4-01
深夜零時、路地裏。雲の隙間から、時折月明かりが除く。
時間帯に不釣り合いな日傘――黒いレースとフリルがあしらわれたパゴダ傘だ――を差す女が佇んでいた。雨は降っていない。月明かりを遮るための日傘のようである。
月明かりに照らされて、彼女の影は細長く伸びている。元より彼女は背が高い。身長は百八十センチメートルに満たないほどで、その内十センチメートルは厚底のハイヒールであった。靴の黒いエナメルが月明かりを反射させている。
「呆気のないこと」
彼女の足元には身動き一つしない何かが横たわっていた。彼女の台詞はどうもそれに向けられていたようである。
どうやら、それは先程まで人間の女であったらしい。青白い首筋には、赤黒い斑点が一定の間隔で二つほど。そこから重力に従って赤い筋が覗いている。
倒れている人間への感想は、先程の「呆気がない」というものだった。それは自身と異なる種族への蔑みではなく、実のところ自嘲であることに彼女は気がついている。
それは物理的なところにおいては、その生命が途切れても、この世界にその肉体は存在し、等しく生命に還元され続けていることにある。だが、彼女はそうではない。元より生命はそこに存在せず、エネルギーが途切れてしまえば消失するだけで、器は土に還らないし、生命の糧にもならない。そういうわけだから、人間の行う死の儀式や追悼の儀も、彼女には縁がないのだ。もちろん、それに付随する死者を哀しむ想いなども。
人間が喜怒哀楽に支配され、とるに足らないことに一喜一憂し営みを繰り返すことの意義を、彼女は未だ理解できていない。人間は、限りある生命に言語機能が備わることで定義付けできるとさえ思っている。有限であることは生きとし生けるもの等しいが、人間が築く文明というものは特異だと感じていた。それらを含めて、彼女は人間を面白いと評価している。
ところで、この横たわる女は、きっと誰かが手厚く送り出してくれるのだろう。彼女はそれに背を向け歩き出すと、夜の闇へと溶けていった。
少しだけストックが復活しました。




