7-05
「――俳優・亀有一幸さんと女優・山上友恵さんが結婚を発表。二人は一昨年共演した舞台をきっかけに昨年から交際を始め……」
病院の談話室に設置された大きなテレビはワイドショーを映しており、芸能人の結婚を伝えていた。
「あら、この二人結婚したのねえ……ほら、お母さんが昔見ていたドラマに出ていたじゃない。あの頃はまだ脇役だったけれど、確か主人公の弟役で――」
入院している齢八十二の老婦と、面会に来たその娘は、テレビを見ながら、昔のことを思い出していた。
「この女優も、今や大河ドラマにも出ているけれど、昔は小さな劇団の舞台にも出演していたのよね。私も行ったのよ。もう演目すら思い出せないけれど、えーと……ほら、ちょうど最近みたいな雪の日の話で」
「……雪女だね」
「そうそう! お母さん、よく覚えていたわね。そうよね、一緒に行ったんだものね。帰りに喫茶室でハイカラなパフェを食べて……」
そこから話はテレビの話題に戻ることはなかった。いつの間にか、ワイドショーも街で行列のできるフルーツ・サンドイッチ専門店の話に切り替わっており、レポーターの可愛らしい女性が美味しそうに試食して感想を伝えていた。
「今日は随分寒いね」
老婦が、自身の手の指を擦り合わせながら、窓の景色に目を向ける。雪は降っていないものの、空は厚い雲に覆われていた。
「また厚手の靴下、買い足そうか。裏起毛の」
「いや、いいよ。あんたに貰ってまだ使ってないのがあるから。いつもありがとうね」
娘と会話しながらも、老婦はぼんやりと外の景色ばかり気にしていた。何も代わり映えのない、曇り空を見つめて。




