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独と薬  作者: R.藤間
誰が為の願い
67/84

10-4

「世良、君は確かこう言ったね? 彼女は、自ら呪いを解くための計画をしていると……どうやら失敗したようだけれど」

 ああ、と世良は夕美に応じる。

「現状、その計画に藤ヶ崎さんと山上友恵の報道が関わっているのか分からないけれど――可能性はゼロではない、ということだ」

 夕美は最初のカードの切り方がまるで分からない。下手をすれば、世界が氷河期を迎えかねない。十分すぎるプレッシャーだった。

 しかし、どんなに頭を捻ろうが、持っている情報が少なすぎる故に結局は直球に落ち着く。

「氷堂さん。あなたは昨晩――いや、厳密には今日の深夜に、御子神市の病院にいたね?」

 夕美は注意深く雪姫の表情を観察する。こちらの発言から雪姫の反応を伺い情報を精査していきたい、そんな夕美の淡い期待に反して、雪姫の表情は一切崩れなかった。さらに、沈黙が続く。要するに、否定も肯定もするつもりはないらしい。

 仕方がないので、夕美は次の発言に移る。

「……芸能人の結婚報道」

 夕美は慎重に言葉を選んでいた。続く言葉がなかなか見つからない。

 夕美が口を噤むと、雪姫は怪訝そうに眉をひそめる。

「それが、雪姫に何の関係があるのよ」

「あるはずよ」

 ゆのが口を挟む。急な割り込みに夕美は驚き、同時にひやひやしてしまう。

「証拠品と証言があるんだもの」

 証拠品……? と夕美は心の内で疑問に思っていた。あの、こじつけに等しい、新聞記事のハンドクリームの痕跡のことだろうか。雪姫は余裕のある態度を崩さず、夕美たちに一切の期待をしていないことが伺える。

「ふうん、随分と自信があるのね。でも、そんな女優の結婚の証拠とやらを示されたところで、あんたたちと話をする気にはならないわよ」

 ふう、と雪姫が息を吐くと、キラキラと空気中の水分が凍った。

 その様子に、反応したのは世良だった。しんとした場の空気に、少しだけ喉を鳴らすような笑いが漏れたかと思えば、夕美の隣で世良は笑っていた。そして、僕たちの理解は正しかったみたいだ、と一言。

 余裕を見せる世良に、雪姫は意味がわからず、眉をひそめる。

「雪姫ちゃん、どうして『女優』だと思ったのかしら」

 まゆが問うと、雪姫はその意味を察したらしい。しかし、夕美たちの期待に反して、雪姫は冷静さを保っていた。また、ふうと氷の息を吐く。やれやれ、といった様子で、雪姫は口を開いた。

「女優・山上友恵の結婚と引退。雪姫だって、そのくらいは知っているわ。スマホでニュースアプリの通知が来るもの。それが欲しい情報かどうかにかかわらず、ね」

 それは正しい。確かにね、と世良が同調する。雪姫は世良をキッと睨みつけた。初回の接触から、雪姫はどうにも世良のことを好んでいないらしい。

「君がニュースアプリで山上友恵の引退を知ったのなら、それは今から二、三時間前の話だ。ちょうど二、三時間前っていうと」

 君がこの水族館を氷漬けにしたタイミングだよ。

 だから、何よ。とでも言うように、雪姫は相変わらず世良を睨んでいる。雪姫の静かな怒りが場の空気を張り詰めたものにしているなかで、夕美は世良の追い込み方を何となく理解し始めた。

 そうだ。あの時――山上友恵のニュース通知を見たのは、確かにペンギンショーの始まる前だった。それから、館内は騒然として――。

「果たして、怒り任せに建物全体を凍らせていた君が、悠長に芸能ニュースを確認できるかな?」

 世良が厭らしく尋ねると、意外にも雪姫は冷めた態度に戻っていた。ふう、とまた嫌味ったらしく冷たいため息を吐いて。暫くして、そうね……と話を再開する。

「あの時、雪姫の機嫌が悪かったことは認めるわ。スマホの確認はその前にしたのよ。これで矛盾はないでしょう?」

 雪姫はニコリと笑顔を作った。その笑顔は無論、会話を終了したいという意思表示にすぎない。

「ありがとう。認めるわけだね。君は、山上友恵の引退報道の後に、能力を制御できなくなった――と」

 世良は続ける。

 つまり、世良の言いたいことは、こうとも取れる。山上友恵の引退報道を受けて、水族館を氷漬けにした。雪姫が能力を暴走させるに至った、雪姫の感情を揺さぶったのは、直前の報道を知ったことに尽きる。そう解釈するのが自然だ。

「反論の余地はないわね。だって、引退が報じられたのは、ついニ、三時間前の話だから。それよりも前にリークすることは不可能よ。それに、さっき発言したわね。『スマホのニュースアプリの通知を見た』って」

 畳み掛けたのはゆのだった。何とも自信満々である。言い切った後には、よく分からない決めポーズを取っていた。もちろん夕美は見なかったことにした。

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