表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独と薬  作者: R.藤間
記憶に眠る
24/84

4-04

「音子ちゃん、失礼かもしれないけれど、お母さんとお父さんは?」

 誰もが気になってはいたが、不用意に聞けなかった質問を()()が尋ねる。彼女は抹茶のパウンドケーキをとても気に入ったらしく、あっという間にお皿は空になっていた。

「父が仕事で海外へ赴任しているの。母はフリーランスで仕事場所を選ばないから、時々父のところへ短期滞在していて。母は来月には戻るわ」

 それから、そのパウンドケーキは近所のケーキ屋さんのものよ、と付け加えた。

「もう遅いから買って帰るのは無理ね。あ、通販でお取り寄せができるみたい」

 質問しておきながら、音子の家庭事情の回答には興味を示さず、音子は早速スマートフォンでケーキのお店を調べてはしゃいでいた。

 夕美は気を遣って、話題を戻すことにする。

「ええと……さっきの羽鳥さんは」

「彼女は、そうね。何て言ったらよいのかしら……ハウスキーパー?」

 音子の話によると、音子が中学校に上がるまでは、音子の母もフルタイムで企業に勤めていたようだ。その母も転勤が多く、音子が幼少の頃は何かと両親が不在のことが多かったらしい。それ故に、昔からベビーシッターやハウスキーパーを依頼しているとのことだ。派遣会社を利用していることから、ずっと担当が同じというわけではないようだが、その中でも羽鳥は猫山家を担当する機会が多かったようで、少し特別であるという。

 現在は、音子の母がフリーランスに転じて在宅できるようになったことと、音子も高校生になったことから、週に三日だけハウスキーパーを依頼しているようである。

「ちょっと特殊かもしれないけれど、別に何てことはないのよ。今日の学芸会だって、もし人魚姫を演じるだなんて母に言ったものなら、前日だろうが飛行機を手配して帰ってきたと思うわ。意外にも、母はそういう人なのよ」

 だから、何てことはないの。音子は繰り返した。

 それは音子なりの気遣いであった。実際、返答に少し躊躇いを感じていた夕美には救いだった。両親が不在で寂しい思いをしたのかも、していないのかも、仕事熱心な両親をどう思うかも、人によってそれぞれだ。第三者がどう反応しても皮肉に捉えかねないので、音子から先に感想があったことはありがたいのである。

「それは機会があったら、ぜひ猫山さんのお母様にお会いしてみたいな」

「ええ。きっと喜ぶと思うわ」

 夕美たちを出迎えた羽鳥の驚きぶりから察すると、音子はあまり友人を招くことをしていなかったのかもしれない。それがどうして急に音子が心を開いたのか、夕美には理解できなかった。悪いことではないので、深く考えることはなかったが。

「落ち着いた頃合いだし、そろそろ本題に入ってもいいかしら」

 それまで黙々とお茶をしていた()()が声を発した。

 そういえば……といった空気が流れる。何だかんだで、全員が本来の目的を忘れて楽しんでいたのである。夕美でさえもそうだった。

 友人とも先輩・後輩とも異なる奇妙な関係ではあるが、それはそれで不都合はなかった。あるのは、少しばかりの疑念である。

 それも、きっとこれから明かされる。そうしたら、もしかしたら。私たちは友達になれるのかもしれない、と音子は少しだけ期待していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