潜入
さて、保育士の部屋は裏庭に面した一階の一番右端にある。広さは子供達の部屋とそう変わらないはずだ。
私は、この2人の探検ゴッコに付き合う事にした。もしかしたら私の考え事の一つが解消するかもしれないからだ。
あの保育士がどうやって常世の新聞を手に入れているのか? いつもは優しい保育士が、何故私にあの新聞を見せたのか? そして、鳥居の外で何が起こっていたのか?
七夕の悪夢の時、央くんは海の中で目を覚ました。それなら何故、彼は心中だったと嘘をついたのだろう?
「いち、さん、まる、はち。翔少佐、瑠璃一等兵これより我等、進軍す!」
ガチャ
鍵を開けると私達の部屋と余り変わらない光景が広がっていた。変わっているとしたら良く整理整頓されている事ぐらいだ。
「よし、行け翔少佐!」
「ラジャー!」
博がベッドの下へ翔ちゃんをけしかける。翔ちゃんはほふく前進で奥へ奥へと進む。
「男のロマンはあるか翔少佐」
「う~ん、暗くてよく見えないよ」
私は二人から少し離れてタンスの中を確認してみる。私物らしき物が数個入っていたが特に驚くような物は無い。
「あっ!男のロマン見つけたでございます!」
暫く捜索を続けていると、翔ちゃんがベッドの下から段ボールを押し出してきた。そこそこ重量感がある。
「あー!!なないろナナちゃんだ!!」
段ボールの中身を確認した翔ちゃんのテンションが上がる。【なないろナナちゃん】とは、魔法世界に飛ばされた女の子がその世界の女王を目指すというありふれた内容の児童向けアニメだ。
段ボールには、【なないろナナちゃん】のDVDが30枚程と女性向け雑誌が数冊入っていた。
「ばか野郎!こんなものは男のロマンではないぞ翔少佐」
博はそう言うとDVDを保育士の机の上に並べ始めた。
「博兄ちゃん、先生が早く帰って来たら部屋に入った事バレちゃうかもよ」
その後、暫く捜索を続けたものの保育士の正体を示す物は全く出て来なかった。分かったのは保育士がオタク野郎という事だ。
それでも、大きな収穫はあった。段ボールにあった雑誌の記事に私の考え事の一つを解消する内容が含まれていたのだ。
私は、二人がDVDに気を取られている間に雑誌を服の中に入れて持ち出した。
一、二時間もすれば魔法の力が働いて元の場所に戻るはずだ。