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独と薬  作者: R.藤間
魔女と氷の要塞
51/84

8-01

 人間は、誰しも魔女の素質を持っている。潜在的な魔力は、大抵は一度も使用されることなく、その存在にも気がつかれぬまま、主は生涯を終えるだろう。

 願いは、自らの魔力というエネルギーによって叶えられる。時に、それは世界の運命を大きくねじ曲げまげてしまう。定められた寿命よりも長く生きてはいけないし、定められた寿命よりも早く死んではいけない。本来、与えられなかったはずの運命を、与えられるはずだった運命を、悪戯に世界に波及させてはいけないのだ。定められた命の期限を、魔術によって書き換えてはいけない。運命のねじ曲げは禁忌だ。

 運命のねじ曲げは魔術であり、呪いである。願いが叶えられるまで、人生を終われない。魔術、そして呪いによって不死の体を得られる――そんな結果から、自らの運命をねじ曲げた者を魔女と呼んだ。

 呪いを解くため、願いを叶えるためには多くの時間が必要だ。そして、大抵は願いを叶えるための役者も揃えなければならなかった。魔女と関わりの強かった人間が転生した時、彼・彼女たちには前世の記憶と僅かな魔法が与えられた。それが魔女の子供たちである。

「それじゃあ、あたしたち所有者には、親の魔女がいるってわけね」

 ゆのの確認に、世良は頷いて見せる。

 世良と夕美、それから音子は同じ魔女の子供たちだ。以前に、猫山邸でまゆは言った。前世の関係の強さで、お互いを認知できるのだと。実際、それは正しかったのだ。同じ魔女の子供たち、あるいは魔女とその子供たちであれば、お互いに前世の関係を認知することができた。

 世良は魔女を探している。それは、世良が勝手に従事している人物の目的でもあった。そして、もちろん自身の親もその対象である。しかし、親の魔女――海の魔女はなかなか見つからない。世良は記憶の欠落している音子から魔女の情報を得るために、音子へ接触していたというわけである。

 とはいえ、今は目先の魔女である。現在、水族館の屋上にいるはずの雪の魔女。

 彼女の呪いは強力で、もはや自制が効かなくなっており、他者の介入なくして暴走は止められないと、世良は見立てていた。

 呪いが暴走した魔女が与える影響は甚大だ。現に、水族館からの避難を余儀なくされ、救急隊員の出動する事態となっており、魔女やその子供たち以外の一般人に危機が及んでいる。

 呪いという爆弾を抱えた魔女は、爆発する前に排除すべきだ。それは、奇しくも風紀委員会の活動の意図に近似していた。

「何度か所有者と対峙したことはあったけれど、そのなかに魔女もいたのかしら」

 まゆの疑問に、世良が答える。

「確か、いたはずだ」

 よく知っているのね、とまゆが感心して見せるも、世良はその理由について何も答えない。

 実際のところ、ゆのとまゆの存在を、世良は以前から認知していた。時に、ゆのとまゆが魔女、あるいは魔女の子供たちと、能力を使った戦闘に発展しているところも見かけたこともある。

 ただし、一戦における勝利は、一時的に魔女を抑止するだけであり、根本的に呪いから解放することはできない。呪いが解けない限り、魔女は死なないのだから。

 ちょっと待って、とゆのが口を挟む。

「あたしたち、これから雪の魔女の暴走を止めに行くのよね? 当然、あなたは雪の魔女の願いを知っているのかしら」

 ゆのの指摘は最もだった。魔女を呪いから解放しないことには、根本的な解決には至らない……ということは、このメンバーで魔女に挑むとして、何の情報もないことは、無謀以外の何物でもないではないか。

 世良は、ごめんと謝る。

 雪の魔女の願いそのものは、世良も把握していないのだと。

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