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傭兵あがりの替え玉王女  作者: 亜逸


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第12話 初仕事

 これは、ロミアが女王陛下の替え玉として国の風土と歴史を学んだ際に()ったことだが、ルイグラム王国は様々な資源に恵まれた国だった。


 国土の三割を占める山々からは、鉄にしろ木材にしろ良質なものが手に入る。

 鉄に比べたらさすがに規模は小さいが、宝石が採れる山もある。

 耕種(こうしゅ)、畜産ともに農業が盛んで、交易の手札の多さはエヴリカ大陸でも有数。

 自給率の高さも大陸有数であることは、言わずもがなだ。


 だからこそ、ルイグラム王国を狙う国は少なくない。

 長年小競り合いを続けている、隣国のレーヴァイン王国は言わずもがな。

 アルメーラ皇国も、ルイグラム王国を狙う国の一つだった。



「とはいえ、アルメーラ皇国の狙いは、ルイグラムという国そのものではなく鉱物資源にありますが」



 リーゼロッテが高熱を出した二日後。

 王族御用達の箱馬車に乗ってアルメーラ皇国を目指していたロミアは、対面に座るエサミに、()の国とルイグラム王国の関係についての説明を受けていた。


 座学が苦手なロミアといえども、この二日間アルメーラ皇国関係に絞って勉強したおかげで、エサミの説明を理解できる程度には知識が身についている。

 ゆえに今行われている説明は、これまでロミアが憶えたことの復習という側面が強かった。


「それも、レーヴァインのような力尽くではなく、あくまでも外交で掠め取ろうと目論んでいる……で、あってるわよね?」


 座学の成果を示すロミアに、エサミは首肯を返す。


「とはいえ、自国の利益のために他国の利権を狙うこと自体は、どこの国でも多かれ少なかれやっていることです。侵略目的のレーヴァインとは違いますので、間違ってもアルメーラ皇国を敵視しないようお願いします」

「それくらいは勿論わかってるわ。敵ではないと思うこと以上に、味方だとは思わないようにしなくちゃいけないこともね」


 なおも座学の成果を示すロミアに、エサミは再び首肯を返した。


「アルメーラ皇国の国主であるエヴァス帝は、リーゼロッテ様からしたら何かと手玉に取りやすく、お得意様と言っても過言ではない相手になります。そういった意味では、替え玉として初めて外交に臨む相手としては打ってつけとも言えますが……」

「リーゼにとっては容易い相手でも、国主は国主。初陣(ペーペー)のアタシじゃ、逆に手玉に取られる恐れがあると思った方がいいわよね」


 ロミアの言葉に、エサミは三度(みたび)首肯を返した。


「例えば、レーヴァイン王国との小競り合いのために軍を貸し出すから、見返りとして鉱山の一つを共同で開発しよう――といった具合に、さも双方に利益があるような提案をしてくる可能性もあります。この場合、()の国の狙いが何であるか、ロミア様はわかりますか?」

「え~っと……共同開発を足がかりに、鉱山の領有権を奪い取る、もしくは事実上領有している状況をつくり上げる……とか?」

(おおむ)ね正解です。甘い言葉の裏には間違いなくそうした思惑がありますので、アルメーラ側が何を要求してきても、基本的には突っぱねる方向でいってください。ですがそれは、あくまでも〝基本的に〟です。何でもかんでも突っぱねては関係悪化に繋がりますし、それは我々もアルメーラ側も望んでいない」

「だから、ある程度譲歩を示す必要がある……ってことね」

「正解です」


〝概ね〟が抜けた正解がもらえたところで、ロミアは疲れたように息をつく。


「その〝ある程度〟のさじ加減が、アタシにとっては一番の難題になりそうね」

「間違いなく。さじ加減がわからなかった場合は、最悪、全て突っぱねてリーゼロッテ様に丸投げすることも視野に入れておいてください。下手に話をややこしくするよりは、まだマシですから」

「それは、そのとおりなんだろうだけど……その手は、本当にどうしようもなくなった時だけにさせてもらうわ。リーゼの負担が増えるような結果で終わらせたくないし」

「ですね」

 

 いつもどおり、エサミは表情一つ変えることなく同意する。

 面白ければ平気で事態をほったらかしにする上に、場合によっては引っかき回しもする愉快な性格の持ち主だが、主であるリーゼロッテを大事に想う気持ちに嘘はない。

 戦闘能力にしても、今回の外遊に同行している近衛騎士長(レオル)よりも高く、ロミアにとっても、エサミの存在は頼もしいことこの上なかった。


 などと思っていたら、


「リーゼロッテ様に全く負担がかからない方向で、会談が愉快な展開になってくれることを心から期待していますよ。ロミア様」


 やはり、頼もしさを補って余りあるほどに性格が愉快すぎると思ったロミアは、思わず頬を引きつらせた。




 ◇ ◇ ◇




 アルメーラの皇城に到着したロミアは、質素なルイグラムの王城とは対照的なまでに煌びやかな城の内装に、内心圧倒されていた。

 その一方で、こうも思ってしまう。


(豪華絢爛といえば聞こえはいいけど、これ見よがしに高そうな絵画とか調度品とか見せびらかしてるのは、かえって下品に見えるわね)


