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41.暗黙的属国

 色々とお話したいところではあったのだけど、そういう感じでもなかったのでそれはまた次の機会にということになった。だってセリアはお疲れだし、ミザリィは動揺が抜け切らないし、肝心のフラン君は就寝中である。平気そうにしているのはマニだけだが、言うまでもなく彼女がどんなに元気でも意味などない。話が進まないからね。


 大まかに何があったかくらいは確認できたので、今日のところはこれで良しとする。知人が目の前で殺されたというフラン君や、危うく殺されかけたというミザリィの尻を叩いてまで面談を優先しなくてもいいだろう。落ち着いてくれるまでは待とうじゃないか、うむ。


 そんなことをセリアに告げて、ひとまず連れてきた二人は王城預かりとしておいた。セストバルの件が終わるくらいまでは放置しておこうかな?


 そのついでにモロウ、ダンバスという二人っきりで新王国を回している頼りになり過ぎる政務組とも話をしたんだけども、まあ、否定的なことは何も言われなかったね。城に置くことも、面談してみての結果次第ではあるが行く行くは雇おうと思っていることに関しても。元から勧誘対象としていたフラン君のほうは若いし才能持ちだし、経歴がクリーンなこともあって彼らが歓迎する意味もわかるのだが、ミザリィに難色を示さないのは少々意外だった。反社会集団出の者を臣下とすることに懸念はないのだろうか?


 彼女自身が何か仕出かすのもそうだが、国民に過去がバレたりしたらと思うとけっこうなリスクがある気がするのだけど。


「彼女が闇の斡旋業者『ブローカー』に所属していたと知るとすればその利用者が大半を占めるでしょう。ならば、新王国には道を踏み外した者にも救済があるのだとかえって心強く思うはずです」


「実際、その組織の主な顧客層と思われるスラムの住人らにこそ優先的に手を回してるところですからのう。生活水準の良化をその身で体感している以上、ミザリィ嬢が宮廷に勤めていると知っても問題にしようとする者は出てきますまい」


 なるほど、そういう考えもあるか。確かに上流中級下層を問わず市政改革の対象ではあるが、単純に金をバラ撒いているのは貧民街スラムや準スラムの市民に対してのみだ。それは一刻も早く王都の闇とも称されるその存在を浄化するためでもあったし、治安回復を図って景気以上にわかりやすく国の変化を国民の目に見せつけるためでもある。


 その強引だが的確でもある患部の切開手術が思わぬ副次効果も生んだといったところか……ミザリィは先見あるこの二人に感謝しないとな。


 感心しきりの俺に、モロウは言った。


「ちょうど新たなプロパガンダを打ち出すところでもありますので、人員を増やす時期としては最良かと」


 最良、というのはいつものリップサービスだとは思うが。それにしても新たなプロパガンダというのはなんのことだろう。訊ねるまでもなく俺の顔から疑問を読み取ったらしいモロウは「はい」とやけに溌剌と頷いて続けた。


「無論、イデア様がご活躍なされたステイラ公国との一戦。友国であるセストバル王国を守るために単身で万の軍勢に挑んだという、多くの証人がいる最新の逸話を我らでも広めるのです。耳の早い者は既に噂として聞きつけてもいますので、今こそ公に国民へ報せる良い機会かと愚考した次第です」


「愚考した次第です、じゃなくてね……別にプロパガンダ目的でやったわけじゃないんだけどな。そもそもセストバルを守るっていう約束もまだ途中だしさ」


 それをさも成し遂げたことのように喧伝するというのはどうなんだろう。ちょっと気が早いというか、恥ずかしいことではないだろうか。まずもって友国への義ではなく金欲しさにほいほいと出向いて行ったのだし、戦争も魔法ひとつで終わっちゃったし……こんなものが偉業として扱われていいのか甚だ疑問である。


 や、わかってはいるんだけどね。新王の威信を示すというのは求心力を高めるためにも国の団結を強めるためにも何度やろうと損はない。そしてその中身として『他国を一人で打ち破った』というのは、それはもうセンセーショナルだ。その動機が(傍目には)自国のためではなくまた別の国のためであるというのもいい感じである。情に厚く戦に強い。まるで英雄物語の主人公だ。


 そんな人物が王であるのだから、新王国は特別な国なのだと。この国で生きられることはこの上なく幸福なことであると、そうモロウは皆に思ってほしいわけだ。


 それを承知した上で、やっぱり嘘はついてほしくないと思うわけだ。本当のことを言わないのはいいけれど意図的に騙そうとするのはよくない。どうでもいい相手ならいくらだってだまくらかすけどさ。だけどお飾りの王でしかない俺は、だからこそこの国に対して──延いてはこの国の民に対して、それらが善良である限りはなるべく誠実でありたいと考えているのだ。


