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独と薬  作者: R.藤間
暗転、それから暗転
71/84

11-02

 水族館を中心とする上空に、渦を巻くように厚い雲が出現していた。まるで雪姫の心模様、そのままである。

 先程までの余裕は失われたのか、雪姫は肩を震わせながら無意識に奥歯をギリギリと食いしばっていた。

「藤ヶ崎さんのこと、やっぱり知っているみたいね」

 まゆは相変わらず余裕そうに雪姫の様子を見守っていた。いつ雪姫の感情の乱高下によって攻撃されるかも分からないのに、まゆとゆのはあまり緊張感は持ち合わせていないようである。場数が違うためか、性格ゆえか。

 吹雪は変わらず厳しいが、デメリットばかりではない。この強風の中では声を張らない限り、こちらの会話は雪姫には届かない。四人で会話をしたい場合は、必然的に身を寄せ合うことにはなるが。

「藤ヶ崎さんは否定していたけれど、やはり夜中に病室を訪れたのは氷堂雪姫で間違いないだろうね」

 世良の話に夕美は頷いた。

 夕美は勢いで雪姫を追い詰めようとしたが、状況は大きく進展していない。夕美たちは、雪姫の呪いを解かねばならない。そのためには、雪姫の呪いの内容を明らかにしなければならないのだが、雪姫は頑なにそれを開示することを拒否している。

 雪姫が「藤ヶ崎」という単語に少なからず思い当たることがあるらしい。しかしながら、暫くの間動揺していた雪姫も、また我に返るなり、今まで以上に明確な殺意をもって攻撃を仕掛けてくる始末だ。

 悠長に会話を続けられる状況でもなく、気がついたら、夕美はゆのに手を引かれていた。ゆのの狼の走行能力を使い、迫りくる氷柱を回避する。一方、まゆは世良の前に立って、(ひょう)のような攻撃を防いでいた。

「まずいわね……」

 走りながら、ゆのが呟く。ゆのの走行もいつまでも維持できるわけではない。時速六十キロほどの速さで連れられながら、夕美はただ思考を整理することに集中していた。これまで得られた情報を一つ一つ思い返す。

 隠し事があるのなら、それが暴かれそうになったときに人間は動揺を見せる。雪姫の場合、感情の昂ぶりが能力に顕れる。

 雪姫は呪いから解放されることを望んでいる。だから、呪いが解けなくなることに雪姫は動揺してしまう。呪いには秘密が関わっていて、秘密が守られなかったら呪いは解けなくなると考えてよさそうだ。

 世良の話によると、山上友恵と自身の関係を第三者に知られること――つまり、山上友恵と雪姫の間にある秘密が暴かれることを雪姫は恐れている。

 そして、同様に藤ヶ崎とも秘密を共有しているはずだ。あの晩、藤ヶ崎と雪姫は会っていることはほとんど確実である。そして、藤ヶ崎も山上友恵の情報を調べていたことから、三人には何らかの関連性があるように見えた。

「優海夕美」

 急に引き裂かれた空間から世良が現れ、夕美の腕を引いた。その瞬間に、ゆのと夕美は離れていた。閉じていく空間から覗く外の世界には厚い氷塊しか見えなかった。ゆのは逃げられただろうか。

 夕美が礼を言う間もなく、世良は話を始める。

「時系列を整理しよう」

 山上友恵の結婚報道が昨日。おそらく、この報道が発端で、今日の深夜に雪姫は藤ヶ崎の元を訪れている。そして、芸能界引退の報道を知り、現在に至る。

「山上友恵の芸能界の引退は、雪姫にとって都合が悪いらしい」

 なるほど、と納得すると同時に、夕美は世良の空間から再び極寒の地に放り出されていた。つい先程まで夕美が立っていたその場所には、先端が砕けた大きな氷柱が転がっていた。

 一時的にでも世良の作る空間に避難できれば……と夕美は考えていたのだが、どうもそうはいかないらしい。

「僕の能力は特定の場所から特定の場所へ移動するための能力だからね……目的地を指定しないと空間は開かない。そして、距離に応じた時間内に空間から抜けないと、今みたいに意思に関わらず元の場所に戻ってしまうんだ」

 難しい能力だな、というのが夕美の感想だった。

 辺りを見回すと、離れた場所でゆのとまゆが動き回っていることを観測できた。どうやら彼女たちは無事のようで、持ち前の能力で雪姫の注意を引きつけてくれているらしい。それもいつまでも続けられるわけではないだろう。夕美は意を決意したらしい。

「……世良、頼みがある」

 夕美が世良に内容を耳打ちすると、世良は暫しの沈黙の後、ため息を吐いた。その後、二人は再び切り裂かれた空間に消えた。

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