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十月下旬、学芸会の準備は相変わらず忙しい。
衣装担当は目の下に隈を作り、薄ら笑いを浮かべながらひたすら手を動かしている。どうにも、彼女は衣装に対して並々ならぬ熱量があるようで、高等学校の学芸会とは思えない出来映えの衣装になりそうだ。
「寝たの明け方なのよ……でもおかげで刺繍は終わったわ。今日の英単語のテストは散々だったけれど……はは」
彼女の手元の布は、一言で言えばゴージャスだった。一つ一つチュール生地に施されている刺繍や縫い付けられているビーズは非常に繊細である。生地にも予算内でどうにか良いものを揃えたようで、拘りが伺える。ここまで気合いの入った衣装は、どうやら王子役のもののようである。その横には、色違いの軽やかなシフォン生地を何枚にも重ねて鱗を表現した、グラデーションの綺麗な人魚のしっぽが無造作に置かれていた。
「衣装担当は大変ね。私たち大道具担当は物理的に仕事を持ち帰れないからよかったわ……それにしても、細部までこだわりすぎじゃない?」
「もちろん、全部の衣装をこの要領で作ってたら破滅するわよ。王子と人魚姫だけは、やっぱり主役相応の衣装が必要よ。演出や照明にも関わるんだから」
通りすがりの大道具担当の方に顔を向けることもせず、彼女は手元の衣装を一針一針縫い続けていた。




