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256.『幽玄の魔女』

 俺に実力を示し、他の魔女からも認められたことでアーデラは晴れて円卓に座す権利を得た。それと共に賢者見習いだったミルコットとノヴァも正式な賢者へと昇格し、アーデラに付くこととなった。それが今から半年ほど前のこと。第二次竜魔大戦の終結からそんなに経っていない時期であると明かせば察しもつくであろうが、そのときの活躍ぶりがルナリスたちが認定を下す大きな後押しとなったのだ。無論、俺とのサシでの手合わせ──通称『魔女試験』をクリアしたのが最大の要因ではあるが、それに挑戦できる資格を得ている時点で半ば認められていたようなものだ。結果一発合格となった彼女は今や晴れて俺と肩を並べる魔女の一員である。ちなみにその通り名は『幽玄の魔女』。名付け親はルナリスだ。由来となったエピソードについては長くなるのでまた今度語ることにしよう。


 もうひとつちなみに。アーデラが魔女入りを果たしたことで俺は一時賢者がいなくなってしまったわけだが、不在期間は短かった。すぐに新任を据えたからだ。いったい誰をそこに置いたかと言えば、そう。かのフランフランフィー・エーテル。ここ十年で充分に賢者と呼べるだけの実力を身に着けたフラン君である。まあ、ちょっと前までのミルコットたちのように見習いであってまだ正式に賢者を名乗れる身分ではないが、しかし見習いとは即ち研修期間のようなもの。フラン君ならいずれ確実に昇格できるし、なんならミルコットとノヴァの見習い日数より余程短く賢者入りできるのではないかとも見ている。二人を貶めるわけではないが、フラン君は魔法面以外でも多才だからなぁ。


 賢者でありながらステイラバートの学術院長でもあるモーデウスを代表に、会談外に役職を持つ者もいるのはご存知の通り。フラン君もそんな中の一人で、会談の構成員となってからも政務室務めをやめていない。どころか、ダンバスから引き継いで政務室長にまでなっているくらいだ。この肩書き自体は八年くらい前にできたものだと記憶しているが、いい加減に歳だからとダンバスがモロウかフラン君へ室長の座を譲りたいと申し出て、選考の前に先んじてモロウが辞退したため半ば自動的にフラン君がその席へ座ったのだ。これが去年のことで、一応言っておくと百歳を超えてもまだダンバスは現役である。単に役職上のリーダーから退いたというだけで未だに皆のまとめ役としてバリバリに働いてくれている。去年の段階ではてっきり隠居でも考えているのかと思っていただけに俺も驚いたものだが、彼の年の功は幾度となく新王国を救ってきている。本人が重荷と思わない限りはいつまでも政務室の長老を務めてもらいたいところだ。


 話が逸れたが、ともかく内政官としてもモロウやダンバスといった優秀極まりない面々から厚く評価されているのがフラン君だということだ。セリアと共に公務において俺の付き人的なポジションにいるモロウはそれ故に政務室長を自ら辞したが、自分の代わりとなるのがフラン君であるという事実はその判断へ大いに影響をもたらしたことだろう。彼ならば任せられる、と不安なく思えたからこその躊躇いなき辞退だったに違いないと俺は思っている。直接そのことを確かめたわけではないが、普段の接し方や話しぶりで彼がフラン君を高く買っているのは重々に伝わってくるからね。


 それだけ有能なフラン君のこと、賢者としても各員から評価されるのは確実。というか既にルナリスやその双子賢者あたりからは絶賛されているくらいだ。顔合わせの当初、思い切り性別を間違えた上でかなり乱暴に喧嘩を吹っ掛けてフラン君を怖がらせて以来なんだか気まずそうにしているティアラあたりも、たぶん彼の確かな才能を感じ取ったからこそああも逸ってしまったのだろうし。こんなことを言ってはあれだが俺が手塩にかけて赤子時代から育て上げたミルコットたちよりもよっぽど彼のほうが会談のメンバーに相応しく、その能力も高く有しているのは間違いない。才能面では文句なしのアーデラだって会談員に似つかわしいメンタリティかというと決してそんなことはないしな……なんで俺の弟子たちはこうも極端に癖が強いのだろうか?


