7-02
「水族館?」
十二月、第二学期最後の予餞会実行委員会のミーティング終了後。外は空っ風も吹いており、薄暗い。これから夜にかけて一段と冷え込むのだろう。
「そうなのよう。それでねえ、チケットが余っているの。よかったら、一緒にどうかしら」
突然の申し出に驚く夕美に、麗は封筒から数枚のチケットを取り出して見せた。水中を華麗に泳ぐペンギンの写真が描写されている。海月とプロジェクションマッピングのショーなどで有名な水族館だった。
「毎年ね、クリスマスが近くなるとイベントをやるのよ。カップルも多いけれど、クリスマス・イヴとクリスマスを外したら、そんなに混むことはないと思うの。結構、楽しいのよねえ」
麗の話によると、親戚が観光事業会社の株を保有しており、このチケットはその優待券とのことだった。親戚の人ももて余しているそうで、綺羅家にお裾分けされたらしい。
麗が戴いたのだから、家族で行けばよいのではと夕美が遠慮すると、もう既に行ったのよと返される。
「パパとママも、二回目はお友だちと行ったら? って。そういうわけだから、気にしないでちょうだいね……あ、そうだわ。せっかくだし、優海さんのお友だちも一緒にどうかしらあ。確か、同じクラスの……そう、人魚姫の子!」
麗が言っているのは、音子のことに違いない。そういえば、以前に雑談で友達の話をしていたから、きっと夕美の交遊関係を麗は覚えていたのだろう。
「私、少し気になっていたのよねえ。王子様の優海さんばかりに目を取られてしまったけれど、人魚姫の子もよかったわあ。金瀬さんはやっぱり流石だわって思っていたけれど、猫山さんはストーリーにまとまりを与えていたと思うの」
へえ、と夕美は感心する。同じ役者から見る音子と、観客から見る音子はどうやら違って見えたらしく、他者の感想は新鮮だった。
夕美はふふと笑うと、猫山さんに伝えておくよ。きっと喜ぶと思う、と麗に答えた。
「ああ、それから水族館のことも。お言葉に甘えて、猫山さんも誘ってみるよ」
「嬉しいわあ。よろしくねえ」
「いや、こちらこそありがとう」
話も一段落し、夕美と麗は荷物をまとめて教室を後にする。
下駄箱まで他愛のない話をしていたが、一階に差し掛かる階段で、あまりの寒さに会話を中断した。
「嫌だわあ。随分と寒いのねえ」
下駄箱のある出入り口は、下校時間の間は常に解放されているため、外と気温はほとんど変わりがない。外からの冷たい風も容赦なく建物内に入り込んでくる。
「なんだか、今月にでも雪が降りそうだわあ」
麗は首元の真っ白なフェイクファーに顔を埋めながら、そう言った。
本当に、と夕美は応じる。確かに、雪でも降りそうな寒さだ。最近は異常気象だ何だとニュースでも見聞きするし、仕方のないことなのかもしれない。
だから、特に夕美が気に留めるようなことは何もなかったのだ。




