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おっぱい星人_2

誰かが2人が死んだと言っていたが、今朝も悠人くんは元気におっぱいを求めている。文彦くんも、あれから少し元気が無いように見えるけど毎日3回しっかり食堂に来ているから大丈夫だろう。


「博兄ちゃん、乳汁呑爺は今も居るの?」


食器を片付けている博に翔ちゃんが訪ねる。翔ちゃんは、あの一件以来おねしょをするようになってしまった。


「そんなに乳汁呑爺が怖いのかよ。昨夜はちゃんとトイレ行けたか?」


博が笑って応えると、翔ちゃんは頬っぺたを膨らまして地団駄を踏む。


「じゃあ、昔話の続きを聞かせてやろうか?」


そんな翔ちゃんの様子を見て博はからかいたくなったようだ。


「乳汁呑爺は、毎年毎年現れては村の若い娘達ばかりを狙う変態妖怪だけど、しつこく追いかけて来るわけでは無い。それに、力のある修験者に退治を依頼するには大金がいる。なんせ年に一回きりの事だから村人達はあまり深刻には考えていなかった。」


いつの間にか博の周りには子供達が集まってきていた。


「ところが、ある年の大晦日にこの村に嫁ぐ予定の隣村の娘が乳汁呑爺に襲われて運悪く大怪我をしてしまった。隣村の人間は、こんな恐ろしい妖怪を野放しにしていると、この村の連中に大激怒したわけよ。しかし、この村には退治を依頼できるだけのお金が無い。村人が困っていると、それなら自分がと土地相撲の覇者である若者が退治を引き受けた」


子供達が話しの続きを急かす。


「大晦日の晩、その若者はほっかむりをし、女物の綿入りのべべを着て乳汁呑爺を誘きだした。乳汁くれ、乳汁くれや...。乳汁呑爺が現れると若者は胸をはだけて、好きなだけ吸えやと乳汁呑爺に胸を突き出した。乳汁呑爺が嬉々と若者の胸にしゃぶりつくと、若者は背に隠していた短刀で乳汁呑爺を思いっきり突き刺した」


「それで乳汁呑爺は死んじゃったの?」


翔ちゃんがちょっとだけ悲しそうな顔になる。


「乳汁呑爺は余りの痛さに若者から離れてうずくまる。だけど、若者が留めを刺しにかかると乳汁呑爺がこう言うのよ。最後におっかあの乳飲みて、おっかあに抱かれてぇって。憐れに思った若者は自分の乳で良かったらと優しく抱き上げた。すると、乳汁呑爺は微笑みを浮かべて雪のように消えていったそうな」


翔ちゃんの顔が少し明るくなる。


「それじゃ乳汁呑爺は今は居ないし、幸せになったんだね」


その言葉を聞くと、博はニタニタしながら物語の続きを話し始めた。


「見事乳汁呑爺を退治した若者は村で一番綺麗な娘を嫁に貰ったそうな。やがて、2人の間には小汚なくて唇の大きな子供が沢山生まれ幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」


翔ちゃんの顔が青くなる。


「何それ……やっぱり乳汁呑爺怖い……」


ふと食堂の窓を見ると胎児達が何人か張り付いていた。こんな話でも暇潰しにはちょうどいいのかもしれない。



ところで、最近決まって夜中の3時頃になると廊下から泣き声がする。


「まんまァ……まんまァ……わぁあああん」


悠人くんは、生前まだ夜間授乳をしていたのだろう。この時間になるとおっぱい恋しさからか泣きながら廊下をさまよう。


可愛そうだけれど、あの子は抱っこだけでは済まないから日記を書く手を私は止めない。暫くすれば保育士が連れ戻しに来るはずた。

さて、流石に眠くなってきたのでそろそろ布団に入るとする。


おやすみなさい

_________


「まんまァ……グズグズ」


「坊や、また泣いているの?いらっしゃい」


白く美しい手が部屋へと誘うと、悠人はその手にすがる。

抱き上げて貰うと、ほんのりあの甘い香りがする。


「まんまァ……」


女は、悠人をベッドに座らせるとオルゴールのネジを巻く。

カチューシャの唄……優しく、ほのかに悲しい音楽が流れる。

女は悠人の隣に座ると衿元をずらし一緒に横になる。


閉じたカーテンの隙間から幾人かの胎児が覗く。


「人が理想を夢見るから、あなた達は増え続けるのね……」


目を閉じると、久しく忘れていたツンと滲みるような感覚が蘇る。


「おやすみなさい坊や」


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