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「あなた、優海さんでしょう? 嬉しいわあ。私、あなたとお話ししてみたかったのよう」
満面の笑みでそう話しかけてきた彼女は、綺羅麗と名乗った。明るいオレンジ系のブラウンの髪は肩に届くくらいの長さで、ふわふわとしている。口調の穏やかさからも窺えるおっとりとした雰囲気は、柔らかな表情からも掴み取れた。
放課後、教室に集められた第二学年の生徒たち。期末試験が終わりもうすぐ冬期休暇ということもあり、どことなくそわそわとしていた。そのなかで、たまたま夕美の隣の席になったのが、この綺羅麗だったのだ。
もうすぐ卒業を迎える現在の第三学年の先輩方を送る会――つまり、予餞会だ。その実行委員会の集まりである。
なぜ夕美がここに参加しているのかといえば、何ということはない。彼女が実行委員会に選出されたからである。選出の理由も単純明快、夕美のクラスの同級生はほとんどが委員会に所属している。委員会に所属していない者も、体育祭などの行事において、今回のような一時的な活動を何かしら行っていたのである。そして、その活動実績がないのが転校生の夕美だけだった……というわけである。
それで、今日がその第一回めの集会だ。転校して三ヶ月が経過する夕美だが、他クラスとの交流は多くはない。今回集められた生徒を見ても、顔見知りの者はいなかった。だから、というわけではないが、麗が話しかけてきたことは純粋に嬉しく思っていた。
「転校してきたばかりなのに、予餞会の実行委員会なんて大変ねえ。でも、大丈夫。この前の学芸会実行委員会に比べたら大したことはないのよ。外部のお客さんは保護者だけだもの」
へえ、と夕美が愛想笑いで相槌を打つと、麗はあっと小さく声をあげた。
「そうそう。私ねえ、優海さんの王子様、すっごく好きだなあと思って。学芸会からあなたのことずっと気になっていたの。よかったら、これから仲良くしてね」
「ええ、もちろん。私も知り合いが誰もいないものだから正直ありがたかったよ。よろしく」
随分と感じの良い子だな、というのが夕美の麗への第一印象だった。名は体を表すとはよく云うが、まさに麗らかである。
それから、二人が他愛のない会話をしていると、予餞会を取りまとめる担当の教師が話を始めたので、教室は一時的に静かになる。
そういえば、予餞会となれば風紀委員会の二人も卒業かあ……と、今さらすぎる事実に夕美は気がつく。教師の説明を適度に聞き流しながら、夕美はゆのとまゆのことを思い出した。
学芸会の一件から随分と日も経つが、あれから不可思議なことは何も起こっていない。実のところ学期末試験で、多くのことを忘れてしまっていたというのが本音だ。
夕美がこの鈴蘭女子高等学校に転校してきたばかりの頃に比べれば、驚くほどに生活は落ち着いている。むしろ、非科学的で現実的でない事象が立て続けに発生していたことのほうが異常であった。そうだ、吸血鬼事件だとか、急に現れた不審な知り合いだとか、女子校の学芸会に乱入する男子だとか、記憶を操作する特殊能力だとか、前世の記憶を持つ所有者だとか――つい理解することを躊躇いたくなってしまうことばかりだ。それでも、それらが事実であり、目を背けてばかりはいられないことを夕美も十分に分かっていた。ただ、それは自然に身を任せていれば、どうにかなるだろうとどこか楽観的に考えているのも確かである。
今は学校生活が順調で、音子が夕美のことを少なくとも友達と認定してくれただけで十分なのである。




