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学校生活は、相も変わらずだ。
――学芸会、楽しみね。
そんな会話で盛り上がる同級生たちを横目に、音子は一人、窓から外を眺めていた。校庭では、体育の授業を終えた他学年の生徒がバラバラと動いていた。特にこれといった情報は得られない。無用な行為であることは音子も十分承知していた。
「猫山さん、学芸会だって」
相も変わらずといえば、夕美である。彼女もそうだ。この鈴蘭女子高等学校に転校してきて以来、こうしてずっと音子に話しかけては微笑んでいる。他愛のない話ばかり、いったい何がそんなに楽しいのであろうと音子は疑問で仕方がない。ただ、さすがの音子も煩わしいとまでは思っていなかった。
「クラスの子たちから聞いたよ。十一月の学芸会の話。すごく豪華で一大イベントだって」
「そうね……あなたの前の学校では、そういうことはなかったのかしら」
特段、夕美に興味があったわけではない。ふと思い立ったことを質問したまでで、会話というものはそうして成り立つものだと音子は理解していた。その回答がどんなものであろうと、音子にはどうでもよいことなのだが、これはそう、儀式のようなものだ。所謂、社交辞令というのだろう。
一方、夕美は音子が質問を返したことに驚いていた。そうして、ふっと笑い、大したことはなく興味もなかったと淡々と述べた。
彼女は何故、学芸会の話題を自分に振ってきたのであろうか。興味の無い話題を与えられ、興味の無い質問をし、興味の無い回答を得る。何て無駄なのだろうと音子は疑問に思ってしまう。
音子は夕美とこれ以上の会話を続けることを断念し、「あら、そう」と一言返すのみ。それも、窓から目を反らすことなく。
いつものことだった。一度だって彼女の顔の方に、顔を向けやしない。だというのに、窓に反射して映る彼女は自分を見て微笑んでいる。音子にとっては不可解極まりなかった。
夕美の態度の理由を音子が知るのは、まだ先のことである。