黒い歴史を刻む一歩
是非最後まで読んで感想など頂けたら嬉しいです。
うるさい夜。
静かな道。
男は帰路に足を向け一つ溜め息をついた。
「はぁ…バイト向いてないのかなぁ…俺」
男の名前は石黒真紅亮。日本人にしては背が高くスーツ姿、男らしい髪型の男はさっき靴磨きのバイトをクビになったところである。
「くそっ…これじゃ生活が…仕送りはもう無いってのに」
真紅亮は晩御飯の弁当を買いにコンビニへ寄った。おにぎりを二つお茶を一本。晩御飯はこれだけ。
会計を済まし、また帰路に足を向け、見知らぬ貼り紙のある電柱を見つけた。
『臨時!運動が得意な人大募集! みんなでヒーローになりませんか?!』
う、うさんくせぇ~。
そう思いながら真紅亮は概要へ目をやる。
『1日だけで高所得!時給7000円!お問い合わせはこちらまで↓』
『こちらまで』の下矢印の先にはしっかり電話番号が書いてある。
「ほ、本当かぁ?これが本当だったら、八時間働いたとして…五万六千円…?!」
額の大きさに目からの鱗と手に持っていたお茶を落とした。
ど、どうする…?怪しいけど…。
束の間の葛藤。
生活のためだ、ダメ元でもいいから…!!
真紅亮はカバンから画面の割れたスマホを取り出し下矢印の先に書いてある電話番号を入力した。
一コール目。
ニコール目。
『お待たせ致しました。シュヴァルツ目黒本社の黒木です』
丁寧な声で電話対応してくれた。
「あ、あの御社の貼り紙を見ました。バイトの面接をお願いしたいのですが…」
恐る恐る口を開くと電話越しで嬉しそうな声がした。
『部長!バイトしてくれるって人来ましたよ!』
『なにぃ?!本当か?!ちょ、ちょっと電話変われ!』
『お電話変わりました。シュヴァルツ目黒本社対策課の部長の黒谷です。単刀直入にお聞きします。本当にやるんですね…?』
何やら含みのある聞き方だった。それでも後がない真紅亮にとって願ってもないチャンスだったので、
「やります!やらせてください!」
即答だった。
『あ、お名前は…?』
「石黒真紅亮です!」
翌日
真紅亮はスーツをきめ、電車を乗り継ぎ目黒まで来た。真紅亮の家のある千葉、柏から電車で約一時間。
株式会社シュヴァルツ本社。見た目は四階建ての雑居ビル。目の前にして怖じ気づいちゃ情けない。
真紅亮は覚悟を決めて入り口へ入った。
係員の人に面接室の前に案内され、入り口の前の椅子で待っているとその時がやってきた。
「石黒さん。お入りください」
「は、はい!」
うるさい昼。
うるさい道。
面接が終わった男は悩んでいた。
「どうしよう…」
結果から言ってしまうと、真紅亮は面接に受かった。
明日の仕事の予定も入っていた。
だが、
「確かに仕事内容をあらかじめ聞いていなかった俺が悪いけど…」
昨日願ってもないチャンスがめぐってきて、それに頭が一杯でほとんど考えてなかった仕事内容。ヒーローと書いてあったのでスーツアクターか何かだろうと軽く見ていた。
石黒真紅亮の明日の仕事は、
『謎の白い教団から東京を守ること』
だった。
仕事初日
真紅亮スーツ姿で何を持ってきたらわからなかったので高校時代のジャージを持ってきて会社の入り口を歩いた。
「あ!君が石黒くん?早いね」
黒谷部長が真紅亮を待っていた。
「じゃあ昨日採寸したスーツの試着しちゃおうか」
「わかりました!」
昨日、真紅亮は面接の後よくわからないままスーツの採寸を行い、「明日渡すね」と言われよくわからないまま一日を終えた。
スーツと言ってもリクルートスーツみたいな物ではなく全身の身を包む、小さい頃夢見たかっこいいヒーロースーツである。
真紅亮は部長についていき、社内の地下へとエレベーターで行き明らかに謎な研究所にやってきた。
「おーい、スーツ見せてくれ~」
部長が研究員らしき人に頼むと黒いスーツを持ってきた。
真紅亮はそれを見るなり不安とかそっちのけで大興奮だった。
「かぁっこいいですね!部長!」
キラッキラの真紅亮の目を見て、部長は自分が作ったかのように自慢し始めた。
「だろ?デザインも最高だし、ちゃんとヒーローらしく特殊機能とかもちょっとあるんだぜ!とりあえず着てみな。更衣室は向こうのトイレの隣にあるから」
嬉しそうに真紅亮はスーツの入ったケースを受けとる。
「わかりました!ありがとうございます!」
真紅亮は駆け足で更衣室へ走って行き、ケースを開け取説を読んだ。
サイズ L
メンバーカラー アイボリーブラック
機能
一.瞬間装着(最大〇.五秒)
二.運動補助
三.軽装甲
四.レーダー etc
真紅亮は機能の欄に目を通し驚いた。
