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255.戦勝国と敗戦国

「そんなにも評価なさっていたのですね。身柄を手に入れておきながらあまり興味をお持ちでないようでしたので、女王含め竜人たちはイデア様にとって『価値のない』ものかと思っていたのですが……」


「そんなことはないよ──ああいや、その価値っていうのが一昔前の研究材料・・・・としての意味であれば、確かにそこまでのものじゃあないけどさ」


 取り組む研究の中身が変わった今となっては材料などもう必要ないからね。使うにしてもそれは別の用途となる……ただしこの先に何があるかはわからない。また特段に優れた材料が要り様にならないとも限らないのだ。手元に置いておくに越したことはなく、そういった意味で竜人に価値が『まったくない』とは言わない。だけども、それは十年前にオーゼムを身内へ引き込む判断をしたのと同じく比重としてはそこまで大きくないことは確かだ。


 被害がゼロとはいえ、侵略者である竜人をどう扱うかについて俺の一存で決められるとなったとき。たった五百年ちょっとでここまで極端な進化ができる──それも自らが望んだ形で──竜という生き物を改めて面白いな、と。純粋にそう思ったからこそこちらも誰も殺さなかったのだ。さすがはオルトーが熱望し、長く時間をかけて妥協せずに生み出した種族。本来の支配者に相応しく殺すには惜しい存在だと言えた。


 無論これは竜人側がそれを受け入れたが故の結果でもある。殺すつもりで挑んだ相手から情けをかけられるのを良しとしないタイプは珍しくなく、実際竜人の中にもそういった気質の者は少なからず見受けられた印象だった……が、彼らにとって女王の号令は絶対。そして肝心の女王が、やたらフレキシブルであったのかそれとも実力差から馬鹿らしくなったのか。シースグラムの仇討ちという強く打ち出していた絶対の目標をあっさりと放り捨てて全面的に降伏することを選んだのだから、竜魔大戦時代の禍根はこれで断ち切られたものとする。女王は『今後一切恨みつらみを持ち出さず命令に逆らいもしない』という、俺に勝つことだけを目指して生きてきたからには屈辱的で仕方ないであろう内容の盟約を大人しく結び、第二の竜人国をここ新王国のすぐ横に設立することで属国として生き延びているのだ。


 他の竜人の誰よりプライドの高そうな──そして誰より俺に勝利することを渇望していた──あの女王がよくそんな決断を下せたものだと感心する。まあそこは俺が努めて誰も手にかけなかったことが良い方向に作用しているのだと思いたいところだ。そうでなければ少々不気味だし……ぶっちゃけ繰り返されるアポなし訪問といい、女王が何を考えているのかよくわかんなくて怖いんだよね。


「少々自由を与えすぎているのではありません? イデア様」


「ん。もっと竜人を縛り付けるべきだとミザリィは思うのかい」


「イデア様が取り決めになられたことに異論を唱えるわけではございませんが……しかし聞けば女王を始め竜人は大陸と外苑陸地にある元の国とを自由に行き来しているそうではないですか」


「うん。そうできるように俺が転移門を作ったしね」


「至れり尽くせり、というやつですわね。聞くだに植民地とはとても思えませんわ」


 確かに。一時は本気の殺し合いを演じた相手だとは思えない好待遇だ。手厚くあちらの利益優先で貿易までしたりして、言うなれば保護してあげていると言えなくもないこの状況。戦勝国と敗戦国の関係としてはままあるものとはいえ、魔女が絶対の裁定者であるこちらの世界においては非常に特異な成り行きであることは間違いない。ミザリィからすれば何を考えているのかわからないのは俺のほうだろう。だが、冷静に考えてみれば何もおかしな真似をしているわけではないと理解できるはずだ。


「人類も魔女も未踏域だった外苑陸地。そこで栄えている竜人たち独自のアイテムや技術を新王国は入手できた。しかも安定供給・・・・! これは偏に竜人を滅ぼさなかったこその戦果だろう」


 中でも大きいのは竜の肉体そのものが素材化した竜鱗や竜骨、竜玉あたりだ。死した竜人は竜態へと戻り、その死骸は時間をかけて純化及びに硬質化を果たす。それで作られる道具はどれもとびきりの性能を有し、また大陸側の技術と合わさることでまさに今技術革新が行われようとしているところだった。


