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天の川で夜釣りを_2

朝、園門の笹を見ると沢山の短冊が飾ってあった。

手の届く範囲には既にスペースが無いので私は背伸びをして高い場所に短冊を飾る。無意識に央くんの短冊を探してしまう。


「ほら、これ使いなよ」


央くんが脚立を持ってきてくれた。


「ありがとう」


央くんが私を見上げながら脚立を支えてくれる。スカートを履いてくれば良かった。


「いつ出て行くの?」


私は、短冊を結びながら聞いてみた。


「今夜だよ」


質問に間を置かず答えるところに決意の固さを感じる。消える子も出ていく子も最終的にどうなるのか私達は知らない。

お腹は空かないだろうか?怪物が出てきたりしないだろうか?この世界はどれだけ広いのだろうか?

央くんが心配でたまらない。


「皆には言ったの?保育士に聞けば、行くべき方向くらい教えてくれるかも」


私がそう言うと、央くんは困った表情で応えた。


「保育士も分からないそうだよ。ただ、出ていく事はお勧め出来ないってさ」


もしかしたら迷惑だと思われるかもしれない。でも、どうしても央くんの役に立ちたい。


「私も、一緒にお母さんを探すよ」


あの時の私は、下心丸出しの顔をしていなかっただろうか?央くんに私の事を記憶に残して欲しい。

ここへ来たばかりの頃と、矛盾した心境に戸惑いつつも央くんへ私の気持ちを伝えた。


「だから...一緒に連れて行ってくれる?」



その日の夜、私は懐中電灯とリュックいっぱいのお菓子を持って園門で央くんを待っていた。

実は、あの気持ちを伝えた後の返事は貰えなかった。迷惑だと思われているなら央くんは裏門から出ていくだろう。


ドキドキしながら待っていると、央くんが釣竿を持って現れた。とても嬉しい。


「いいの?」


「うん」


何だか駆け落ちをする男女のようだ。彼が他の人を思っていても、もう少しだけこの雰囲気を味わっていたい。

私達は園門を出て真っ直ぐ歩き始めた。


夜の賽の河原はとても幻想的だ。点々と建ち並ぶ石塔が私達の足元を照らしてくれる。ここまでは懐中電灯もいらない。新月の夜の天の川は更に美しい。


暫く真っ直ぐ進んでいると、大きな朱色の鳥居が見えてくる。私達はその先がどうなっているのか知らない。


「さて、どうしようか?」


央くんが背を向けたまま話しかける。


「ちょっと休憩したい」


私達は鳥居の傍にある東屋でお互いの事を語り合った。

央くんの話しを聞いていると、改めて央くんが両親をとても慕っているのが分かる。

央くんの持っている釣竿は、お父さんの形見だ。お父さんが生きていた頃は3人で良く夜釣りに出掛けたそうだ。


「三途の川では何が釣れるかな。お袋を見つけたら、親父も探してやるか」


央くんははにかんで言った。

親子3人、再開できますように......


鳥居の向こう側には闇が広がっている。三途の川は何処にあるのだろう?私達は、どちらに進めばいいのだろう。


「右に行こう、左は何だか嫌な感じがする」


央くんがそう言って右の方を懐中電灯で照らす。


...バシャッ......


その時、微かだけど左の方から魚の跳ねるような音が聞こえた。


「央くん待って!やっぱり左に行こう!!」


バシャッ!バシャシャ...


央くんが振り向くと今度はハッキリと魚が跳ねるような音が聞こえる。


あの時、私は余計な事を言わずに央くんの好きな方に行かせておけば良かったのだ。


そしたら央くんは何も知らず、苦しまず、安らかに逝けたのかもしれないのに......





天の川で夜釣りを_3に続きます

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