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放課後お出かけしたい

「今日帰りに行きたい場所がある?」


 学園へ行く馬車の中でロロが不意に「行きたいところがある」と言い出したのだ。

 ユーリが聞き返すと、ロロは名何度も頷いた。


「…ドラフォン様と行きなよ。彼がロロの恋人なんだから」

 素っ気なく返す。

 つまらなさそうに馬車の外へ視線をずらした。

「ユーリがいい」

 目の前に座る可愛らしい少女は引く様子がない。


 ユーリの目の前に座る少女、ロロには最近恋人ができた。

 たかが9歳で恋人なんて生意気だとユーリは内心思っているものの、貴族社会では9歳で婚約している者も少なくはないし、まああることだという。

 まばゆいばかりに緩やかに波打つ金髪で青い瞳をしたロロは、なんとこの国の三大公爵の一つであるグラフィス家の次男のドラフォンに見初められたのだ。

 ちょっとしたアクシデントをきっかけにドラフォンはロロの心を射止めた。それからというもの、ドラフォンは何かというとロロに付きまとっている。


 ロロとユーリは一緒に暮らしてはいるが兄弟ではない。魔法が存在するこの国で、ふつうは貴族から魔力持ちは出るのにも関わらず、この二人は平民ながら魔力をもって生まれた。しかも通常はランクA~Cの魔力を持つ者が多い中で、比較的少ないとされるランクSである。そんなわけで魔法の扱い方を学ぶために普通平民では通えない学園に通い、三大公爵の一つのルーク公爵のところでお世話になっている。


「なんでドラフォン様じゃ駄目なの?」

 めんどくさそうにロロに聞く。

「あのね、公園の中にあるカフェに行きたいんだけど、そこで今特別仕様のケーキがあるらしいの」

 ロロは甘党だ。ユーリも甘党である。

 甘い物好きなロロは特別仕様のケーキが食べたいのだろう。

「それこそ、ドラフォン様と行くべきでしょ? デートにいい」

「…そのケーキ、今日でおしまいらしくて。ドラフォンはほら、公爵家だから…」


(ああ…なるほど)


 公爵家の人間が今日突然の誘いに行けるわけがない。

 何か誘いたいときは何日か前に誘うのがマナーである。

 特にグラフィス家の次男であるドラフォンは外に出歩く際には護衛を付けなければいけないだろう。急には対応できないのだ。


「…ユーリもケーキ好きでしょう?」

 おずおずと下から顔を覗き込むロロ。

 ユーリはため息をついた。

 ロロのお願いには弱いのだ、ユーリは。もともと何か誘われて断れるわけなんてなかった。

「…好きだよ。それに、そのケーキ、今日までなんでしょ?」

「そうなの!」

「じゃあ、逃すわけにはいかないね。限定のものはその時に楽しむべきだし」

「やった! ありがとう、ユーリ」

 ロロは嬉しそうに微笑んだ。

 

 ガタン   パタンッ


「おはよう! ロロ」

 馬車が学園に着いて間もなく馬車の扉が開かれ、赤髪の軽快な少年が元気に声をかけてきた。

 ドラフォンだ。

「おはよう」

 馬車の中のロロに手を差し伸べるとエスコートをしてロロを馬車から下ろす。

 恋人になってからというものの、こうして彼は毎朝ロロがやってくるのを待っている。

「おはようございます、ユーリ様」

「おはようございます」

 しっかりとユーリにも挨拶をしてくるあたり、とても清々しい。


「毎朝ウチの弟が悪いな」

 先に行くロロとドラフォンの後ろを歩きながら、ドラフォンの兄であるルシファーがユーリに謝る。

 ユーリは首を横に振る。

「こちらこそ、公爵家のご子息に毎朝こんなことをさせてしまい、申し訳ございません」

「まあ、そう言うな。これはドラフォンがやりたくてしていることだからな」

 ルシファーは豪快に笑い飛ばす。


 ドラフォンは実に良い少年だ。

 はきはきとしていてユーリにも礼儀を欠かさない。

 恋人と一緒に住んでいる他人なんて邪魔なのではないかと思うが、ドラフォンはユーリに対して悪い感情は一切持っていないようだ。

 それどころか、ロロが大切に思う人だから自分も大切にしたいと、実に好意的にしてくれる。

 ユーリはそこが憎めなくていつもドラフォンといると居心地が悪かった。


「ねえ、ドラフォン。今日はわたしユーリと帰るわ」

 先に歩くロロとドラフォンの会話が聞こえる。

 以前はロロはユーリと共に帰っていたのだが、今ロロとドラフォンはドラフォンの双子の妹のフィオナと3人で一緒に学園帰りにグラフィス家へ行くようになっていた。

 というのも、付き合いだした当初ドラフォンは右足を骨折していて、そのお見舞いに毎日ロロはグラフィス家に行っていた。

 ドラフォンの足はもう完治したのだが、その後もその習慣はなんとなく残ったまま、毎日グラフィス家に行きしばらく過ごし、夕食前にグラフィス家の馬車でルーク公爵邸に送り届けられる日々を送っている。

「もう足も完治したし、今日はユーリと出かけたいところがあるの」

「そうなんだ。たまにはいいよね。ユーリ様とのお出かけ、楽しんでおいでよ」

 ドラフォンは気落ちした様子もなく、楽しそうにロロの話に耳を傾けていた。


(…僕のことは眼中にもない、か…)


 ユーリは内心面白くない。

 かといって、「恋人以外と出歩くな」なんて言い出す束縛男がロロの恋人だったなら何が何でも引き離していただろうに。

 ドラフォンは後ろにいるユーリを振り返り、爽やかな笑顔をユーリに向ける。

「ユーリ様、ロロをよろしくお願いします! またその様子、僕にも聞かせてくださいね」

「…はい、わかりました」


(…悪いところがないのが、このガキの悪いところか)


 内心不快に思っていることを隠しながら、ユーリはそう毒づいた。

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