ったのです。

 かつては仲の良い者たちだけの集まりだったのかもしれませんが、今はもうそれは通じない。

 若手女性の一大派閥として、世間に認知されてしまっている以上、いままで通りになど無理なのですよ」

「それがどうしたんですか? 新参が知った風に……!」

「新参だから見えてくるモノもあるというコトです。むしろ貴女は最古参のクセに、現実が見えていらっしゃらないようで」


 あー……。

 ティノのに嫌な役をやらせてしまいましたね。

 それは私がやるべき仕事でしょうに。


「政治は男性がするもの――などという古い考えはまだまだ根強いですが、だからといって女性が関わらないワケでもないのですよ。

 ルツーラはその中でも若い女性たちによる一大派閥の領袖(りょうしゅう)と、世間に認知されてしまっている。もはやただのお茶会派閥とは認識されておらず、政治に関わらずには居られないほど大きくなっているの。

 だからこそ、迂闊な立ち回りをすれば、派閥にいる皆に迷惑をかけかねない」


 ダーリィの背後にいるビアンザとマディアは、ティノの言葉に何度もうなずいています。 二人はちゃんと、そこを理解しているのでしょう。


「先ほどのダンディオッサ侯爵とのやりとりもその一環。

 何気ない会話でも、答え方や考え方を間違えれば、この派閥はダンディオッサ侯爵の派閥に組み込まれ、今のように平和なお茶会なんてできなくなっていたコトでしょう」


 さすがにここまで言われると、やりとりを聞いていた呑気な淑女たちも理解が至っていったようですね。

 お茶を飲む手が止まり、かなり真面目な顔になっていっています。


「ルツーラはそんな状況で、領袖として認識されているからこそ、矢面に立って、この派閥は基本政治に関わらずお茶会を楽しむための集団であると、侯爵に訴えました。

 侯爵もそれを認めたからこそ、引いてくださったんです」


 素直に引いてくれたのか、利用価値を感じて引いてくれたのかは分かりませんけど。

 余計なことを言うのもティノに悪いので、そのまま続けさせましょう。


「ダンディオッサ侯爵も政治派閥の中でも大きな派閥の領袖です。

 そんな彼に、この派閥がお茶のみ派閥であると認めさせたコトで、この派閥はダンディオッサ侯爵絡みで政争に巻き込まれにくくなりました。

 しかも、認めさせる為に綱渡りのような会話をし、危険を省みずにルツーラは自分から仕掛けもしたのです。

 大人の男性貴族でも、ここまで鮮やかな舌戦をできる方はそういませんよ」


 それを分かった上で食ってかかってるのか――と、ダーリィは問われているのですが……。


「それがどうかしたんですか? そんなモノに巻き込もうとする方が悪いじゃないですか。ルツーラ様はすごいんですから、突っぱねればいいんです!」

「……はぁ」


 落胆を越えた落胆――そうとしか言い様のない息を吐いて、ティノは恐ろしく冷たい顔を私に向けました。


「ルツーラ。親友として警告するわ。ダーリィ様を切り捨てなさい。

 貴女がどれだけ派閥を守ろうと奮闘しても、理解力がゼロを通り越してマイナスのこの子がいる限り、この派閥は内側から食い潰されて、ひどい破滅を迎えるわよ」


 わざわざダーリィを煽るような言い方しないで欲しいところですが……。

 ほら、親友というフレーズに反応して、すごい形相してるじゃないですか。


 まぁでも、ティノの言葉もあながち間違ってはいません。

 ダーリィを見逃しているのは、ただの私のわがまま。世間一般の考え方をするならば、間違いなく切り捨てられる対象でしょう。


 今もなお切り捨てられてないのは、他の方たちからすれば不思議でしょうね。


「ダーリィ」

「ルツーラ様……」


 捨てられた仔犬のような顔をされても、困るんですよね。


「貴女は常々、私は上に立つに相応しい人だと言っていましたね」

「はい! ルツーラ様は上に立ってこそだと思います!」


