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「音子ちゃんもゆーみんも、特別な何かがあるでしょう」
本題についての、ゆのの第一声は抽象的だった。まゆはゆのの隣で微笑んでいた。夕美も相変わらずの笑顔を崩さない。音子だけがきょとんとしていた。
暫くの間、和室はしんと静まり返る。音子だけがこの状況に違和を感じていた。
「あの、ごめんなさい……分からないわ。優海さんは、あるのかしら。その、特別な何かが」
話を振られた夕美は、ため息のような、少しだけ憂鬱な笑みを漏らす。
「うん、そうだね。確かに、私はそれを持っているよ」
でも、と夕美は続ける。
「それは猫山さんにもあるはずなんだ。そして、ゆのさんとまゆさんも、おそらくは」
相変わらず話を理解できない音子から、夕美はゆのとまゆに視線を向ける。二人はやっぱり笑みを含んでいた。
「世の中はね、私たちが想像するよりもあらゆるものが複雑に絡み合っているのよ。そして、縁に囚われ続けてる。時空を超えても、結ばれた縁は解かれない」
やはり、まゆの言葉も抽象的だった。ゆのはまゆの言葉に続ける。
「単刀直入に言うとね、私たちは前世の記憶を引き継いでいる稀有な存在なのよ」
説明をしましょう、とまゆは言った。
輪廻転生という言葉がある。生命は転生し、生と死を繰り返すということだ。
しかしながら、この世に生まれる前、自身が何者であったかを知る由はない。稀に前世の記憶があるという者もいるが、真偽は定かではない。
それでは先刻のゆのの発言と矛盾するではないか、と夕美はつい口にしてしまう。そうではないのだと、ゆのは答える。
この世には確かに存在するのだ。前世の記憶を持って生まれてくる生命が。
それは真偽の分からないあやふやなオカルトではなく、確かに真実なのだという。そして、その稀有な生命には他にも特徴があり、科学で証明のできない特殊な能力があるというのだ。
「それが、今日の学芸会……ということですね」
夕美はつい、口を挟んだ。ゆのとまゆは、そうよと簡単に肯定する。
「あれはね、心の操作なのよ」
不審者の騒ぎを収めたのは、どうも記憶の改竄ではないらしい。記憶を切り取ったというわけではなく、そこで起こったことへの違和感や危機感といった心の異変を拭ったのだという。だから、あの不審者が乱入した場面について、皆は感想を抱かない。ただそれが取るに足りない当たり前のこととして捉えられており、そもそも、あの乱入してきた少年を不審者として認知することさえできないのだと。言ってみれば、究極の「鈍感」である。
「そんなことが、できるというの」
繰り広げられる現実味の無い話に、音子だけが驚いていた。とはいえ、音子の性格上、相変わらずの無表情である。
「残念ながら、それができるのは、あたし達じゃないの」
じゃあ誰が……という質問の前に、ゆのは続けた。
「風紀委員長よ」
初めて話題に挙がった人物に、どういった反応を示すべきか、音子と夕美は分からなかった。その様子を見かねて、ゆのはふっと笑う。
「まあ、いいのよ。彼女のことは……それよりも、あたし達のことね。もちろん、ゆーみんと音子ちゃんも含めての『あたし達』よ」
ゆのの能力は優れた嗅覚である。人や物を探すことに加えて、前世の記憶を有する――つまり、特殊な能力を持つかどうかも見極めることができるらしい。
「あたし達は便宜上、前世の記憶と特殊な能力を持つ者のことを『所有者』と呼んでいるわ」
生命に生まれ変わるということは、必ずしも人間に生まれ変わるということではないのよ、とゆのは付け加える。所有者は人間以外にも存在するということなのだろう。
「あたし達は危惧しているの。特殊な能力はどんな影響をもたらすか分からない。危険な能力だってあるはずだわ。例えば――」
生命を殺すことだって十分にあり得ると思ってる。淡々と、ゆのは告げた。




