閑話:ルシファーとの会話~生徒会室にて~③
「…俺の両親の話は知っているか?」
ルシファーは聞いてきた。
ユーリはどう答えていいのかわからず、知っていることを話す。
「…ルシファー様のご両親が魔番であることは知っています。魔番は通常幼い頃に痣が浮かび上がり発見されますが、ルシファー様のご両親のケースはこの国始まって以来初めてのことだったと」
魔番は遅くとも7歳くらいまでにはその膨大な魔力を何らかの形で発揮することが多い。
また、魔番はお互いに同じ痣が体に浮かび上がるのでこの国の者なら痣を見たら魔番であることを認識する。痣の模様は様々であるが、植物であったり動物であったり、自然な痣ではなくはっきりとした形をもっているので見分けは簡単である。
魔番は通常もともと近しい関係の相反する属性を持つ魔力持ち同士で出現するので、大抵は魔番が判明した段階で共に暮らし、成長するのだ。
学園にいる魔番の二人は典型的な例で、ごくごく幼いころに痣が出現し、しかもその関係は主人と奴隷だった。もともと常に一緒にいた二人が魔番となったのだ。
ただし、ルシファーの両親の場合は違う。
「たしか、ルシファー様のお母さまに先に痣が出たのですよね。しかも、18歳になってから痣が出たのかと」
「ああ。もともと母は男爵家の令嬢だった。学園にいたころは魔力ランクSの、少ないが珍しくもないごくごく普通だった。が、ある日突然魔力が開花し、痣が出た」
ルシファーの両親の話は有名だ。成人してから魔番になったのは初めてなのだから。
「もともと父と母は幼馴染だった。母の痣が出現したと同時に父も痣が出た。父はそのころには既に魔法省で働いていた。彼自身は魔力ランクSSAの優秀な魔法使いとして既に名を馳せていたんだ」
グラフィス家は代々ほぼ全員が魔力を持って生まれてくる家系なのだが、その中でも父親は飛びぬけて優秀だったらしい。
「だが、問題があった」
(…知っている)
あまりに有名な話だ。
大人になって魔番となってしまったが故の悲劇。
「幼なじみは3人だった。父と母、そしてもう一人侯爵家の子息。そして母はその侯爵家の子息と婚約していた。1か月後にその子息と結婚式を挙げる予定だった。わずか1か月前に魔番となってしまったのだ。しかも相手は婚約者ではなく、もう一人の幼なじみだ」
その後の展開はルシファーを見ればわかる。
侯爵家の子息との結婚は取りやめになり、彼の母はルシファーの父と一緒になった。
19年前の話だ。ルシファーは今18歳。結婚して程なくしてルシファーを身ごもったのだ。
「…母の嘆きはそれはすごかったらしい」
婚約していた二人はどこからどうみても愛し合っていた、仲の良い二人だったそうだ。
それを引き裂いたのだ。
「父は元々母のことを愛していたから、嬉しかっただろうけど」
ユーリは何て声をかけてよいのかわからなかった。
愛している仲を引き裂かれ結婚させられた。すぐにルシファーを身ごもった。あまりに有名な話だ。
いつも飄々としているルシファーを見ていると、彼が何か闇を抱えているなんて誰も思わない。
ただ、彼はどう思っているのだろう。
自分の存在を。
身ごもったと知った時、母はどう思っていたのか。
「俺はね、恋愛は恐ろしいと思うんだ」
「…」
「今の二人を見ていると、それは微笑ましいけど、その傍で誰かが苦しんでいるのかもしれない」
ちらりとユーリを見る。
「なんて、身勝手な感情なんだろう」
ルシファーはふうとため息をつき、ユーリの方に寄りかかった。
「母には同情する。でも、今の母を見ていると父を愛しているよ。結局、俺の父は母を振り向かせた。愛情を手に入れた」
呟く。
「…侯爵家の子息のことを考えると、胸が痛い。恋愛感情は移ろうものだ。母のように。結婚までしようとしていた想い人がいても、長い時間をかければ心は移ろうもの」
「ならば」とルシファーはニヤリとユーリを見た。
「俺は恋愛ではなく、政略結婚で十分だ。恋愛の厄介ごとは荷が重すぎる」