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閑話:ルシファーとの会話~生徒会室にて~④

「政略結婚で十分だ。自分の欲望のまま誰かに執着するなんて…人の心なんて自分でさえ操れないのに。俺は穏やかに、誰も傷つけたくない」

 ルシファーは肩をすくめる。

「なぜか俺の周りには恋に熱心な人が多くてね。欲望に忠実だ。何かに一生懸命になれるというのは尊いものだけど、俺には合わないかな」

 彼の言葉の端々には哀愁があった。熱烈な愛に巻き込まれた息子として、翻弄された母を見て、まっすぐに恋をする弟を見て、気付かぬ恋にあがく友人を見て、良いと思うところはあれど、彼らの熱量が強すぎて疲れてしまうのだ。

「俺はおかしいだろうか?」

 多少不安げにルシファーはユーリを見る。

 ユーリは普段自信に満ちた彼からは想像できない弱々しい様子に戸惑いながらも微かに首を振る。

「…いいえ。ルシファー様は公爵家の嫡男です。むしろ、政略結婚を前向きに考えられるのは利点ではないでしょうか。この国ではまだまだ恋愛結婚は庶民のもの。政略結婚が主流ですから」

 ルシファーはホッとしたように笑った。

「…ありがとう。まあ、父のことはあれど、根っからの貴族だからね、俺たちは。人知れず価値観も作られているのかもしれない」

「…」


(それはあるのかもしれない)


 ときどき、ルシファーとユーリは育ってきた環境での違いを感じることがある。

 ルシファーは生まれながらに人を統べる家系だ。ときどき、ひどく厳しい考え方をすることがある。

 また、ユーリとは全く異なる価値観を持っていると感じることもある。

 それは普段は面白いと思えるが、共に暮らすとなればどうだろうか。

 ロロのことを考える。


(今はいいが、ロロはずっとドラフォン様と一緒にいれるのだろうか。ロロは平民。ドラフォン様は生粋の貴族。考え方や価値観の違いが彼女を苦しめないといいが…)


「そうだ、ユーリ。先に言っておくが、遠慮はいらない」

「はい?」

「ドラフォンのことだ。…もしユーリがロロ嬢と共にいたいと思うなら、こちらのことは気にせずに行動してくれ」

「…どういうことでしょうか?」

 意味がわからず首を傾げるユーリ。

「俺は先ほど言ったように恋愛じゃなくて政略結婚もいいと思う。特に我々貴族の場合なら、それが普通だというのはユーリが言うとおりだ。ならば、失恋しても俺らの人生には大きな影響はない」

「…」

「ドラフォンもグラフィス家の人間だ。いずれ聞き分けなければいけない」

 すうっと目を細める。

「それに、父も魔番になったから母に手を伸ばしたが、それまでは実に貴族らしい人間だったらしい。適度に女遊びはするけど、特定の恋人は作らない。自分の不利益になりそうな人間には近づかない。自分の家の利益になりそうな人間と繋がりを持つ。基本的な考え方は変わっていないよ」

 「申し訳ないが」と前置きをしてルシファーは続けた。

「ロロ嬢はグラフィス家からすれは利益になりそうなところはない。平民だし、魔力ランクSとはいえ、ウチは魔力持ちの家系だからね。両親はなにせこの国で10人程度しかいない魔番だし。他の貴族なら喜ぶかもしれないが、ウチからすれば大したことないんだ」

「…つまり、グラフィス家からすれば『子供のうちの恋愛ごっこなら構わないが、将来結婚を許すことはない』ということでしょうか?」

「そう考えてもらって構わないよ。次期当主の俺がそう考えるから。…父は早く当主の座を俺に譲り、母と領地にこもりたがっているんだ。ロロ嬢は愛らしいし俺も好ましく思っているが、本妻には難しいかな」

 ユーリは不意にルシファーの胸倉をつかんだ。

 近くの壁に彼の体を押し付ける。


「…本妻には難しい? ロロを愛妾にするとでも? それを僕や、ルーク様が許すとでも?」


 目にぎらぎらと怒りの炎を燃やし、凍てつくような冷たい声で静かに聞く。

 締め上げようとするユーリの腕をルシファーの力強い手がしっかりと掴んだ。

「そんなことは考えてない。俺も命がおしいからね。そんなことしたらルーク様を敵に回す。君と話をすることもできなくなりそうだし」

 ユーリに追い込まれている形だが、ルシファーは動じていない。むしろユーリの反応を面白がっている様子だ。

「ロロ嬢には幸せになってもらいたい。でもドラフォンじゃ難しそうだ。なら、違う人間がロロ嬢を幸せにすればいい」

 じっとルシファーはユーリを見つめる。

「俺は母を見ている。本当に愛しているならば、いつかその想いは届く。受け入れられる。最終的に幸せにしてやればいいんだ」

 ユーリの腕をやんわりとほどきながら、しっかりとルシファーは言った。

「始めから100%の愛情を欲しいと思うから難しいんだよ」

 ユーリは窓の外に視線を移した。もう、ロロとドラフォンの姿はなかった。

 昼休みも間もなく終わる。


(100%の愛情を欲しいと思うから難しい…僕は、ロロからの愛情を欲しいと思っている…?)


「ロロはまだ9歳ですよ、子供だ」


(そんな子供を好きになっている? この僕が? ありえない。第一、別にロロとどうこうしたいとか思わない)


 ただ、一緒にいたいだけ。

 ただ、隣にいたいだけ。

 それ以上何かをしたいとは思わないのだ。


「まあ、8歳下だし、平民の君にはなかなか受け入れがたいかもしれないけど、貴族ならこんな年齢差よくあるよ? それに、今すぐ結婚したいとか何かしたいと思ったらそれこそ変態だ」

 ルシファーは聞き分けの悪い子供を諭すように話す。

「うちの学園の魔番みたいに熱烈な愛情に包まれた関係もあれば、穏やかな関係もある。恋愛感情もいろいろだ。常識にとらわれてはいけないよ」

 ルシファーはユーリの肩に優しく手を置いた。


「もうすぐこの学園を去る俺から、友人へのアドバイスだ。自分の心の声に耳を傾けろ。いろいろなしがらみを無視して向き合え。本当に大切なら、無様でもいい。がむしゃらに手を伸ばせ。それ以外に気を使うな」

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