第1順
閑話として書いたエピソードのイイネがわりと多かったので、連載版スタートです٩( 'ω' )و
ほとんど見切り発車で、終着駅も見えてませんが、初めましての方も、そうでない方も、どうぞよしなにお願いします!
お読み頂いた方々が少しでも楽しんで頂けたら幸いです!
幽閉邸。
ここ大きな犯罪を犯した貴族を幽閉する邸宅。
刑罰が執行されるまで、私たち家族はここへ幽閉され続ける。
後悔したところでどうにもならない。
唆されたとはいえ、私のやったことは許されるものではないのでしょう。
「お父様、お母様……本当にごめんなさい……」
寝る前に、いつも口にしてしまう。
部屋は隣同士だけれど、私は両親の顔は見れない。
この部屋からは出ることも出来ない。
それも仕方がないことと言えばそうだ。
一応、大きめの声を出せば話は出来るのが、幸いか。
「ルツーラはいつもそれを口にするのね」
「……お母様」
隣の部屋からお母様の声がする。
どうやら私の呟くような声は、隣の部屋にも届いていたらしい。
「ここへ幽閉された当初は貴女を怨んだわ。でもね……私も旦那様も、貴女を甘やかし過ぎてしまっていたな……と、そう思っているの」
――ああ。もし順序を入れ替えることができたなら。
――魔封じを付けられた状態で使えなくなっている『順』魔法に願う。
――こんな結果を先に知った状態で、過去に戻れるのなら。
――私はこんな愚かなことはしないだろうに。
「だから謝らないでルツーラ。これは連座ではないわ。なるべくしてなってしまった家族の罪そのものよ」
お母様のそんな優しい言葉に、涙が止まらなくなった私は、何の言葉も返せないまま――泣き疲れて眠りに落ちた。
「おやすみルツーラ。この結末を気にするなというのはムリかも知れないけれど、私も旦那様も貴女を愛しているわ。可愛い娘だもの」
――そう。幽閉邸の一室で私は眠りに落ちたのだ。
――目が覚めれば、また幽閉邸で何もすることのない一日がはじまる。
――それが今の私の日常だ。
…
……
………
…………
――だとしたら。
――これはなんだろうか。
………………
…………………
……………………
――気がつけば、私はなぜか自宅の自室にいる。
「ルツーラ、そろそろ出かけるわ。準備は出来ているかしら?」
部屋の外から聞こえるお母様の声。
それに返事するべきなのだろうけれど。
「……この姿……魔性式の日?」
鏡に映る自分の姿は幼いものだ。
着ているドレスにも見覚えがある。
「本当に、歴史の順序が入れ替わった……?」
――あるいは夢か。
「だとしても」
この夢が覚めるまでは……。
・
・
・
私は両親と共に馬車に乗る。
そうして馬車に揺られて、恐らくは運命の始まりとも言える教会へ。
「ルツーラ様!」
私が教会へと入ると、見知った――けれど最後の記憶よりもだいぶ幼い――顔が集まってくる。
ダーリィ、マディア、ビアンザ。
そういえば……マディアには悪いことをしてしまったわね。
モカ様に負かされ、プライドだけを守る為ヤケになって、酷い命令をしてしまった。
人の意志を無視して操れてしまう魔法。本当に、私には過ぎたモノでしたわね。
「皆さんごきげんよう」
私の周りには人が多かった。
けれど、特にこの三人はよく一緒に居ましたし、よく私は持ち上げられてましたからね。
気がつけば、女神からの光を浴び続けている気になっていました。それが私の過ちの一つでしょう。そのようなもの女神の光でも何でもないというのに。
以前の自分について考えながら歩いていると、無意識にマディアの手を撫でていたようで。
「……えーっと、ルツーラ様?」
「お気になさらず。何となく触りたくなってしまっただけです」
「そうなんですか?」
ああ――マディアへ謝罪する機会を失してしまったのは、なんとも悲しいですわね。
ともあれ、今日の魔性式は大人しくすることにしましょう。
そう思っていたのですが、ダーリィがとある少女に気がつき、私に声を掛けてきました。
「ルツーラ様。あちら、貴族の多くが集まる場所なのに平民向けの本を呼んでいる者が」
彼女が示す少女を見て、私は胸中で青ざめます。
「……それがどうしました?」
アレには関わってはいけません!
