無法地帯
朝、いつものように元気に廊下を駆ける子供達の声で目が覚めた。秋枝の親の事や央くんの事、保育士への不信感、色々な事を考えていたせいかやはり今日も寝不足だ。だけど悪夢は見なかった。
食堂に行くと、子供達がやりたい放題していた。私に向かって卵が飛んでくる。
「きゃっ、何なの!?」
100人の子供達の中に5人の悪ガキが居ればそこは無法地帯になる。床が卵と油でベトベトだ。
悪ガキ達は椅子を天井近くまで高く積み上げたり、食堂から盗って来た卵を投げたり、油を撒いたりしている。私は、近くに居た手頃な悪ガキを捕まえて聞いた。
「保育士はどうしたの? 答えなさい!」
「痛い! 離せよクソババア!!」
私は悪ガキを羽交い締めにして再度聞く。
「答えないとアンタの部屋の前にゲロ吐くわよ」
「知らないよ! 朝から居ないよ! 痛い、痛い、糞ゲロババアがいじめる~」
私は悪ガキを離すと急いでリビングまで走った。赤ちゃん達が心配だ。
リビングへ着くと赤ちゃんや小さな子供達は誰1人居なかった。保育士が連れて行ったのだろうか?
裏庭にも行ってみたが、やはり保育士の車は無かった。
「瑠璃一等兵、瑠璃一等兵。我等とともに来たれ」
後ろを振り向くと博と新聞紙で作った兜を被った翔ちゃんが居た。
「ただ今より、我等は保育士の部屋へ潜入する」
「ラジャー! 博大将」
翔ちゃんが私に一本の鍵を見せる。
「もしかして、保育士の部屋の鍵なの? 何故持っているの!?」
「博兄ちゃんが盗って来たんだ」
「いやあ、ちょっと鈍ってたけど上手くいったわ」
博は私と翔ちゃんの前で素振りをしてみせた。
「あんた、泥棒だったの!」
「いいから、いいから。お前だってあの保育士が何者なのか気になるだろ?」
博は保育士の何が気になると言うのだろう? 私と同じ不信感を抱いているのだろうか? でも、博に限って……
「博兄ちゃんがね、先生の部屋のベッドの下には男のロマンがあるはずだって言うんだ」
「へへへ……」
博が鼻の下を伸ばして不適な笑みをする。やはり、こいつはただのバカのようだ。