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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パラダイス・オブ・ストロング~その選択は時に運命を変える。

作者: 桃翔

人の人生というのは、選択の連続である。


桜が舞う春、俺は新鮮な気持ちで空を見上げる。綺麗な青空が一面に広がっている。


その情景を見ながら、バスに乗る。今日から高校生活が始まるが、ちっともわくわくしない気持ちでヘッドホンを耳に付け、到着を待つ。

俺は決して学校生活が嫌いなわけではない。ただ・・・・・・

いや、これ以上は辞めておこう。


バスにはたくさんの人が乗っている。

その時、バスが揺れ、20歳くらいの女性が不良のような見た目で、俺と同じ制服を着た男にぶつかった。


「おい!ばばあ!ぶつかってくんじゃねー!」

「え?いや、あの今のは不可抗力・・・」

「ああ!?ぶつかったらまずごめんなさいだろうが!」


もっともな発言だ。


「な、なによ!そっちこそ、人をばばあ呼ばわり。教育がなってないんじゃない?」


なぜそこで火に油を注ぐのか。


「何だと!?やんのか!」


殴ろうとしたが、近くにいた会社員らしき男が割って入ったため、不良はあきらめ、拳を納めた。


どっかの小説にありそうな展開が行われたが、無事、目的地についた。


“国営人材育成高等学校”

国が経営する未来を生きる若者たちを育てる高校。


東京湾の埋め立て地にあるこの学校は埋め立て地の全てが敷地となっており、数多くの店舗が軒を連ねている。


完全推薦制で、この学校からの推薦がなければ行くことの出来ない。しかも、この学校に通っているあいだ、敷地内から出ることは出来ない。()()()()()()()


その代わり、在学中は、敷地内にあるお金を使う事柄を一切合切免除するという破格の待遇が待っている。簡単に言うと全て無料で手に入るということだ。


破格の待遇で、ドキドキの高校生活が俺を待っている!


