閑話:ルシファーとの会話~生徒会室にて~②
「…どういう意味ですか?」
ユーリは聞き返した。
ルシファーは肩をすくめた。おもむろに立ち上がり、窓際へ進むと窓から外を見た。
そこには、もはや習慣になってしまっている光景が今日もまたあった。
ロロとルシファーの弟のドラフォンが実に仲睦まじい様子で語り合っている。愛らしい恋人同士だ。
「そのままだよ。彼らは恋人同士だが、婚約しているわけじゃない」
ルシファーは目を細め優しい表情でバラ園で語り合っている小さな恋人同士を見守っている。
「婚約しているならまだしも、恋人であるだけなら、恋愛関係がなくなった時点で終わりだ。想いがなければ続かない。それに彼らはまだ小さな子供だ。たかが9歳の恋愛、いつまで続くのか」
温かく見守っているが、ルシファーから紡ぎだされる言葉はあっさりとしたものだった。
「…彼らの恋は続きませんか?」
「わからんな。ドラフォンは本当にロロ嬢のことが好きだ。心から大切に思っているよ。…だが、人の心は時と共に移ろうからね。これがずっと続くなら、素敵なことだと思うが」
言外に「続くわけがない」「たかが子供のままごとだ」と多少見くびってみている様子がルシファーにはあった。
ユーリはそんなルシファーを多少意外に思っていた。
「…意外です」
「そうか?」
「はい。あなたは彼らの全面的な味方だと思っていました」
「もちろん、味方だよ」
「…それに、あなたの親は魔番ですから、恋愛は確固たるものと思うのかと」
魔番。これは魔法が当たり前に存在するこの国で存在する魔力で結ばれたパートナーを指す。
あまりに膨大な魔力を有する魔力持ちは溢れ出る魔力で他者のみでなく自分自身でさえ身の安全を脅かすことがあるため、魔力を相殺することができる魔番というパートナーがいる。といっても、この国でも魔番は10人程度といわれているが。
魔番はお互いに必要不可欠な関係であるためか、お互いに固執し強固な関係を結びがちである。
ルシファーやユーリが通う学園にも魔番がいるが、この二人を見ていると「お互い以外は関係ない。必要ではない」という様子が明らかで、盲目的に求め合っているのが良くわかる。
その様子はまさに運命の糸で結ばれた恋人だ。誰にも邪魔できない。
「魔番は…あれは恋愛関係とはまた違う。そんな甘いものじゃない。あれはどうしようもない、止めることができない渇望だ。野生の本能が追い求めているようなもの」
ルシファーはつまらなさそうに言う。
魔番はこの国ではとても大切に扱われる。
ましてや、ルシファーのグラフィス家は三大公爵の一つであり、その公爵家から希少な魔番が生まれているのである。もっと誇りに思っているのかと思っていた。
「…父は本当に母を愛してるよ。母しか目に入っていない。あれはもう、執愛とでも呼んだほうがいいな」
ルシファーは寂しそうに笑う。
「父からすれば、子供は母を逃がさないための足かせだ。今でこそ子供も4人になり、父も安心したのか、随分父親らしくなってきたが、俺が小さな頃はひどかった。親じゃなかった」
「…」
「俺はただの足かせであり、父は母が俺に愛情を向けるのにひどく嫉妬した。俺がまるで母を奪うのではないかと疑っている様子だった。俺は幼いながらにあまり母に甘えることができなかった。…父が恐ろしかった。母に近づくと、殺されるのではないかと恐かった」
ルシファーはちらりとユーリを見た。
「…少し、俺の両親の話をしてもいいだろうか?」
ユーリは黙って頷いた。