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「音子ちゃん、失礼かもしれないけれど、お母さんとお父さんは?」
誰もが気になってはいたが、不用意に聞けなかった質問をまゆが尋ねる。彼女は抹茶のパウンドケーキをとても気に入ったらしく、あっという間にお皿は空になっていた。
「父が仕事で海外へ赴任しているの。母はフリーランスで仕事場所を選ばないから、時々父のところへ短期滞在していて。母は来月には戻るわ」
それから、そのパウンドケーキは近所のケーキ屋さんのものよ、と付け加えた。
「もう遅いから買って帰るのは無理ね。あ、通販でお取り寄せができるみたい」
質問しておきながら、音子の家庭事情の回答には興味を示さず、音子は早速スマートフォンでケーキのお店を調べてはしゃいでいた。
夕美は気を遣って、話題を戻すことにする。
「ええと……さっきの羽鳥さんは」
「彼女は、そうね。何て言ったらよいのかしら……ハウスキーパー?」
音子の話によると、音子が中学校に上がるまでは、音子の母もフルタイムで企業に勤めていたようだ。その母も転勤が多く、音子が幼少の頃は何かと両親が不在のことが多かったらしい。それ故に、昔からベビーシッターやハウスキーパーを依頼しているとのことだ。派遣会社を利用していることから、ずっと担当が同じというわけではないようだが、その中でも羽鳥は猫山家を担当する機会が多かったようで、少し特別であるという。
現在は、音子の母がフリーランスに転じて在宅できるようになったことと、音子も高校生になったことから、週に三日だけハウスキーパーを依頼しているようである。
「ちょっと特殊かもしれないけれど、別に何てことはないのよ。今日の学芸会だって、もし人魚姫を演じるだなんて母に言ったものなら、前日だろうが飛行機を手配して帰ってきたと思うわ。意外にも、母はそういう人なのよ」
だから、何てことはないの。音子は繰り返した。
それは音子なりの気遣いであった。実際、返答に少し躊躇いを感じていた夕美には救いだった。両親が不在で寂しい思いをしたのかも、していないのかも、仕事熱心な両親をどう思うかも、人によってそれぞれだ。第三者がどう反応しても皮肉に捉えかねないので、音子から先に感想があったことはありがたいのである。
「それは機会があったら、ぜひ猫山さんのお母様にお会いしてみたいな」
「ええ。きっと喜ぶと思うわ」
夕美たちを出迎えた羽鳥の驚きぶりから察すると、音子はあまり友人を招くことをしていなかったのかもしれない。それがどうして急に音子が心を開いたのか、夕美には理解できなかった。悪いことではないので、深く考えることはなかったが。
「落ち着いた頃合いだし、そろそろ本題に入ってもいいかしら」
それまで黙々とお茶をしていたゆのが声を発した。
そういえば……といった空気が流れる。何だかんだで、全員が本来の目的を忘れて楽しんでいたのである。夕美でさえもそうだった。
友人とも先輩・後輩とも異なる奇妙な関係ではあるが、それはそれで不都合はなかった。あるのは、少しばかりの疑念である。
それも、きっとこれから明かされる。そうしたら、もしかしたら。私たちは友達になれるのかもしれない、と音子は少しだけ期待していた。