「魔女として未熟なアーデラも、賢者として未熟なミルコットとノヴァも。いつまでもそのままってことはないけれど、成長は遅いよりも早いほうがいいからね。たまには風紀委員の目が光っていない会談で自分たちなりに頑張ってもらおうと考えたんだ。だから今回の会談には不参加とする」


 ちゃんとルナリスには伝えてあるから心配しないでくれ、と言えば本当に二人は見るからに安堵した。むう、誰に何を伝えておいたかうっかり忘れてしまうことが多々あるとはいえ……それで今も迷惑をかけてしまったばかりとはいえ、ここまで露骨に疑われるとは。不甲斐ないことである。


 重要でないと感じた事柄に脳の容量がまったく使われないこの反射的な癖をどうにか直したいと常々思っているのだが、なかなかどうもね。姉妹と一体となってからは俺のうっかりを彼女らが指摘してくれる形でかなり被害は軽減されているのだけど、なまじ自意識以外の注意者がいるおかげでうっかりそのものはますます多くなっている気がする。これはよくないな。杖に頼り切る魔法使いよろしく、姉妹を頼りにしていては本格的にミスだらけのポンコツになってしまいそうだ。


「でしたらフランはよろしいのですか? 彼もパーティーに掛かり切りで、私たちとは違って抜け出すこともできない状況にあります。魔女が出席しないにしても会談には賢者だけでも向かわせるのがルールだと、以前にイデア様より聞き及んだ覚えがあるのですが」


「お、さすがセリア。よく覚えているね。確かにそういうルールというかしきたりはあるよ。でも、弟子は三人とも実質で言えば俺の賢者みたいなものだからね。それに今回の議題がどういったもので誰の発案なのかも既に把握しているからそこも大丈夫。その結論も含めて俺もルナリスも既に想定済みさ」


 魔女だけでなく賢者不在でもなんの問題もない、と強調して言っておく。そう聞いてセリアは会談で何が行われるのか気にしている様子だったが、それ以上訊ねようとはしなかった。俺が今ここで説明する気がないというのを敏感に察したらしい。いつでも引きっぱなしであるミザリィとは異なり、こうして引くべきところを嗅ぎ取り的確に引くことのできる彼女は、俺との付き合い方に関してはフラン君よりもはっきりと優秀である。これも一種の才能に数えてもいいのかもしれないな、とやはり共にいて心地いい彼女へと微笑んで、俺は訊ね返す。


「本当によかったのか? ダブル賢者の例はふたつもある。セリアさえ望むならフラン君と一緒に君のことも俺の賢者にしたっていうのに。少しだけ・・・・悩んだ末に君はそれを断った。きっばりとね……後悔はないかい? もしもあのときの判断を悔やんでいるのなら今からでも賢者入りを再検討させるよ。前と違って会談の門戸はいつでも開いているんだ」


「……!」


 この改めての勧誘にセリアは目を丸くさせた。誘い直しがあるとは夢にも思っていなかったようだ……しかし会談は人材不足なのである。十年かかって魔女一人と賢者三人を得て。スピード感だけで言えば決して悪くはないのだが、この先もう一度十年経って魔女がもう一人増えているかというとまったくそうとは思えないのがネックだ。十年どころか二十年、三十年先を見据えてもそれは同じこと。どうしても手っ取り早く魔女の数を増やしたいのであればクラエルとフォビイを解放すればいい──と思っていたのも今は昔。姉妹に続いて俺の中で目を覚ました二人が揃って今すぐ肉体を取り戻すのを拒絶したことからその手は取れなくなった。


 クラエルはオレクテムの離反を許したことと、いくつかの判断ミスを自責しての謹慎を望み。フォビイは吸収するよりも吸収されるほうが好みだとなんと俺の内部で居心地よくしており、しばらく魔女として働く気はないと告げてきた。理由は違えどどちらも会談への復帰を望んでいない。こちらとしてもやる気のない者を無理に起用するわけにもいかないので、とりあえずは姉妹たちの半分。望み通りクラエルには懲罰期間として五百年、フォビイには有給休暇として五百年を与えることとした。つまり最低でもあと四百九十年間、二人は俺の中に閉じ込められたままになる。退屈が過ぎて早めに音を上げるのではないかと予想もしているが、少なくとも十年程度ではまだまだどちらも満腹とはなっていないようである。


 このぶんだと本当に復帰は五世紀あとになりそうで、そのことはちゃんとルナリス始め会談の全員に共有したが案の定それを聞いた誰もが──特に魔女の三人が──頭を抱えたのは言うまでもない。とまあそれだけ人材に飢えているのが現状の『魔女会談マレフィキウム』なのだ。一度お流れになったからといって賢者候補に名の上がった者を以降放ったらかしにするほうがおかしいわけで。


「どう? 今なら考えも変わったりしないか、あるいはもう変わってやしないか。もう一度聞かせてくれセリア」


「…………。……イデア様、私は──」


 俺の再度の確認に、黙考の後にセリアは意を決した表情で口を開いた。

 


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