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2.理由。

まだまだ、上に行けるはずなんだ……!

応援よろしくです!!!








「ライス……その、悪かった!!」

「ひゃ、ひゃい!!」



 アグニスは深々と、ライスに頭を下げた。

 というのも今回の決闘、事の発端はオッサンの言いがかりだったから。少年の方は複雑そうに苦笑いしながら、頬を掻いていた。

 先ほどまで自分のことを足蹴にしていた相手に、頭を下げられたらこうなる。

 俺もあの貴族たちに、手のひら返しされたら同じようになる自信があった。



「え、えっと。とりあえず、頭を上げてください……!」

「本当に済まなかった。最近の俺様は、どうかしていたんだ」



 ライスの言葉に、ようやく面を上げたアグニスはそう口にする。

 俺はそれに少しの引っかかりを覚えた。



「最近の、ってことは何か理由があったのか?」

「…………」



 なので、単刀直入にそう訊ねる。

 すると彼は眉間に皺を寄せて、じっと考え込んだ。そして――。



「なあ、ルクシオ。お前は『パラライズ症候群』って病気、知ってるか?」



 そう、言った。

 アグニスの口にしたそれに、反応したのはライスだ。



「『パラライズ症候群』って、右半身が動かなくなる、っていう流行り病の?」

「そんな病気があるのか?」

「はい。ここ最近、流行している原因不明の病気なんです」



 学園の中にいた俺が知らない情報を、ライスが補足してくれる。

 なんでも彼の説明によると、その病気を発症すると右半身――とくに腕と脚がピクリとも動かなくなってしまう。原因も不明なので、解決策も治療法も不明。

 多くの医者が研究に明け暮れているようだが、その糸口も掴めていなかった。



「それで、どうしてアグニスはそれを?」



 一通りの話を聞いた上で、俺は改めてオッサンに訊ねる。

 すると、彼は心痛な面持ちでこう答えた。



「実は、俺様の娘がそれなんだ」――と。







 アグニスの住む家は、Aランクの冒険者と思えないほど質素だった。

 それでも貧困層よりは幾分マシ、というくらいだろう。ライスは滅多に足を踏み入れない地域なのか、少し落ち着きのない表情で街並みを眺めていた。




「もう入って良いぞ。何のもてなしもできねぇが、勘弁してくれ」

「あぁ、分かったよ」

「あ、はい。お邪魔します!」



 家主の声を聞いて、俺とライスはその中に入る。

 内装がどうなっているのか、それが気になっていたが別の意味で驚いた。何故なら家の中にあるのは、生活していく上で本当に必要最低限のものだけ。


 アグニスは、金銭を必死になって集めていた。

 その理由が改めて分かる。


 おそらくは、家にある物はほとんど金に変えたのだ。

 それでも『パラライズ症候群』の治療費は、足りていない。



「すまねぇな。本当に何もねぇんだ」

「いいや、構わないさ。むしろスッキリして、良いじゃねぇか」

「へっ……! 口が悪いのか、心根が良いのか分からねぇな」



 俺の冗談に、アグニスは小さく口角を上げた。

 そして、ある部屋のドアの前に立つ。



「ニア? 入るぞ」

「うん、いいよ。パパ」



 それをノックして、一言かけると返ってきたのはか細い少女の声。

 ニアという少女の確認を取ってから、オッサンがドアを開くとそこには、ベッドに身を横たえた一人の少女の姿があった。



 栗色の髪に、儚げな印象を受ける顔立ち。

 力なく微笑んだ彼女――ニアは、俺たちを見て言うのだ。



「この方たちは、パパのお友達……?」






 だったら、嬉しいな――と。

 半ば自由の利かない身体を動かして、一生懸命に喜びを表現するのだった。



 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(◍•ᴗ•◍) [一言] 言えねぇ、言えねぇよ。さっきまで決闘(ただし『(笑)』がつく)で君のパパ瞬殺されてたよなんて……!
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