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独と薬  作者: R.藤間
魔女と氷の要塞
52/84

8-02

「『雪女』の話は知っているかな」

 雪女? と復唱し、ゆのは眉を潜める。あの、日本の昔話の。

 彼女がその雪女だよ、と世良が答える。

 ちょっと待って、と今度は夕美が思わず口を挟んだ。

 ずっと気になっていたことがある。それは、自身の前世にも関係することだ。

「どうして魔女個人の過去が、おとぎ話として伝承されているのか……そろそろ知りたいと思うのだけれど」

 そう、それよ! とゆのも頷く。ざわつく三人の様子を、世良は面倒そうに伺っていた。ああ、その話か、とでも言いたそうに。

「つまり、君たちは疑問なわけだ。『人魚姫』、『赤ずきん』――それらの物語が、魔女とその子供たちの人生の一部であることがね」

 ゆのとまゆ、それから夕美は、世良の言葉をすぐに理解する。つまり、『人魚姫』は夕美と世良の前世で、『赤ずきん』はゆのとまゆの前世なのだろう。そして、世良は、ゆのとまゆの前世についても分かっていた。ということは、ゆのとまゆの親である魔女を知っているのだろう。

 世良は手短に説明を始めた。

 三人が察するように、おとぎ話のいくつかは、魔女の人生の一部だ。そして、それを編纂して世間に広めている人物がいる。

 その人物は、魔女を呪いから解放することを目的としている。魔女には願いがある。そして、魔女は願いを叶えるまで決して死が訪れない。しかし、魔女の子供たちはそうではない。命の期限を迎えれば、やがて死に至る。前世の記憶を引き継いで転生するとしても、魔女、それからその他の子供たちともう一度関係を構築するために、共有できる物語が存在することは有用だった。音子のように、完全に前世の記憶が閉ざされている事例を除外して、おとぎ話は子供たちの前世の記憶の覚醒にそれなりに役立っている。

「実際、僕は『人魚姫』を介して、君と猫山音子、それから自分の前世を思い出したよ。加えて、当時知らなかった顛末と、魔女のことも」

 おとぎ話は、第三者による視点で語られる。故に、物語の登場人物個人では知ることができなかった過程や結末が述べられているのだ。

「そのおとぎ話を編纂している人物っていうのは、少なくとも全体的な物事の顛末を知っているのよね? それなら、魔女の願いも分かるんじゃないかしら」

 まゆの疑問は最もだった。何らかの情報から物語を構成しているのであれば、それらの情報に魔女の願いも含まれるのではないか。

 世良は首を横に振る。

 物語を構成する情報は、魔女の子供たちの記憶から構成される。魔女と関係の強い人々がその生涯を終え、転生する前にその記憶はアーカイブされる。魔女の子供たち視点での魔女の姿、それのみが魔女に関する情報である。魔女の子供たちが見聞きした魔女の様子、発言、行動、その結果――それらが事実として陳列されたところで、魔女が魔女になった所以、目的、心情――そういったものは推察の域を出ないのである。

「魔女って不老不死なのよね。雪女は、物語の始まりから終わりまで不老不死のはずよ。男と結婚して子供が生まれても、容姿が変わらなかったもの。だとしたら」

 ゆのが言わんとしていることに、世良は頷く。つまり、伝承されているおとぎ話が始まる以前から雪女は魔女であり、あの物語のなかに、雪女が魔女になった経緯は含まれないのではないか。

 アーカイブされた情報から魔女の願いを特定できないのであれば、直接魔女に会いに行く他ない。どうも、世良はそういう役回りらしい。魔女の子供たちの記憶を編纂・公開する人物の元で、世良は魔女の情報収集を行っている。学芸会への乱入、二度めの学校への来訪も、その一環だった。それで、雪の魔女についても、同じように情報を収集していたのだろう。結局、さほど成果は得られていないようだが。

 コホン、と小さな咳払いをして、世良は雪女に関する情報を展開し始めた。

 ――氷堂雪姫(ひょうどうゆき)。数十年もの間、見た目は十代の少女である。雪の魔女と称される所以は、その能力である。天気を操り吹雪を発生させたり、あらゆるものを凍結させたりすることが可能だ。おとぎ話にあるように、人一人殺すことに造作もない。また、昨今の異常気象も、雪姫の能力によるものである。

 今回は水族館を中心にその能力を解放している。おかげで、水族館は、建物そのものが氷漬けにされそうな勢いだ。

「アナウンスでは火災と言っていたけれど……ただでさえ非常時なのに、氷漬けだなんて非常識なこと、流石に告げられないから……ということだね」

 夕美は一人、反芻し納得していた。確かに、思い返せばあのアナウンスは妙に歯切れがよくなかった気がする。しかし、本当のことをアナウンスすれば、来館客は今以上にパニックになっていただろう。

「僕が持っている情報はこれだけだ。申し訳ないけれど、まずは魔女の願いを確認する必要がある。話を聞き出せる状況でないのなら、その状況を作るしかない」

 世良の発言に、夕美は眉を潜めた。簡単に言ってくれるが、この場の誰もが全くもってその方法を考え付かない。

 それでも、どうにかする他ない。前世の記憶を持ち、また不可解な能力も備わっている者たちでなければ、魔女に近づくことすらできないのだから。

 先の方から光が差し込む。あの光が出口なのだろう。もう、どうなるかなんて何も分からないが、進むしかない。夕美は小さく、深呼吸をした。それはほとんど、ため息のようだったが。

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