なんてことはみじんも思わず、門をくぐる。


事前に通達された教室に向かい、ドアを開ける。


すでに何人か来ていたが、気にせず席に座る。


俺の席は一番後ろの窓際の席だ。一番落ち着ける場所だな。


ヘッドホンをつけたまま、窓の外を見て、担任が来るまでの時間を潰す。


15分ほどすると、ほとんどの生徒が到着していた。

みんな思い思いに担任を待っている。

そんななかで、一人の生徒が立ち上がり、全員の注目を集めた。


「みんな!僕達は、まだお互いのことをよく知らない。だからこの際自己紹介をしないか?そうすれば早く仲良くなれると思う。」

クラス全体に届く声で喋る。

突然の提案にクラスメートが驚く中、一人のいかにもクラスの中心にいそうな女が賛成の意を表明する。


ヘッドホン越しだからなに言っているかはわからんけど。


「ありがとう。まずは僕から。久水要って言うよ。中学の頃はクラスで委員長をやっていたよ。困ったら、いつでも頼ってくれ。」


拍手が起こる。良さそうな奴だな。

まあ自己紹介に興味はないから寝たふりでやり過ごそう。


その後も順調に自己紹介は進んでいた。

「あとやってないのは・・・君だね。」

俺の番が来た。気にせず寝たふりをする。

そうしているといきなり女子に机を蹴られた。

今気づいたかのようにヘッドホンをとると、

「あんたね!要君が振ってくれてんだからちゃんと答えなさいよ!!!」


「いやそんなこと言われても、眠くて寝てたんだから(嘘)仕方ないだろ。」

「なに口答えする気?」

「まあまあ、落ち着いて。眠かったんだから仕方ないよ。」

「まあ、要君が言うなら。」


「わかった。自己紹介しよう。」

これ以上絡まれても面倒だからな。

「ありがとう。」

「俺の名前は神村良太郎。これと言って特徴的なものはありません。以上。」


まばらだが拍手が起こった。

「よろしくね!いっしょに頑張ろう。」

「ああ。」


「あら?面白いことやっているわね。」

扉が開き、少々気の抜けるセリフと共に女の人が入って来た。

「自己紹介?いいわね~。お互いを知るためには大事だもんねー。」

「あの、どちら様でしょうか?」

なんとか要(名前忘れた。)が聞き返す。

「私はこのクラスの担任になりました。宇佐美双葉です。よろしくねー!」

元気いっぱいな声で名乗る。


「みんな、入学式が始まるわよ。さっ、行きましょう!」


その後、入学式が執り行われた。

ただ一言退屈だったと言っておこう。


「さあみんなにこの学校のことを少し話そうかな。といってもみんな大体わかってるわよね。」


全員が頷く。


「じゃあ補足だけ。この学校では、基本全てのものが無料で手に入るわ。なにを買うのも不自由ない。」

クラスが少し浮ついた。知っていても改めて言われると、驚くと共に、喜びが出るものだ。


「そして、授業中は一切注意しません。」

少しざわつく。

「ここでは生徒の自主性が大事にされます。真面目に受ける必要がないと思えば、サボってもいいわよ。」


クラスが先ほどとは比べものにならないくらいざわつく。

そらそうだ。サボってもいいなんて、普通なら考えられない。」


「・・・ただし自己責任でね。」


周りがそれぞれで意見を言い合う中、ぼそっとしゃべった言葉を俺は聞き逃さなかった。


「来週には実力テストがあります。皆さん頑張ってくださいね。それでは解散!」


次の日から、ちらほらと人が来なくなった。しかし先生は気にすることなく授業をおこなう。


昼食時間、買って来たパンを食べようとした時、

「神村君、どうかな?僕らと一緒に食べない?」

要が誘って来た。

「なぜ?」

「クラスのみんなと仲良くなるため、かな。」

俺が返答に困っていると、

「要君、そんな根暗ぼっち君なんかほっておいて、私達と食べよう?」

「え、でも、」

そうやって、俺の机を蹴り飛ばした女が俺にあっかんべーをしながら要を連れ去った。


俺、何か嫌われることしたかな?


「いやー災難だねー。」

突然後ろから声をかけられた。

「あ、あたし霧雨うらら。隣、いいかな?」

黙って頷く。

「あの二人って付き合っているらしいよ?お似合いだよね~。」

興味ない。

「それにこの学校、本当、天国みたい。」

知らん。

「ねぇ、何でさっきから黙っているの?」


「人見知りなんだ。」

「そうなんだ。じゃあ無愛想なのもそのせい?」

あってそうそう無愛想とはひどいな。

「じゃあ、連絡先交換しない?」

「なにがじゃあなんだ?」

「連絡していく中で人見知りを克服しよう!てきな?」

一ミリも理解出来なかったが、とりあえず携帯を渡す。

彼女は俺から携帯を受け取り、しばらく操作したあと、

「オッケー。じゃあまた今度ね。」

立ち上がり足ばやに去っていった。

何だったんだ?

ふと要のほうを見ると彼は勉強を教えているようだ。

よくやるよな。尊敬するよ。

だが、教えることに集中しすぎて自分のことが愚かになっている。

自分のこともやらないとあとで後悔することになるぞ。

突然なんだ!と思うかもしれないが()()()()をきちんとわかってなかったらそうなる。

俺はそう思った。




そしてそれは現実になる。



一週間経ち、実力テストが終わった次の日のことだ。

「今日は全員揃っているわね。では、実力テストの結果を発表します。」

みんなはどきどきして、発表をまつ。

「成績トップは、相模秀助さん!」

クラスが拍手した。

「当然の結果だな。」

「では、赤点の人を発表します。」

みんな緊張しているようだ。



「赤点は、・・・・・・久水要君!」



「僕、ですか?」


彼は驚いていた。


「なんだ~。要か。」

「俺じゃなくて良かった!」


みんな安堵する。


「でも、意外。要君、勉強出来なかったの?」

「ほら、未来ちゃん達に勉強教えてたじゃん!だからじゃない?」

「ああーなるほど。なら仕方ないね。」

「元気出せよ。要。また次のテスト頑張ればいいじゃねーか!」

「うん…。そうだね。」


みんなが彼を慰める。

場は落ち着きを取り戻そうとしていた。



だが、そうは問屋が卸さない。


「悪いけど、次はないわよ。」



「え?」

「だから、もうあなたはテストを受けられないと言っているの。」


場が凍りついた。


「それって、テスト免除ということですか?」

「はぁ?そんなわけないじゃない。ストレートに言わないと伝わらない?退学と言ったのよ。」


「え?いっ意味がわかりません!赤点一回だけで退学なんて。そんな伝えられてもないことを急に言われても!!!」


一気にまくし立てる。そらそうだ。赤点取ったじゃあ退学ねなんて誰も納得出来ない。


「伝えられてない?なにを馬鹿なことを言っているの?入学する前の学校案内に乗ってたじゃない。」


俺達新入生には、学校案内と呼ばれる、冊子を入学する前に渡される。そこにこう記載されている。


“本校では、実力が全てです。結果を残せなかった場合は、退学もあり得ます。”


