美醜逆転の世界で嫁をゲットした話
やあ。いきなりごめん。そんなに時間は取らないからさ。
最初に質問なんだけど、俺のルックスがどれだけアカンかって話、聞きたい?
聞きたくないよね。そりゃそうだよ。俺だって見ず知らずの人からそんなこと延々と聞かされた日には食欲に支障が出る。だから、もしかしたら俺の見た目が気になるかもしれないけど、それについて詳細な描写はしないでおくよ。その代わり、俺は自分のこの醜い顔が大嫌いとだけ言っておく。ファッションセンスもないし。
ぶっちゃけた話、人って見た目で人生決まっちゃうよね。そんなことない?本当に?でも、極端な例を出すと、見た目が良くない人はモデルになるという可能性を生まれた時点で潰されてるわけ。まあ整形とか敢えての採用とかの例がないこともないけど、化粧品のCMとかに醜い人を使うなんてありえないでしょ。そういうことが言いたいわけ。美しいと醜いの差って、場合によっちゃ若いと老いの差よりデカいよ。
残酷だよね。そう感じたことはない?
俺はコンプレックスの塊だったよ。誇れるところといえば舌がよく回るところくらい。これだって、俺がお喋りなのと、同じクラスだったアイツがお喋りなのとでは女子の反応が全然違ったからね。俺はせいぜい面白枠に甘んじることしかできなかった。一方アイツは卒業するまでに七股したってさ。見た目以外の何が違ったんだろうね?これは僻みだよ。でも俺は今でも純粋にわからない。少なくともアイツに並外れた共感力とかユーモアとかはなかった。俺の方がよく笑った。本を読んだ。速く走った。なんて、今言ってもしょうがないけどね。
まあ、そんなこんなで鬱憤が溜まっててさ。二十歳を越えたある日、鏡に向かってシャドーボクシングをかましたんだよ。目の前のバカの醜い顔を一発殴って少しでも形が変われば儲け物だ、って。いや、もちろん寸止めくらいにしようと思ってはいたよ。そしたら信じられないことに、拳の先がぐにゅっと鏡の中にめり込んだ!あん時は腰抜かしたね。生活がうまくいってなかったから、こりゃ笑える夢だと思って、いっつか昔に書いて保管してた遺書を書き直して、それをこれ見よがしに自室に置いてから鏡の中に飛び込んだんだ。
鏡から入ってその鏡から出た。「向こう側」も大体「こっちの世界」と同じ感じだったけど、違うところもあって。人の見た目について、美醜の概念が逆転してた。すぐわかったよ。俺がただ外を出歩いてるだけでチヤホヤされるなんて今までなかったからね。どうだろう、そろそろ俺の見た目の悪さが伝わったかな。要するに「向こうの世界」に限っては絶世の美男だったんだ。
これはいけると思って、ずっと行きたいと思ってた合コンに参加してみた。世界が自分を肯定してくれているように感じるのって、すごく気持ちいいね。俺はただの醜い男じゃなく、それなりのコミュニケーションができる醜い男だったから、楽々一人の女性を引っかけることに成功したよ。他の男だとこうは行かないはず。惜しむらくは、「向こう」の基準で自分の美貌に自信のある女性しかその場にいなかったことがね。その人は即捨てた。
結局顔だよなって思ったよ。ちょっと人間という存在そのものに失望しかけたけど、幸い勝者側になれたし、過去の分までそれにとことん乗っかって生きていくことに決めた。具体的には、選び放題の立場を生かして最高の結婚相手を探すことに心血を注ぐことにしたんだ。
ある時街で超絶好みの顔をした女性を見かけた。「こっち」の基準だと彼氏がいないはずがないような人だったけど、「向こう」の基準だと売れ残り必至だったから、思い切ってナンパしてみたんだ。そこからトントン拍子に話が進んで、めでたく交際までいけた。幸せだった。だけど、しばらくすると彼女の粗が目立ち始めた。俺に対して、こんな私でいいんですか、と言いながらその態度は不躾で横柄なところとかね。まあ、それも不思議なことじゃない。見た目が悪いと性格も歪むんだ。本当に嫌になる。見た目、見た目、見た目なんだよ。その子も捨てた。
そうやって五年くらいの間何人かと遊んだ後、転職した先で、「向こう」の基準でいうところの美人に絡まれた。アンタ女の子を泣かせまくってるって噂よ。ちょっと顔が良いからって調子乗ってないでしょうね、だってさ。正義面してたのがムカついたんで、ゲームを仕掛けることにした。そんなに俺がクズだと言うなら、俺に靡けば俺の勝ち、俺に靡かなければお前の勝ち。そう正面切って言ったんだよ。どうなったと思う?なんと俺の勝ち!一年くらいで落ちて笑っちゃうよね。良い男にアプローチかけられてる自分って構図がお気に召したのかな?浮気はやめてねとか言ってきて、今は俺の嫁になってるんだ。
そんな女を嫁にした俺も相当気が狂ってるけど、なんだかんだでチョロいところとか、人一倍愛嬌があるところとか、気が強くてはっきり物事を言ってくれるところとか、それでいてこんな経緯だった俺にはすきすきアピールをしてきて従順なところが愛らしく思えてきたんだ。わからないもんだよ。終いには大切にしなきゃなーとか思うようにもなった。これは愛情、なのかね?あちらさんも俺から離れられなくなってる。捨てられないように努力してるらしい。よく喧嘩するんだけど、最後は雑に気持ちよくなって水に流す。こんな関係も悪くはないと思ってる。
こうして誰もが認める美形カップルが誕生した。とまあ、惚気に付き合ってもらって悪いね。性格に難があった者同士お似合いなのかもしれない。
今では言うほど彼女の見た目を気にしてはいない。元々俺ほど酷い顔じゃないしね。もう少し顔が良ければなあと感じることは多々あるけど、こういう人生単位での付き合いにおいては、顔が良くないというデメリットを他のメリットが上回れば許容できるものなんだなって気づいた。
俺は美醜が逆転したこの世界で生きていく。テレビとか吊り革越しに見る広告とかに出てくる「美男美女」がずっと好きになれないけど、思ったより生活に影響はないからね。しかし、本当に変だし信じられないよ、ここの世界の人たちの感覚は。目鼻立ちが整った人が美形だなんてさ。いつかは嫁にも、この二つの世界のことを話すつもり。
顔の美醜はめちゃくちゃ重要。その持論は変わってない。でも不毛であることも間違いない。つくづく残酷で、滑稽なことだよね。人の見た目の美醜を議論するなんてさ!
《END》
ブ男の婚活物語を読んでいただきありがとうございました。
次は、もっと素敵な低品質を。