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七色のクレヨン

8月5日。デパートの絵画展へ行った帰りにお母さんがビニー&スミス社のクレヨンを買ってくれた。8色のきれいなクレヨン、私の宝物になった。


9月20日。教室で児童絵画展に出す絵を描いていると同級生が茶色のクレヨンを持って行ってしまった。返してもらいたくても、その子はそれ以降学校に来なかった。

お姉ちゃんが、もう諦めなさいと自分の茶色のクレヨンをくれた。


10月2日。部屋で絵を描いているとお皿の割れるような音がした。茶の間で誰かが騒いでいる。私が怯えているとお姉ちゃんが来て抱きしめてくれた。後ろにはお母さんもいる。


「ねぇ秋枝ちゃん、息をするのとクレヨンどちらがいい?」


お母さんが優しい笑顔で私に聞く。


「...クレヨン」


私はそう答えた。

お姉ちゃんは何も答えずに私をずっと抱きしめていた。


________


本格的な夏がやって来ると流石にワンパクおチビさん達も室内で過ごす時間が増える。

限られたスペースでも楽しく過ごせる遊びの代表格がお絵描きだ。


「たまご描いてテンテン♪ ほーし描いてテンテン♪ ひっくり返してイチゴさん♪」


保育士が絵描き歌を歌っている。


「さあ皆も先生と一緒に歌って描こう、さん、はい」


保育士が手を叩くと子供達が一斉に歌いだした。


「まーる描いてテン♪ タラコ描いてテンテン♪ かーびが生えたら乳汁呑爺♪」


アハハハハ


小さな子供達の間で乳汁呑爺が流行してしまった。これには少し保育士も困っているようだ。


「はいはい、お絵描きの時間は終わり。もう直ぐお昼ご飯だからお片付けをしてね」


保育士が少しきつめに言うが何人かは言う事を聞かず夢中で絵を描いている。

その中に秋枝の姿があった。姉の雪子と別行動をしているのは珍しい。


「秋枝ちゃんのクレヨンとても珍しいね」


保育士が散らばった蛍光ペンを片付けながら話しかける。


「お母さんに買って貰った物なの。アメリカ製よ」


「そう、先生も似てる物を持ってるんだよ」


そう言うと保育士はエプロンのポケットから手のひらサイズのクレヨンを取り出した。赤、橙、黃、緑、青、藍、紫のラメ入りのクレヨンだ。


「わあ! 虹色のクレヨンね」


「綺麗でしょ? この虹色クレヨンは先生のお気に入りなんだよ」


保育士は少し悲しそうな顔をしている。良く見るとケースに一本分スペースが空いていた。


「でもね本当はもう一色あったんだ」


「なくしたの?」


「妖精さんが持って行ってしまったんだ」


「うそだぁ」


「嘘じゃないよ。この世界には本当に居るんだよ。何時までも物を出しっぱなしで遊んでいると妖精の世界に持って行ってしまうんだ」


「私も一度盗られた事があるわ。あの子、妖精だったのかしら」


秋枝は保育士に笑いかけるとクレヨンを片付け始めた。


その日の夜、トイレに起きると秋枝が1人リビングで絵を描いていた。


「自分の部屋で描いたら?」


話し掛けると秋枝はびっくりした表情で言った。


「もう寝ようよって言われるかと思った。雪子お姉ちゃんが電気を消してくれって言うからここで描いてるのよ」


確かに以前の私ならそう言っていただろう。


「何を描いているの?」


「家族の絵を描きたいんだけど、お母さんとお父さんの顔がどうしても思い出せないの」


画用紙に秋枝と雪子、そして顔だけが無い両親が描かれていた。


「どうしたら思い出せるんだろうね。私も考えてあげるわ」


私は秋枝の頭を撫でながら言った。この園の子供達は本当に可愛い。

あなた達にとっての天国とは何なの? 何処にあるの? 何をしてあげたら幸せなの?



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