 と言っても竜材は現在はまだ新王国と、うちが横流し(ジョークである、念のため)しているメギスティンでしか流通していないほぼ独占品。加工の難しさもあって例の如く杖や呪文所のように一般アイテムとして世間に下るのは数年から十数年先のことになると思われる。指輪型の杖や低価格の限定呪文書、それに呪式魔化ローブが段々と普及してきていること……相も変わらず魔法の聖地からの発信で界隈はにぎわっているが、そのどれもが魔法使いが自力で得るべき強味や成長というものを阻害する道具ばかり。メギスティンに関してはそれでいい・・・・・と俺も決定に加わった身ではあるが、竜材の登場によってますますそれが顕著化するかと思うと少しばかり残念な思いもある。


 せっかくの貴重な素材なんだからもっといい使い方をしてほしいところだ。けれども、これは言っても詮無いことだとわかってもいる。提供者の竜人たちには悪いけどね。


「元々手広く活用しているとはいえ、仲間の亡骸なんだ。仇敵と見做していた俺に譲り渡すのは竜人だって気持ちのいいことじゃないはずで、でも彼らはそれだって飲んだ。更に、一応のけじめとしてマニにつけているのと同じ『首輪』だって嵌められているんだよ? 万が一にも反抗の目はないし、内心はどうであれ敗北者として示すべき態度を粛々と示してもいるんだ。これで待遇まで酷いものにするんじゃやり過ぎだと俺は思うな。断ち切ったはずなのに、そこでまた新たな遺恨が生まれたんじゃ意味がない。そうだね?」


 ミザリィは頷く。その顔付きからして納得しきってはいないようだが、自分でも言っていたようにあまり強く主張したくないのだろう。彼女ともだいぶ仲良くなれた自負はあるが未だに遠慮が見え隠れするというか、セリアなどと比べると俺の反感を買うのを異常に恐れている節がある。別にガンガン反対意見を言ってくれても構わないんだけどな……典型的な駄目な王様じゃあないんだから、それをありがたく思いこそすれ怒ったりしないよ。竜人をのびのびとさせている(ように見える)のが不安だというミザリィの気持ちだってわからなくはないし。


 俺がいの一番に矢面に立たなければ、あるいは女王がもう少しあくどい攻め方をしていたなら、大陸中とは言わずとも東方圏くらいは壊滅していたことだろう。オレクテムの一件から防衛力にはこの国のみに留まらず特段に力を注いできたものの、それすら紙切れの如く突破できるだけの力が人化した竜たちにはあった。だからこそ俺も総力戦を嫌って(仮に魔女を動かしていても決着までに生じる被害はとんでもないものになっていたはずだ)、女王との一対一。正々堂々の決闘で雌雄を決することとしたのだ。そういう展開に持っていった。それもまた、女王が俺の思惑を読んだ上であえて乗ってきたのだとわかっている。


 つまるところ女王はプライドの高さに見合った誇り高い人格者でもある、ということだ。初めから復讐対象である俺以外はなるべく傷付けないように配慮しており、負けたら負けたで自棄になるのではなく竜人を死なせないために尽力を惜しまない。急遽として竜を統べる者となりノウハウもなく大陸の外で国を築いてきた、にしては非常に優れた為政者としての才覚を発揮していると評していい。もちろん、人の基準ではなく竜の基準での評価だけど。いずれにせよ言動はともかく成していること自体はなかなか立派な人物で、だから俺も尚のことに竜人を残したいと思ったのだ。


 なんと言っても俺が担う役割上『世界の損失』はなるべく抑えなければならないしね。


「それはそうとイデア様。パーティーを最後までイーディスに任せるということは、このあとの会談にご出席なさるおつもりなのですか?」


「あら、今日って『魔女会談マレフィキウム』のある日だったかしら? 定例会はもう少し先のはずじゃない?」


「ああそうそう、セリアにだけは言っていたんだっけな。午後からの会談は臨時会だよ。ちょっとルールを変えて誰でもすぐに論議要請ができるようにしたからそれ以来頻度が上がっているんだよね。目に見えてってほどじゃないけど、なんにせよ会談の活発化は良い傾向だ」


 昔がバラバラ過ぎたんだけどね、と俺が言えば二人は返事に困ったようだった。そこは笑ってくれていいところなのに。と、そんなことよりもセリアの質問に答えておかなくちゃな。


「臨時会に出席するつもりはないよ」


「そうなのですか?」


 またも意外そうにセリアは首を傾げた。何かの訳あって周年パーティーよりも会談を優先したに違いない、と半ば確定的に推測していたのだろうが生憎とそうではないのだ。今回天空議場へ赴かない理由の第一としては──。


「アーデラは魔女になり立てだし、ミルコットとノヴァも彼女の賢者になり立てだろう。偶には俺なしで会議させて、少しくらい経験を積ませたいなと思ってさ」



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