この夢の中においては、関わらないと決めました!
なので、同じ過ちを繰り返すような誘いはやめてくださいませッ!
……というか、冷静になれば当時のサイフォン殿下の言う通り、私があまりにも無知すぎたんですよね!
幽閉邸に居る間、想い出を反芻しながら、反省しました!
あそこで言い負かされてしまったことが心の底で澱のようになって、余計にあれこれ拗くれていってしまった自覚があるので、この夢の中では関わり会う気はありません。いやもう本当。切実に。
もし、関わることになっても、突っかかったりケンカ売ったりはしませんので!
反省しているのに、同じ理由でケンカ売ったら何の意味もないではありませんか!
「いやですがルツーラ様がいつも言っているように、身の程を教えるべきでは?」
引き下がらないダーリィに、私はこっそりと嘆息する。
子供の価値観ですわね。
いやまぁ今は私も子供なのですけれど。
「貴族が主に集まる場にいる時点で貴族なのではございませんか?
それに、この場においては身分はあえて伏せられています。実際の身分の上下に関係なく、迂闊に暴くのは大変よろしくない行いでしてよ」
そもそも、ここは貴族社会のルールではなく、教会の――天愛教のルールが敷かれているのだから、そちらを優先しなければいけないのです。
そのことを前回の私は全く理解していませんでしたわね。
ここへ来る途中にも、お父様やお母様に説明されたというのに。
……ふと、思ったのですけど。
「ダーリィ。貴女はご両親からこの場でのルールの説明は受けていないのかしら?」
「えっと、その……」
「上位者として振る舞っていいのは、上位者として振る舞える場に限りましてよ。そこはしっかりと理解と把握をしておきなさい」
「……はい」
どことなく納得いかなげなダーリィ。
その危うさに、私は追加で釘を刺すことにする。
当時の私では気がつかなかったことも、今見ると明確に分かることがある。
「それと、あなたが示した本を読まれている方――見た目こそ地味ではありますが、ドレスは大変高価なモノであると見受けられます。
恐らくはあまり目立ちたくない方なのでしょう。あくまでこの場に合わせた地味なデザインのモノを身に纏っているだけ。
見た目と雰囲気、ドレスの質から推測するに、少なくとも私と同じ伯爵家――あるいは、それ以上の家の方だと思いますわ」
まぁ実際、公爵家の方ですけれど、そこは置いておきます。
この場で接点のない家の子供の顔を知っているというのは、邪推されかねませんので。
……実際、サイフォン殿下らしき少年がこっちを見てますしね。
サイフォン殿下らしき少年以外にも、前回は恐らく関わったことのない黒髪の少年もこちらを見ていますね。
うーん、ダーリィを嗜めたことで、彼らの興味を引いてしまったのでしょうか……。
正直なところ、目立ちたくないですし、関わりたくもないのですけれど……。
そんな私の内心はさておき、ダーリィはやはり不満げです。
この子、こんな子でしたっけ? いや割とこんなだった気がしますね。
私を、自分にとって理想の私に仕立て上げようとするくらいに、神聖視していた愚かな子。
無計画に幽閉されていた私に会いに来るような子ですものね。
その後、随分と叱られた上に、自宅に引きこもってしまったか……。
恐らく、ダーリィのことです。
幽閉されたことで反省した私や、引きこもっているのにお強いモカ様を見本として、自分も引きこもれば、より上に行けるなどと思ったに違いありません。
大事なのは引きこもることではなく、何に触れ何を感じたのか……でしょうに。
そんなダーリィですが……まったくもって、幼い頃からここまで拗らせているなんて思いませんでしたわ……。
一方で、マディアとビアンザは不思議と目を輝かせているようで。
……私、何かしてしまったかしら?
ともあれ、こうして私はモカ様やサイフォン殿下と関わることなく、魔性式を終えたのでした。
最後まであの黒髪の少年に見られてた気がしましたが、気にしても仕方がありませんものね。直接的に関わるようなことになるまで、気にしないでおきましょう。
今回の属性?
前回同様に『順』属性でしたわ。
まぁ、この状況こそが『順』の影響がありそうなので、これ以外の属性を私が手に入れることはない気もしますが。
連載初日なので準備が出来次第、もう1話公開します٩( 'ω' )و