 急に目を輝かせますけど――


「そうですか。では友人ではなく、領袖という人の上に立つモノとして警告します。

 ダーリィ、貴女のその思い込みと現実を混同するクセをいい加減に直しなさい」

「……え?」

「貴女を含め、仲の良い四人から始まったこの派閥ですが……ティノが指摘した通り、すでに仲良しお茶会仲間ではすまない規模になっております。

 明らかに派閥にとってマイナスにしかならない言動や行動を繰り返す貴女を、仲の良い相手だからと、最初期のメンバーであるからと、そういう理由で見逃すのはもう難しい状況になってしまっているのです」


 こんなこと、言う前にダーリィには気づいて欲しかったのですが。


「でも、私はルツーラ様の為に……」


 その言葉さえ口にすれば、なんとかなると思っているのも、だいぶ問題なのですよね。


「ダーリィ。貴女はいつもそれを口にしますけれど――貴女の言う『ルツーラ様』とはどちら様で?」

「……え?」


 酷く絶望した顔をされてしまいました。

 その顔を見るのはとても心苦しいのですけど……ダンディオッサ侯爵に認知され、ティノに指摘されてしまった以上は、踏み込んでいくしかありません。


 私は自らの胸に手を当てて告げます。


「現実のルツーラ・キシカ・メンツァールはここに居ます。私がルツーラ・キシカ・メンツァールです」

「それは、知ってますけど……」


 絶望と憔悴(しょうすい)で、ダーリィの顔が一気に酷いものへとなりましたね……。

 ですが、いつまでも他人を自分に都合の良い幻想と混同されても困るのです。


「そうなのですか? だって貴女が言う『ルツーラ様』と私は随分と乖離しているようですから。私以外の『ルツーラ様』がいるのではないかと思ってしまうのですけれど、違いまして?」


 ……まぁ自虐するならば、私は未来からやってきたルツーラであり、この時代のルツーラと混ざり合っているので、現実のルツーラかと言われると難しいところはありますけど。


 でもそんなややこしい話をダーリィにする気はありませんからね。


「いや、でも……だって……わたしは、ルツーラ様の為に……」


 ぶつぶつと言いながら立ち尽くすダーリィ。

 もはや私と言葉を交わす気はないようです。


 その姿に私は深く深く嘆息すると、痛々しい雰囲気で呆然としているダーリィの脇を抜けて、ビアンザやマディアと合流します。ティノも私の後を追いかけてきました。


 私は改めて背後のダーリィを一瞥(いちべつ)し、彼女に聞こえるだろう声で一言告げます。


「これだけ言われて目が覚めないようであれば、本当に切り捨てるしかなくなってしまいますね」


 ビアンザやマディアも沈痛な顔をしているものの、仕方なさげな顔をしていることから、私やティノの言い分を理解できたのでしょう。


 完全に理解する必要はありませんが、やはり派閥に属する淑女たちには、ある程度の理解をしてもらわなければ、派閥も立ちゆきませんからね。


 お茶とお菓子の並ぶテーブルたちを目指して歩きながら、私は小声でティノに話しかけます。


「ティノ、後日時間を頂いても?」

「彼女の両親にでも会う気?」


 暗にそこまでする必要ないだろ――とティノは言ってきます。

 それはその通りなのですけど、そこはやはり小さい頃の友達ですので。


「ええ。友人としてのケジメのようなものです」

「…………そう。いいわ。付き合ってあげる」

「ありがとうございます」


 そうして私は、お茶会のあとで、ダーリィのご両親宛に手紙を出すのでした。



作者の思惑を飛び越えて、ダメな方向に好き勝手動くダーリィ嬢

わりと大真面目にルツーラと一緒になって彼女が破滅しないルートを模索中だったりします

正史ではだいぶアレなフェードアウトしちゃったので、こっちくらいは、ね?

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