 アルメーラの使用人に案内された応接間も、豪奢の一語に尽きるもので、正直落ち着かないにも程がある空間だったが。

 残念なことに、会談はこの応接間で行われることになっている。

 正直、もっと落ち着いた場所で(おこな)ってほしいと思わずにいられない。


 ちなみに会談においては、一人までなら従者を同席することが許されている。

 リーゼロッテも普段からエサミを会談に同席させており、彼女のフォローを受けやすい状況にあることは、ロミアにとっては心強い限りだった。


 それから待つこと二〇分。

 アルメーラ皇国を統べる壮年の皇帝――エヴァスが応接間にやってくる。


「いつものことながら足労をかけてすまぬな、リーゼロッテ女王」


 その言葉の意味を、やはりエサミから聞かされていたロミアは、杖がなければまともに歩けないほどに足が悪いエヴァスに笑顔を返した。


「いえいえ。それこそ、いつものことですから」


 と、優雅に一礼する外面(そとづら)とは裏腹に、


(足が悪いくらい何よ。リーゼはアンタよりも長生きできないくらい体が悪いってのに)


 内面では、つい相手に不平を零してしまう。


 その若さからは想像もできないほどにやり手の為政者――諸外国から見たリーゼロッテが、そういう評価を受けていることはロミアも()っている。

 彼女が国主の座に就いた当初は、レーヴァイン王国やアルメーラ皇国以外にも、ルイグラム王国の領土と資源を狙った国がいくつもあったことも。

 それらの国に対してリーゼロッテは、当時一八歳とは思えないほどの政治的手腕をもって、そのほとんどを黙らせた。

 リーゼロッテ・マルス・ルイグラムがいる限り、ルイグラム王国は安泰だと思わせるほどに。


 だからこそ、リーゼロッテは若さ相応に壮健な姿を、国内外に見せつけなくてはならない。

 病で余命幾許もないとわかった途端、黙らされた諸外国がまたルイグラム王国を狙うかもしれない。

 アルメーラ皇国も、もっと強引な手段で資源を狙ってくるかもしれない。

 レーヴァイン王国が、ここぞとばかりに大規模な侵攻を仕掛けてくるかもしれない。


 そうならないために自分は替え玉を務めている――覚悟と重責を心に刻みつけたロミアは、内心の不平を笑顔で隠しながら、エヴァスに促されるがままにソファに腰を下ろした。


 エヴァスも従者の手を借りて、テーブルを挟む形で、対面側に設置されているソファに腰を下ろ。


「早速で悪いが、そちらから仕入れさせてもらっている鉄の価格、もう少しなんとかならぬか?」


 踏み込みこそ浅いものの、初手から鉱物の話題を振ってくるエヴァスに、ロミアは笑顔を崩すことなく気を引き締めながら、記憶の抽斗(ひきだし)を漁った。


(鉄の()に関しては、出発前にリーゼから絶対に現行のままにしておくようにって釘を刺されたわね……)


 あるいは、エヴァスが鉄の値(そこ)から攻めてくることを読んでいたのかもしれない。

 普段のリーゼロッテを見ていると、つい失念しそうになるが、つくづくとんでもない女王陛下だと思いながら、ロミアは返答した。


「申し訳ございません、エヴァス帝。今以上に鉄の値を下げるのは、我が国としても厳しいものがあります。ですので、ご期待に添うのは難しいかと」

「そこを何とかならぬか? 直近の会議で軍備を増強することに決定してな。鉄も金も、いくらあっても足りぬのだよ」


 軍備の増強――この言葉が、こちらを揺さぶるために紡がれたものであることは明白だった。

 実際にレーヴァイン王国と小競り合いを続けているルイグラム王国にとって、それは過敏に反応して然るべき言葉だったからだ。


(脅しに使うつもりでもないくせに……洒落臭(しゃらくさ)いわね)


 尋常ならざる洞察力をもって、エヴァスが軽い気持ちで揺さぶりをかけてきたことを看破したロミアは、「リーゼなら、たぶんこう答えたでしょうね」と想像しながら、反撃の言葉を紡いだ。


「軍備の増強に鉄と金が必要……それがわかっていらっしゃるエヴァス帝ならば、レーヴァイン王国という脅威に晒されている我が国が、その両方をどれほど必要としているのかも、わかっていらっしゃいますよね?」


 その理屈に照らし合わせれば、鉄の値を上げてもいいくらいですよね?――と言わんばかりの視線を、エヴァスに向ける。

 さすがは一国の主というべきか、ロミアの視線の意図をしっかりと理解したエヴァスは、鷹揚にかぶりを振りながら、されど額には冷汗を滲ませながら返事をかえした。


「勿論、わかっているとも」


 (いくさ)でいえば、今のはあくまでも初戦。

 けれど、確かな手応えを抱くには充分すぎる戦果に、ロミアは、これならいけるかもしれないと少しだけ自信をつけた。

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