3.少女の願い。
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「ばーか、ニア。俺様にこんな友達ができるかよ」
「えへへ! そうだね、パパは強面だもん!」
「なに言ってんだ! こいつ!」
仰向けのままだった身体を半分だけ起こし、ニアとアグニスは笑う。
そこには、先刻のようにライスを足蹴にしていた男の表情はなかった。ただ一人の穏やかな、父親の顔である。荒々しい態度などが先行するが、もしかしたらこちらが彼の本性なのかもしれない。そう思うほど、二人の会話は自然だった。
「えっと、自己紹介がまだだったよね。わたしは、ニア! よろしくね!」
強面な父親には全く似ていない少女が、そう名乗る。
俺は自然と笑みを浮かべつつ答えた。
「俺はルクシオだ。下手したら、アインズワークで通じるかもな」
「え! もしかして、アインズワーク商店のお兄さん!?」
「あぁ、やっぱり知ってたか」
ひょっとしたらと思い、実家の名前を出してみる。
するとニアは、驚いたようにこう言った。
「知らないわけないよ! だってわたし、こんなになる前は買い物に行ってたんだもん!」
「そうなのか? だったら、どこかで会ってたかもな」
「えへへ、そうだね!」
左手で自分の口元を隠しながら、少女は笑う。
そして次に、ライスの方を見るのだった。自分の番が回ってきたと理解したのだろう少年は、どこか緊張した面持ちで頷く。
「えっと、オレはライス……です」
「うん! よろしくね、ライスくん!」
「よ、よろしく……!」
……なんだろう。
どことなくライスの顔が赤かった。
俺はそのことに気付いたが、あえて触れずにアグニスを見る。
すると、そこには――。
「…………あ」
間違いない。
俺と同じ結論に至ったという、鋭い眼差しをライスに向けていた。
これはやっぱり、触れないでいた方が良いな、と思う。
そんな時だった。
「ねぇ、パパ? お客さんたちとお話したいことがあるの」
「……ん? あぁ、少しだけなら」
ニアが、どこか真剣な顔でそう言ったのは。
アグニスもそれを察したのか、素直に部屋を出て行った。
「あはは! パパは相変わらずだなぁ」
それを確認してから、ニアは笑う。
そして、俺たちを見て言った。
「あんなパパだけど、不器用でちょっとお馬鹿なだけなの。基本的に悪気はなくて、わたしのために一生懸命なだけなんだ。だから――」
本当に、慈愛に満ちた表情で。
「どうか、パパと仲良くしてあげてね……?」――と。
それを聞いて、俺は思った。
このニアという女の子は、本当に心優しいのだ、と。
父親だからと、そう結論付けた方が簡単かもしれなかった。でもそれ以上に、彼女からは父親に対する真心を感じられる。
ライスもまた、それに気付いたのだろう。
自然と、大きく頷いていた。
「そっか、よかった……」
俺たちの答えを聞く前に。
表情だけですべてを悟ったらしい少女は、安堵したように微笑んだ。
「もし、ね。わたしの身体がもっとダメになったら、そのときは――」
そして、何かを言いかけて。
やっぱりやめようと、そういった風に首を左右に振った。
「あ、もしかしたら! そろそろ、お医者様がくるかも!」
切り替えるように、ニアは言う。
暗い話は終わりにして、父親を呼び戻す意図だったのだろう。それを察して俺たちは、アグニスのことを呼びに向かうのだった。
ただ、ほんの少し。
胸に寂しさを残したまま……。