2.驚き。
応援よろしくです!
あとがきもd(*‘ω‘ *)!
「あ、あの……ルクシオさん……」
「どうしたんだ、ライス?」
俺が剣の手入れをしていると、少年――ライスは控えめに声をかけてきた。ボサボサ髪で右目が隠れている彼は、汚れがなければ綺麗な顔をしているだろう。
そんな彼はちらり、アグニスの方を見た。
「本当に、大丈夫なんですか……? だって――」
「相手はAランク冒険者だから、か?」
「…………はい」
そして、そんなことを言うので先回り。
ライスは頷いて、唇を噛んだ。
「アグニスには強力なスキルがあるんです。彼と戦った人はみんな、アグニスの姿が突然見えなくなった、って……」
「へぇ……? それは――」
不安げな少年の言葉に反して、俺の口角は思わず上がる。
だがあえて口に謝せず、一つ頷いてから笑顔でライスの頭を撫でた。
「大丈夫だ、ライス。これでも俺は、意外に強いからさ」――と。
いまは、彼の不安を消すのが先決だと考えて。
するとライスは一瞬だけ目を丸くして、すぐに顔を真っ赤にした。
「あ、あの……! 頑張ってください!」
「おう!」
そんな少年に見送られる形で。
俺は、冒険者ギルド内に造られた闘技場へと向かった。
◆
「逃げずにきたみてぇだな?」
「そりゃあ、俺の方から提案したわけだしな」
「へっ……! そうやって逃げる奴なんざ、山のように見てきたさ」
足を踏み入れると、金網内の広場――その中央にアグニスはいた。
得物はない。その代わり、拳に特別な金属をはめている。なるほど、どうやらアグニスは『拳闘士』というものらしい。
己の肉体のみを武器として、相手を打ちのめす戦士。
今まで相手にしたことのない手合いに、俺は隠すことなく笑みを浮かべた。
「ずいぶんと、余裕だな」
「そうでもないさ。緊張で膝が震えてるよ」
「嘘つけ。そんな野郎が、笑えるわけがねぇ……」
すると、アグニスもそのことに気付いたらしい。
拳を構えると、ニヤリと笑った。
そして――。
「行くぞォ! この、くそガキがァ!!」
開始の合図もなく、一直線に突っ込んできた!
「おっ、と……!」
そして、体格に見合わない速度で拳を振り下ろす。
すると――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
頑丈な石造りの舞台。
それを木っ端微塵に粉砕した。
「馬鹿みたいな力だな、おい……」
俺はそれを回避し、距離を取ってからそう呟く。
なるほど、たしかにAランク冒険者に相応しい身体能力だ。俺は心の内で素直に称賛の言葉を送りながら剣を抜き放ち、すぐに構える。
この速度の攻撃なら、まだ目で追えるはずだ。
そう思って、相手の出方をうかがっていると――。
「遅いんだよォ!!」
瞬きの間に。
アグニスの巨躯は俺の目の前に、あった。
そして、その破壊力満点の拳を思い切り叩きつけて――。
◆
アグニスは、それこそルクシオを破壊するつもりで拳を振り下ろした。
久々の逃げない獲物だ。だからこそ、渾身の力で叩き潰す。
男はそう考えて、拳を振るったのだ。
「…………けっ」
轟音鳴り響き。
周囲には、粉砕した広場の破片が舞う。
その最中でアグニスは静かに目を閉じてから、後方を振り返った。
観衆も、何が起きたのか分からずにどよめく。
誰もが、そこに立つ少年を見つめていた。
「おい、ガキ。どういうことだ……?」
「……さぁ、な。知りたかったら、倒せばいいだけだろう?」
回避不可能のはずだった。
絶対的な至近距離から、アグニスはルクシオに拳を振り下ろした。
それなのに、視界が開けた先には――。
「オッサンのスキルは――【加速】ってところか」
――余裕綽々。
剣を肩にかけて笑う、彼の姿があった。