9-04
パキパキと、凍っていく音が此処彼処で聞こえる。誘導灯の光だけがひっそりと辺りを照らしており物悲しい。
「じゃあ、私は優海さんと瀬良田さんと同じ魔女の子だったのね……」
エリスから聴いた一連の話――魔女とその子供たち、特殊な能力、屋上の魔女――それらは音子と麗には理解できないことも多かったが、今現在起きている非科学的な事象を説明するのに十分だった。
ただし、音子は元より所有者の話を知っていたため、比較的すんなりとエリスの語る言葉を受け入れられた。
そして、エリスが何者であるのかも説明された。
エリスもまた魔女の子であり、古典的な魔女なのだと伝えられた。運命をねじ曲げた者を魔女と呼称する一方で、一般的に魔術を扱える者もまた魔女と称される。それ故、エリスは後者を「古典的」と表現したようだ。
「とはいえ、わたくしのような古典的な魔女ほど、運命のねじ曲げに関わる者が多いのもまた事実。貴女方もそうですわね」
貴女方、というのは、音子と麗を示すとみて間違いない。二人は首をかしげた。
「その、古典的な魔女は……例えば私にどんな影響を与えたのかしら」
疑問を抱いた麗は、怖れながらもエリスに尋ねてみる。
エリスの説明は想定よりもボリュームがあり、感情を昂らせていた麗もすっかりと落ち着きを取り戻していた。しかし、依然として姉のことが気がかりであることは変わらない。そして、姉のことを知る手がかりは、現状エリスのみなのだから。
「ヘンゼル・マイヤー。あなたの妹グレーテル・マイヤーは、古典的な魔女によって、運命をねじ曲げられました」
妹? と麗が不思議そうに呟くと、ああ、この世では姉でしたね。それから、貴女は今は兄ではなく妹ですもの、とエリスが説明を加えた。要するに、『ヘンゼルとグレーテル』が麗の前世の物語らしい、ということを音子は理解した。
「グレーテル・マイヤーは魔女を確かに始末しましたわ。ですが、魔女は死の間際に兄妹に呪いをかけましたのよ」
兄妹には終わりのない呪いがかけられるはずだった。しかし、異変を察知したグレーテルは、ヘンゼルを庇い、ただ一人呪いをかけられてしまう。それが呪いであることにすら当時は気がつかなかったが、自身がかけられた呪いを自覚したのは転生後のことだった。
交通事故に遭い、破損したはずの身体が再生したとき、グレーテルこと綺羅桜は前世の記憶を思い出し、自身が不死であることに気がついた。本人の自覚があったかどうかは定かではないが、この世に誕生した時点で桜は運命をねじ曲げた魔女だったというわけだ。
「魔女は呪いを受けたときに願った願いが叶えられなければ、呪いから解放されませんが……彼女の場合は、初めから願いなどありませんでしたわ。ですから、転生した術者を探し出し、その者を滅することで自身の呪いを解いたのです」
その後に、桜はこの世から消えたのだとエリスは語った。この世から消える、というのは、すっかりとその存在が消し去られることを意味しており、例えるならば Delete ではなく Uninstall なのだという。
「本来は、消滅した魔女の痕跡は何一つ残らないはずですのに……どういうわけか、貴女には綺羅桜の存在が生きているようですわね」
双子には神秘的な何かがあると聞きましたわ、とエリスは話し始める。
双子の思考や心が通じ合うのは神秘とされる話をたまに見かける。一方で、同じ環境で同じように育ったのであれば、それらは神秘ではなく、身に付いた価値観・趣味嗜好によるものと考えるのが自然ともいえる。
後者が現実的な考えであるのかもしれないが、エリスの認知する事象は前者に起因するのかもしれない、というのが彼女の推察だった。
「つまるところ、これが双子ゆえなのかは根拠がないですけれど、貴女と綺羅桜の魂の繋がりが断たれなかったのは事実のようですわ」
麗はただエリスの言葉に耳を傾けていた。音子は麗にかける言葉も見つからない。故に、音子もただエリスの話を聞く他なかった。