「機能めっちゃついてんな!ちょっとじゃないじゃん!五十個ってまじか!」
興奮しながらケースの中に入っていた物を全て取り出し重要そうな物を見つけた。
「装着前行動の説めい…ん?!何?装着するために何かやることあるの?…もしかして…」
と、真紅亮は特撮の変身シーンを思い出す。
「え?人前であんな風なことを言わなきゃいけないのかよ!」
真紅亮は自分が公の場で恥ずかしい前口上を言ってる想像をし耳を赤くする。
「ま、まじか…」
悩み悩んで決心した。
「と、とりあえずやってみよう…とりあえず…」
装着前行動の取説には前口上を言う前にケースを開けて足元に置きその上に立って黒いタイツを全身に纏う、そうすると装甲が使用者の周囲に浮き上がり、ようやく前口上を言うという。
真紅亮は書かれていた通りケースを開いたまま足元に置いた。
なるほど。
「清く…染まれ…っく」
あまりの恥ずかしさに一瞬止まったが、
「正しき黒へ…染まれ!変身!」
は、ハズカシー!でもこれで変身できるはず…。
その瞬間足の部分の装甲が真紅亮へ向かって飛んできた。
「うおぉっ」
………ま、まさか。
真紅亮が危惧したことは当たっていた。
「ヤバイヤバイ!」
ひゅんひゅんとケースに入っていた装甲が飛んでくる。
脛、膝、腿、腰、腹、腕、胸、肩、そして
「頭はヤバイだろ!」
ひゅんと飛んできた頭の装甲を避ける。 壁に当たって落ちた装甲を自分で被って、全身の装甲の装着が完了。アイボリーブラックが完成した。
真紅亮は鏡を見て大興奮だった。
「かっこいい!!!!!何これ?!!!ヤバイだろ!!!かっけええ!!!」
アイボリーブラックといったが黒とはほとんど差異はなく、ほんの少し赤い真っ黒といった色である。
後ろへと流れるようなデザインをしている全身に、半月のような目、なにやら色々メカニックが詰まってそうなバックパック。装甲は戦車のような防御力だ。全て真紅亮の厨二心をくすぐった。
これってどんぐらい強くなってるんだろう?
好奇心も真紅亮をくすぐり、全力パンチを壁に向かって放った。
壁壊れたらどうしよう…まぁいいか、そんぐらい強くないとヒーローじゃないでしょ!
刹那、真紅亮の拳は空を切り、放たれた全力は壁に衝突した。
言ってしまうと威力は微妙だった。こればかりは本人の筋力しだいで威力が変わってくる。現状コンクリの壁に傷が入った程度のパンチだ。
「あんまり変わってないな…まぁいいか!他の身体能力に期待だぜ!」
そこでタイミングの良い呼び出しがノックと一緒に来た。
「着替え終わったかな?」
「あ、部長!すごいですね!これ!めちゃめちゃかっこいいですよ!」
真紅亮は更衣室のドアを開け、部長に自身の姿を見せた。
「似合ってんじゃねえか!よし、このまま体力測定行くぞ!」
「はい!」
「…むむむ」
元陸上部で十種競技の選手でもあった石黒真紅亮。走、投、跳の種目には少し自身はあったものの、長年のブランクとスーツにまだ慣れてないのも相まって中々良い結果を出すことは出来なかった。部長もかなり微妙な顔をしていた。
どうでもいいが、この会社あまりにも人が集まりないので、臨時のときは体格だけで判断するということもあるそうだ。
やばい…ひどい成績だ。あまりに酷いと仕事もできずクビになるんじゃ…?!
残りの種目は長距離走。真紅亮が一番得意な競技である。
絶対、良い成績残してやる!!
ぜぇ…ぜぇ…!!
真紅亮はゴールテープを切ると力が無くなったかの様に倒れ込み、確かな成功の笑みを溢していた。
タイムは三分五十二秒〇三。これには部長も驚きの表情が隠せない。
「よ、よし真紅亮!今日はここで終わりだ!お疲れ様。今日は帰ってゆっくり休めよ!スーツは整備とかの調整をしとくからこちらで預からせてもらうぞ」
「ぜぇ…は…はい…お疲れ…様でした」
翌日
少し筋肉痛が残りながらも真紅亮は雑居ビルへと足を運ぶ。
すると部長が見え、周りに知らない人が三人立っていた。
「お、真紅亮!お疲れさん、昨日はよく寝れたか?」
「はい、お陰さまで」
「そりゃよかった。そして良いタイミングで来てくれたな。この三人が今回の謎の白い教団と戦うメンバーだ。共に行動することになるから仲良くしろよな!」
そう言われ三人の方へと目を運ぶ。
左からゴスロリ姿で黒ウサギの人形を抱えたの小さな少女。
真ん中に色黒な肌に青いポロシャツの真紅亮より背が高い青年。
そして右に黒子。
真紅亮の長い一週間が今から始まった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。