幼馴染と観覧車に乗った
俺、陽は猛烈にドキドキしている。幼馴染である彼女、朋美と
一緒に観覧車に乗ることになったのだから。
話はさかのぼること一週間前。彼女とは幼稚園のころからずっと一緒にいる
存在で、家も隣。もちろん昔はよく遊ぶ仲で今もそうなのだが俺は彼女を
異性として意識している。つまり彼女に恋心を抱いているということだ。
ちなみになぜか小学校からずっと同じクラスだ。
定期テストが終わって一息をついていた金曜日、彼女から遊園地に行かないか
とメッセージが来た。彼女から誘ってくれるなんて思ってもいないことだ。
俺はその提案に快く引き受けて今日に至るわけだ。
そして俺は遊園地に行く前に硬く決意した。彼女に告白するということだ。
俺はこれだけ意識しているのに彼女の方は普通に幼馴染として接している。
少しくらい意識してほしいものだ.......
しかし、すでに俺たちは高校二年生。この機会を逃せば告白するチャンスは
やってくるはずがない。俺の直観がそう言った。
そんなこんなで日が沈みかけたころに最後にと観覧車に乗るということだ。
係員さんの指示に従って俺たちは観覧車に乗り込む。
「ずっと遊んでいたけどこういうゆったりするのもいいよね.......」
彼女は夕陽に染まる町を見ながらそう俺に言う。
「......そっ.......そうだね」
彼女のゆったりさに反して俺は心臓バクバク状態だ。
「覚えてる?小学三年生のころ、親にここに連れてってもらったとき
私と陽で迷子になって、私が泣いても陽が慰めてくれて.......」
「確かにそんなこともあったな......」
彼女の話すエピソードから記憶が鮮明によみがえる。
「あとは中学二年のとき、陽が骨折して何もかもやる気なくしていたとき
その姿が嫌で私がやる気が出そうなものをもってきて無我夢中で
やっていたときのこと」
「ああ、あったな.......おかげで骨折も治ったし新しい趣味もできて」
俺たちはそんな風に昔の思い出の世界に入り浸る。
ちょうど観覧車はてっぺんに差し掛かっていた。
「あのさ.......私、引っ越すことになったんだよね.......」
「えっ......」
「お父さんの仕事の影響でさ。だから一週間したらいなくなるんだよ.......」
俺はその言葉を聞いて声を出すことができなかった。
そのとたん、さらに様々な思い出が次々と鮮明に浮かぶ。
花火を見たあの夏祭り......駅前のイルミネーションを見ながら歩いたクリスマス
バレンタインデーに"義理"と言ってくれたチョコ、小さいころに入った
市民プール、一緒に必死になって勉強した高校受験、時には喧嘩もした。
気が付けば俺の目からは涙が出ていた。それにつられて涙を流す朋美。
「ごめんね.....なんか.......」
「大丈夫.......」
俺はそう言うのが精一杯だった。観覧車は残り四分の一のところまでやってきた。
沈黙が続く数秒......俺はここで言わないといけない......でも......
「あのさ......朋美.......」
「ん?何......陽」
この会話だけで俺は甘い空気が流れた........気がした。
「ずっと思っていたんだけどさ........俺、朋美を幼馴染としてではなく
異性として好きだったんだ!もしよければ付き合ってくれ!」
俺はずっと胸の内に秘めていた思いを朋美に言った。もちろん彼女が
引っ越してしまうことはわかっている。それでも.......
するといきなり抱き着く彼女。それに対してテンパる俺。
俺は幼馴染と観覧車に乗って、彼女と観覧車を降りた。