コピー機
2階へ行く途中、またあの悪ガキに会った。
「キモイ♪キモイ♪ゲロ糞ババアがやって来た♪こっから先は通しません♪」
廊下の奥の方を見ると悪ガキ数人が他の子達のロッカーを漁っていた。悪ガキの1人が秋枝のロッカーからスケッチブックを見つけて笑っている。
「見ろよ、この絵。のっぺらぼうだぜ」
「うっわー! 気持ち悪い」
悪ガキが悪ガキを手招きで呼ぶ。コイツらにとってノーマル以外のものはお宝だ。
「それ……私の絵」
振り向くと秋枝が泣きそうな顔で立っていた。
「キモイ♪ キモイ♪ 秋枝の絵♪ のっぺらぼうが笑ってる♪」
「コラッ!」
ブロロロ……ジャリジャリ
その時、裏庭に車が入って来た音がした。保育士が帰って来たんだ。悪ガキ達も大人しくなって顔を見合わせている。
「ヤバい、ヤバいよ。早いって……」
悪ガキ達の顔が青くなる。まだ食堂や保育士の部屋はそのままだ。
私達は窓から顔を出して保育士の様子を確認する。保育士と後1人、男の子が助手席から降りてきた。位置が悪くて男の子の顔は確認できない。
「どうしよう、どうしよう」
悪ガキが動揺している。内心は私も同じだ。
しかし皆が覚悟を決めた時、幸運の女神が微笑んだ。保育士が母屋へは入らずに離れの方へ歩いて行く。
「秋枝、ごめん。私、行くわ」
私は悪ガキから秋枝の絵を取り返し、秋枝に渡すと急いで階段をかけ上った。雑誌をコピーしたかったのだ。コピー機は2階の多目的室にある。
多目的室に着くと博が先にコピー機を使っていた。
「お願い、先にコピー機を使わせて」
私は必死に頼みこむ。短ければあと5分程で雑誌は元の場所へ戻ってしまう。それなのに博は無心でコピー機を使っている。私の顔さえ見ようとしない。
「いったい何をコピーしてるのよ!」
覗き込んでみると博がコピーしているのは成人向け雑誌の【エロマンス】だった。ああ……あったのね男のロマンが……。
博はポケットからハサミを取り出すと袋とじを切り始めた。
「させるか!!」
力一杯博を押し退けると博は豆鉄砲を食らった鳩のように驚き後退りをした。すかさずコピー機を奪い取る。
ピー、ピー...【用紙を補給してください】
原稿カバーを開くと原稿ガラスに私の顔が映った。幸運の女神は居なかったようだ…………。