2.理由。
まだまだ、上に行けるはずなんだ……!
応援よろしくです!!!
「ライス……その、悪かった!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
アグニスは深々と、ライスに頭を下げた。
というのも今回の決闘、事の発端はオッサンの言いがかりだったから。少年の方は複雑そうに苦笑いしながら、頬を掻いていた。
先ほどまで自分のことを足蹴にしていた相手に、頭を下げられたらこうなる。
俺もあの貴族たちに、手のひら返しされたら同じようになる自信があった。
「え、えっと。とりあえず、頭を上げてください……!」
「本当に済まなかった。最近の俺様は、どうかしていたんだ」
ライスの言葉に、ようやく面を上げたアグニスはそう口にする。
俺はそれに少しの引っかかりを覚えた。
「最近の、ってことは何か理由があったのか?」
「…………」
なので、単刀直入にそう訊ねる。
すると彼は眉間に皺を寄せて、じっと考え込んだ。そして――。
「なあ、ルクシオ。お前は『パラライズ症候群』って病気、知ってるか?」
そう、言った。
アグニスの口にしたそれに、反応したのはライスだ。
「『パラライズ症候群』って、右半身が動かなくなる、っていう流行り病の?」
「そんな病気があるのか?」
「はい。ここ最近、流行している原因不明の病気なんです」
学園の中にいた俺が知らない情報を、ライスが補足してくれる。
なんでも彼の説明によると、その病気を発症すると右半身――とくに腕と脚がピクリとも動かなくなってしまう。原因も不明なので、解決策も治療法も不明。
多くの医者が研究に明け暮れているようだが、その糸口も掴めていなかった。
「それで、どうしてアグニスはそれを?」
一通りの話を聞いた上で、俺は改めてオッサンに訊ねる。
すると、彼は心痛な面持ちでこう答えた。
「実は、俺様の娘がそれなんだ」――と。
◆
アグニスの住む家は、Aランクの冒険者と思えないほど質素だった。
それでも貧困層よりは幾分マシ、というくらいだろう。ライスは滅多に足を踏み入れない地域なのか、少し落ち着きのない表情で街並みを眺めていた。
「もう入って良いぞ。何のもてなしもできねぇが、勘弁してくれ」
「あぁ、分かったよ」
「あ、はい。お邪魔します!」
家主の声を聞いて、俺とライスはその中に入る。
内装がどうなっているのか、それが気になっていたが別の意味で驚いた。何故なら家の中にあるのは、生活していく上で本当に必要最低限のものだけ。
アグニスは、金銭を必死になって集めていた。
その理由が改めて分かる。
おそらくは、家にある物はほとんど金に変えたのだ。
それでも『パラライズ症候群』の治療費は、足りていない。
「すまねぇな。本当に何もねぇんだ」
「いいや、構わないさ。むしろスッキリして、良いじゃねぇか」
「へっ……! 口が悪いのか、心根が良いのか分からねぇな」
俺の冗談に、アグニスは小さく口角を上げた。
そして、ある部屋のドアの前に立つ。
「ニア? 入るぞ」
「うん、いいよ。パパ」
それをノックして、一言かけると返ってきたのはか細い少女の声。
ニアという少女の確認を取ってから、オッサンがドアを開くとそこには、ベッドに身を横たえた一人の少女の姿があった。
栗色の髪に、儚げな印象を受ける顔立ち。
力なく微笑んだ彼女――ニアは、俺たちを見て言うのだ。
「この方たちは、パパのお友達……?」
だったら、嬉しいな――と。
半ば自由の利かない身体を動かして、一生懸命に喜びを表現するのだった。