「ちゃんと書いてあるわよ。しっかり読まずに、対策しないからこうなるのよ。」

「で、でも一回だけで。」

「そうね。あなたが真面目に取り組んでいたら退学はなかったかもね。でもあなた、教えるばっかりで何にもしてなかったじゃない。」

「してましたよ!ちゃんと!」

「私たちにはそうは見えなかった。あなたがなんと言おうと、相手にそう思われてしまえば、それが全てなの。」


論破されてしまった。


「だからおとなしく教室を出なさ…「黙れ!」…何ですって?」

「黙れって言ったんだ!何だよ畜生!せっかく夢の学校に入れて楽出来ると思ったのに!」


みるみるうちに、彼の顔は優しさを表した顔から、醜く歪んだ顔に変貌した。


「か…要君?」


要の彼女が問いかける。


「うるせえんだよ。この糞ビッチが!」

「び…ビッチ?」

「そうだ、元はと言えば、お前に勉強なんか教えたからこうなったんだ!返せよ。返せ~!!!!!!!!!」

「ひっ!」


彼女が腰を抜かす。


「そこまでだ!」


そう言った途端、扉から謎の集団が入ってき、要を…



討ち殺した。



要は、彼女の前に倒れ、絶命した。

謎の集団が要を連れていく。

その姿を黙って見るしかなかった俺達。

きっと困惑でいっぱいだろう。

一週間一緒にいた要の性格は偽物で、しかも目の前で殺された。

彼女に至っては、恐怖で腰が抜けてしまったようだ。


やがて、一人が口を開く。

「何で、…殺したんだよ。」


「彼が退学したからだ。」

淡々と答える宇佐美。

「退学なら!とっ捕まえて、島の外にでも出せばいいだろう!」


「はぁ。本当に学校案内読んでないのね。そこに書いてあるでしょう?在学中、何があっても敷地内から出られないって。」


「はぁ?あいつは退学したんだろ!じゃあ在学してねぇじゃん!!!」


「ここで言う在学中というのは、“卒業式を終えるまで”だ。つまり、あいつは退学していないということだ。だが、学校から追い出したところで、この島では在学中の生徒は、働くことが出来ない。そして、実力のないものを置いておくのも、無駄でしかない。だから殺す。実力のないものに生きている価値はないからな。」

「それに、要の親にはどう説明するつもりだよ。」

「親にはここに来た段階で、死ぬ可能性があることを伝え、了承を得ているわ。」

「え?どう、言う……………?」

「だから、親は君たちが死んでもなにもしないということよ。」

「そっそんな。」

「なんなら契約書を見せましょうか?全員分あるから。つまりね、あなた方は親に捨てられたも同然ってことよ。」

驚愕し、涙を流す人もいた。


「で、でも!!!」


現実を受け入れられず、なおも食い下がろうとするが、


「うぬぼれるなよ!」


突然雰囲気の変わった宇佐美に文句を言っていた生徒は黙る。


「赤点を取った、じゃあ次頑張ろうなんて甘えたことを抜かすな。そんなことが世に出て通用すると思うなよ?この世は弱肉強食。力のないものが生き残れると思ったら大間違いだ。お前たちは本気で授業をサボって怠けて何でも無料で貰え、卒業したら安定した職につけると本気で思っていたのか?だとしたら馬鹿以前に常識がなってないな。」


ここで一呼吸置いてまた話し出した。


「お前たちは、推薦書が届いた際、聞かれたはずだ。“この学校に入り、実力を示すため、命をかけられますか?”とな。」


ほとんどの生徒が下を向く。真に受けず、冗談だと思ったようだ。


「この学校では、生徒達の実力をポイントで図っている。EポイントとLポイントの2つだ。Lポイントは、クラスに貢献したり、テストで高得点を取るなどで溜まっていく。逆に、Eポイントは、テストで赤点を取る、何か問題行動を起こすなどで、Lポイントから差し引かれる形で、溜まっていく。Lポイントが高くなればなるほど、将来プラスになる。逆にEポイントが溜まっていけば、………わかるよな。」


さっきのことが頭に浮かんだようで、みんな俯いた。


「くそったれ………こんなん、地獄じゃねーか。」


「その地獄に自ら入ってきたんだ。恨むなら目先の欲に釣られて、後先も考えずに入学した自分を恨むんだな。」


そう言って、俺達のほうをしっかり見て、


「ようこそ!強者の楽園パラダイス・オブ・ストロングへ!」





入学早々、俺達は地獄を見た。

きっと絶望したことだろう。ちょっとの失敗が自分の首を絞めることになるんだからな。



だが俺はそうは思わなかった。


むしろうれしいくらいだ。


あいつの方針は昔から変わってない。


いや、むしろ、変わってもらっては困る。


俺の計画がパーになるからな。


ここで誰かが脱落したのは、今後俺が動き易くなるため大歓迎だった。


こいつらがどうやって乗り切るかを見極め、役に立つ奴を探す。まずはそれからだ。


さて、あいつが変わってないこともわかった。


そろそろ計画を始めようかな。


そう言って俺はヘッドホンを耳に付け、思考を始める。















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