 なのでそう伝えてみると、モロウもダンバスも心得ているとばかりの顔付きで応じた。


「ここで広めるのはあくまでステイラの侵攻を阻みセストバルに一人の被害も出さなかったという、戦争における勝利のみですじゃ。これだけでも充分に伝説ですからのう」


「より大々的に友国を他国からの脅威より守り抜いた、と知らしめるのはセストバル王からの申し出があってからでよいでしょう」


「申し出?」


 首を傾げた俺に説明されるモロウの考え。それはこの件が済み次第ジョシュアは条約の内容を改めたいと伝えてくるはずだ、というものだった。『国交ノ結ビ』はさすがに古すぎて現行として置くには相応しくないなどと言えば──実際にモロウたちもそう思っているようだし──こちらとしてもそれに応じざるを得ない。そしてそこでジョシュアは、条約の文言を現代版にアップデートするだけに留まらず、より恣意的に手を加えようとするだろうと彼は述べる。うーん?


「より恣意的に、と言ってもあれは対等が絶対条件でその都度余裕があれば互いを優先的に交易相手にしよう。って程度のなんともゆるゆるな文書だったはずだけど」


 大胆に書き換えるにしても元がこれでは限度があるぞ。まさか改めると言っても悪いことが書かれているわけではない既存の書面を一から十まで無視するというのではあまりに政治蛮族が過ぎる上、そして何よりも。


「セストバルの王は謹厳で、だからこそ大胆な手が取れない欠点も抱えていると言ったのはお前じゃないか? 実際に会ってみて俺もそう思ったよ。だからジョシュアがそんな手で新王国に対して優位を取ろうとしてくるとはとても思えないんだが」


 戦争のあとから、というよりもエイドス魔法の実践を目にしてからジョシュアの態度はちょっとばかし硬くなった気もするけれど。だがだからと言ってそうあからさまでもないし目の色が変わっているわけでもない。俺と敵対する危険を冒してまで政治的な一手を仕掛けようと決断するのは考えられないというか、まずあり得ないことだろう。


「まさにその通りなのです、イデア様」


「うん? どういうこと?」


「僕が思うにセストバル王は優位を欲しません。むしろ逆です。自国を新王国の下部に置くでしょう。明示こそしないでしょうが条約内容もそれに沿った、暗黙的属国の立場で定めようとするはずです。それは新王国の……いいえはっきりと申すのであれば、イデア様の庇護を得られるかどうか。それこそが現存の既得権益の何よりも重要となるからです。少なくともセストバル王はそう考えることでしょう」


 対等でいられるほどセストバルが強い国であればよかったのだろうけど。それは戦力のみならず国の持つ全ての力を指してのことだが、しかし自国の何を持ってしても俺という一個人には及ばないと。ジョシュアはそう見做すだろう、とモロウは言っている。それはまだ予測でしかないが、彼はそう確信しているような口振りだったし、ダンバスも同意見のようだった。


「横並びは重い。ならいっそのこと傘下に入ってしまおうってことか。そして新条約でその立場を国際法にも確かなものとすると……それなら不思議じゃないな。逆に如何にもやってきそうだとも思える」


 友として接するのに苦労している様子のジョシュアを目にしているものだからね。


 上下を決めるのではなく主導的立場を新王国に譲ることで、一歩下がった代わりに新王国の背中に守ってもらえる立ち位置に入る。要はそういうことであればまあ、ジョシュアらしいと感じるかな。無論半端な気持ちで決定できることではないし、もし本当にそうするのであればセストバル王国としての転機であることも理解した上での一大決心となるだろうが。そうなったとしても俺に否やはない。好きにしてくれたらいいと思う。


 今回は見返りを期待して助けたが、もう知り合い同士だ。古い条約頼みの関係ではなく直に手を取り合った友であり隣国として、次にまた何かあっても手を貸すことはやぶさかではない。たとえ払えるものがなかったとしてもね。だから属国(っぽい立場)になることでジョシュアとその臣下、国民らが安心できるというのであれば是非ともそうしてくれて構わない。そうであろうがなかろうが俺のすることは同じなのだから。


 とはいえ、予測は予測。セストバルとステイラの確執もまだ晴れていない以上──それが本当の意味で晴れることはもしかしたらないのかもしれないが──全てはこの件が片付いたのちに、ジョシュアがどういう決定を下すかにかかっているわけだ。どういう形であれ、俺はそれを快く受け入れようじゃないか。


 ジョシュアが選択を誤らないうちはな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 上下を決めるのではなく主導的立場を新王国に譲ることで、一歩下がった代わりに新王国の背中に守ってもらえる立ち位置に入る。 ふむ……。確かにそういった面もあるだろう。 強い政策には出られない反…
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